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お行儀見習い【トーマス】②
しおりを挟むトーマスは以前図書館から持ってきた本を取り出す。
兄リュカがナターシャにした事が理解したからだ。
『俺の物だ』と言わんばかりの印に嫉妬する。
だが、同時に気付くべきだった。
リュカにも同じ印があった事を。
しかし、リュカはわざと自分の首筋は隠して夕飯を食べた。
リュカは、攻めて免疫を付けさせるより、如何にリュカに触れる事に慣れさせ、恐怖心を取り除くのに徹したのだ。
トーマスはソレに気付く事なく、ナターシャの部屋のドアをノックする。
カチャ。
セリナがドアを開け、トーマスに一礼する。
「トーマス殿下。」
ナターシャも一礼して出迎えた。
その姿にトーマスはドキッとする。
胸元が開いたドレスに、アクアマリンのネックレスが似合っていて、ドギマギさせた。
「やぁ、今日は一段と魅力的だね、ナターシャ。」
「本当ですか?私には大人っぽくないですか?」
ナターシャは照れている。
ほんのりと赤くなるナターシャだが、白い肌を際出させたキスマーク。
トーマスは握り拳を作り怒りを表した。
「大丈夫だよ、君の瞳と同じ色のネックレスがよく合っているよ。」
「はい、このネックレス素敵なので、身に着けてしまいました。」
ニッコリと笑うナターシャは、そのネックレスが誰からのプレゼントなのかを知らない。
セリナとライアはトーマスの後ろで顔を見合わせた。
「セリナ、ライア勉強始めるから。」
「はい、失礼致します。」
「何かありましたらお呼び下さい。」
トーマスはセリナとライアを下げて、机に向かうと、ナターシャも椅子に座った。
だが、その座った場所が悪く、ナターシャの左側。
(しまった!いつもこっちに座っていたから!丸見えじゃないか!)
トーマスが眼鏡を直し、目線をずらした。
「今日は何をするのですか?」
「………あ、あぁ、今日はこの本の朗読を。」
(そうだ、俺にはコレがあったじゃないか!)
ナターシャに渡した本は官能小説。
なんの気も無しに受け取り、読みすすめていくナターシャは、次第にじどろもどろとなっていく。
「『………首筋に伝う男の指は……徐々に胸元の……割れ………目………』……殿下………よ、読めません………。」
赤くなった顔が純真で可憐な少女。
何も知らないだろう、と思い、読ませてみたが、これ以上無理なようだった。
「実践してみたい?興味も無いの?」
「え!!」
ビクッとしたナターシャの首筋が物語る。
トーマスは首筋に手を延ばし、ナターシャに聞いた。
「昨日の夕食時にはあったから、その前……兄上に付けられた?コレ。」
コクン……。
「じゃあ、俺とも試せるんじゃない?」
「…………え………。」
(俺とは嫌って事か?)
逃げたそうに、怯えるような表情をしたナターシャに拒まれたような気がするトーマス。
「冗談だよ。官能小説を持ってきて悪かったね。ほら、君が選ぶ皇子と結婚したら、閨がやはり大事な事だから、知らなかったら怖い思いするんじゃないか、とね。」
「それは、初夜………ですか?」
「まぁ、はっきり言えばね?」
「そんなに、痛いのでしょうか……。」
「ブッ!!」
トーマスは思わず吹いた。
「トーマス殿下!?」
「そ、それは人それぞれじゃないかなぁ……。」
「母からは、逆らってはいけません、痛みに耐えなさい、としか教えてもらってないので……。」
「……………。」
(……これは、兄上苦労しそうだな……。教える気もないけど……ふっ。)
「殿下?」
くすくすと笑い始めたトーマスの顔を覗き込むナターシャ。
(あぁ、可愛いなぁ………悔しいから意地悪するかな。)
「ナターシャ、そういう官能小説より、閨に関する本が図書館にあるのを知っているかい?」
「図書館に?知りません。」
「これじゃなく、指南書を探してみるといいよ。だけど、勘違いしないでね、全て全部やらなきゃならない、という事はないし、お互いが気持ちを確かめ合う行為だから、ナターシャが嫌だったらやらなくていいんだ。」
「嫌だった……ら……。」
ナターシャは昨日を思い出す。
「では、昨日の事は嫌だった訳じゃなかったから良かったんですね!」
ポンッと、手を叩いたナターシャ。
「…………昨日、何やったの?」
「ヴァイオリンを弾いたんですけど、わたくし左指を弦で切ってしまいまして、それからはピアノを弾いたんです。リュカ殿下が左手パートを、わたくしが右手パートを弾いて、ミスしたらペナルティだ、と言って、この跡が……。」
「ナターシャがミスしたから付けられたの?」
「いいえ、リュカ殿下です。」
「は?」
「わたくしも、リュカ殿下に同じ事を。」
「え?」
「ミスしたら、ミスしなかった人がミスした側に希望を言うのです。わたくしは希望が無かったので、リュカ殿下はしたかった事なのだと。」
トーマスの頭の中はクエスチョンマークが飛び交う。
「ナターシャはミスしたら、兄上に何を希望されたの?」
「わたくしは……頬にキスと、殿下の耳を甘噛み……しました………!!」
思い出して口にしたら途端に恥ずかしくなってきたナターシャ。
(………なるほどねぇ……されるよりしてもらう方のが、男への恐怖心が薄れるからか。)
「やだ!恥ずかしい!!」
「ごちそうさま……。」
「はい?」
「いや………。」
トーマスが入れる隙はいつの間にか無くなったようで、兄とナターシャを見守る事になってしまった。
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