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リュカの苦悩
しおりを挟むその日、コリンがナターシャに夕食を呼びに来たが、ナターシャは初めて断った。
コリンが聞いてもナターシャは理由を話さないので、兄達に話に行く。
「ナターシャが?」
ダイニングで既に待っていたタイタスに話ていると、リュカとトーマスもやって来る。
「どうした?ナターシャを迎えに行かないのか?コリン。」
「今日は一緒に食事したくない、て言って、理由聞いても答えてくれなくてさ。」
トーマスがコリンに聞いて、その言葉に4人が困惑する。
リュカには思い当たる事があったのだが、そうなる前は兆候も無かった筈だった、と思っていた。
「リュカ兄上!僕と別れた後何があったの!?」
「それが分かったら苦労しない!」
「え?どういう事だ?兄上。」
コリンとトーマスがリュカに詰め寄った。
「すまない、ナターシャは部屋で食べたいらしいから、彼女の分を運んでくれ。俺達も食べよう、話すから。」
リュカは侍女達に指示を出し、席に座った。
それに渋々従う弟達。
座ったのを確認すると、リュカは話始めた。
「コリンが去った後、ナターシャはコリンとの時間だったのを忘れてた、と言ったんだ。忘れていたのを笑ったら、ちょっと不貞腐れたから、可愛いなぁ、と言ってから、何を言っても考え事してるのか上の空だったんだよ。それ迄は、怖さを忘れさせる為に、色々……でも、終始笑顔だったな。」
「え?」
「それだけ?」
「あぁ……だから、何故かな、と思って夕食時に聞けたら聞こうと思ってた。」
「イチャイチャしてたじゃないか!」
コリンの言葉に反応するトーマスとタイタスは、リュカを睨む。
「イチャイチャ………?」
「兄上は、ナターシャとイチャイチャ出来てるんですか?」
「………さぁ…………?」
リュカはとぼける。
傍から見たらそう見えるのならそうかもしれないが、リュカはナターシャから何も聞けてないのだ。
「兄上!!」
「あのな、俺は実際に本気で口説いてる。フェデラーの上で、腰を抱き、照れているナターシャの耳元で可愛い、と何度も囁いて、耳にキスしたさ。だが、ナターシャからは、『好きです、殿下』とも『愛しています』も聞いた事は一切ない!俺は何度も愛してる、と好きだ、と言ってるんだ!」
徐々に声を荒げるリュカに、トーマスもタイタスもコリンも驚く。
普段、声を荒げる事をしないリュカを知る弟達はとてもびっくりしていた。
「兄上………。」
「あぁ………すまない、必死なんだよ、こう見えてもな。でなきゃ、夜会のダンスやドレスの事も、気付かなかったさ。」
リュカは初めてと言ってもいい程、弟達に吐露をする。
「お前達は知らない事なんだが、ナターシャが5歳で宰相に連れて来られたお茶会で、たまたま話をした事があるんだ、ナターシャと……。覚えてないだろうが、彼女が居たから皇太子で居られた……でなければ、とっくに壊れてた。」
「え?」
「兄上………壊れてた、て。」
トーマスが心配する。
「皇太子という肩書がどれだけ重圧か分かるか?幼かった俺は、皇太子妃の座を狙う年上の女達に追い掛け回された事を……。」
「…………。」
「僅か10歳かそれぐらいの歳の子供に、性の事など分かる訳がない。興味を持ち始めた頃に、香水臭い女達が周りを取り囲み、皇太子妃に、と言われて、犯され掛けた頃にナターシャに会った………何も知らず、無垢で明るい笑顔を振り撒き、自由なあの子が眩しかった……。あの子の言葉で励まされ、お茶会には必ずあの子を呼んでくれ、と父上に頼んだのも俺だ。頃合いを見て婚約を、と強請ったのも俺。父上は知っていたからな、年上の女達に、迫られ逃げていた俺を……だから、ナターシャを許婚に、と宰相に持ち掛けて今がある。心変わりはしなかったし、出来なかったよ……だから必死なんだ。」
「兄上………。」
弟皇子達は言葉が出ない。
「すまないな、お前達にナターシャは譲れない。」
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