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お行儀見習い【リュカ】②

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「足はこの向き、足首だけで向けると足を痛めるから、膝関節と太腿もこの向き。」
「きゃっ!!」

 ドレスの裾から中にリュカの手が入り、向きを変えさせようとする。
 
「兄上!!」
「あぁ、ごめんごめん、急に触ってしまったよ。ナターシャ、分かった?この向きね。」

 全く悪びれる素振りもなく、ベタベタとナターシャに触れたのだ。

「で、腕もこう、顎も下に向け過ぎ、足元見過ぎ、見つめ合って踊れるようになったら、大分変わるよ。」

 顎くいもされ、リュカと見つめ合うナターシャは、真っ赤な顔になり照れ出した。
 これを見たトーマスは面白くない。

「兄上、役得じゃないか!俺より勉強出来るのに、何故ダンスなんだ、と思ったら、コレをしたかったのか!」
「人聞きの悪い……。修正する所があったから、直そうとしてるんじゃないか。まだ修正しがいがあるけどね。」

 理屈は分かる。
 どうやって動くかの修正は触られて意識を持って行くのが分かりやすいのだ。
 しかし、いきなり過ぎてナターシャは戸惑いを隠せない。

「ナターシャ?大丈夫?」
「!!………は、はい。大丈夫です。動きと向きに気を付けますので、もう一度お願いしても宜しいですか?」
「……可愛いね、ナターシャ。」

 素直で真面目なナターシャの頭を撫でたリュカ。
 スキンシップが好きなのだろう、とナターシャは思った。

「兄上~………。」
「トーマス、音。」
「………はいはい。」

♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫

 先程の曲とは違うなだらかなワルツを、トーマスは弾き始めた。
 ゆっくりなワルツになったからか、指摘された向きや角度を注視しながら、踊れるようになり、動きもスムーズになったのも自分でも分かる。

「うん、大分良くなったよ、ナターシャ。これで見つめ合いながら踊れると、君の可愛い唇にキスしたくなる男が増えるね。」
「………キスだなんて………そんな……。」

 耳元に囁くように、リュカはナターシャに呟いた。
 トーマスにはピアノの音で聞こえないない様子。

「指南するのはスローテンポのワルツだけじゃないからね、曲調ごとにステップも教えていかなきゃならないから、頑張ろうね。」
「はい。」

 ダンスのレッスンが終わり、リュカはトーマスに詰め寄られていた。

「兄上!!初日からベタベタと触り過ぎではありませんか!」
「指南するには触るしかないじゃないか。」

 リュカは仕方ないという顔ではあるが、目は嬉しそうに輝きを保っている。

「次回は俺にダンスをやらせて下さい。」
「え~~~!!」
「夜会に出る機会もあります、いろんな男と踊れるようにならなければ!」
「トーマス……ダンスの指南は俺でいい、と初めに言っていたじゃないか。平等に決めたろ?」
「た、確かにそうですが………。」
「文学の勉強も、工夫すればいい。堅物のお前でも、ナターシャに触れられる事も出来る筈だ。」
「………………ふふふふふふ……。」
「トーマス?」

 トーマスも何やら企むようだった。
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