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お行儀見習い【リュカ】⑥
しおりを挟む数日経ち、リュカとの時間になったナターシャ。
「え?馬に?」
「はい………あの、馬に乗って連れて行きたい所がある、と仰ったので、今日連れて行って頂けないか、と…………駄目でしょうか……。」
サロンで待っていたリュカに、馬術着を着て、会いに行ったナターシャが第一声に発したのは、『馬に乗りたい』だった。
「いや、駄目じゃないが………今から行って帰ってとなると、夕食に間に合うかどうか………。」
「無理ならいいのです!お忙しいですし、時間が取れてからで………寧ろ、勉強にも時間を割いて頂いてるのも終わりにして頂いても………。」
サロンから、リュカと一向に目線を合わせないナターシャ。
リュカは苛立ちを覚えた。
「ナターシャは、唯一の俺の癒やしを奪うのか?」
「え?……そんなつもりでは………。」
「じゃあ、どういうつもり?」
「………じ、時間をわたくしの為に割いてほしいとは思っていないだけです。その前に、2人で行きたいと、仰った場所に行けたら、と………その後は、殿下方との時間ではなく、王族に入る身として、他の先生からの勉学に励みたい、と…………!!」
ドン!!
ドアの前に居たナターシャの直ぐ横を殴るリュカ。
その顔は明らかに怒っていた。
「愛している女から聞きたくなかったよ………。俺との時間を、俺がナターシャを連れて行きたい場所を最後に、終わらせたいなんて…………。」
「え?殿下、最後になんて意味では……。」
「じゃあ何だ!目も合わせず、いつもの微笑みも向けてくれず、俯いた暗い表情で………俺は…………何の為に努力してきたか………それも全部ナターシャの為に…………くっ………。」
「申し訳………ありま………!!」
ドン!!
「何故謝る!!」
初めてリュカが怒っているのを見て、怖くなったナターシャ。
ポロポロと涙が床に落ちる。
「………わたくし……は……決断した事を、リュカ殿下にお話………する場所を……そこでしたくて………。殿下の大切な場所だとお見受けしたので………わたくしは…………ヒック…………わたくしもリュカ殿下が大切な場所を大切な思い出にしたく………て………。」
ナターシャは溢れる涙を指で拭いながら必死で訴えた。
溢れる涙を見たリュカは、泣かせてしまった事に後悔する。
「…………分かった………セシルに後を頼んで来るから、ここで待っててくれ………。」
そう言い残したリュカは、サロンを出て行き、砕かれ穴が空いたドアに血が付いているのに気が付いたナターシャは、セリナを呼び手当て出来るように、包帯とガーゼを頼んだのだった。
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