3 / 100
突然、【お行儀見習い】?
しおりを挟むウィンストン公爵邸では、末娘のナターシャの誕生日パーティーが開催され、公爵が招待した貴族や、ナターシャの友人達が、ナターシャを祝った。
「おめでとう、ナターシャ。」
「ありがとう、リーサ。そして来てくれてありがとう。」
ナターシャは来賓全員に、お礼の挨拶をして回っていた。
「ウィンストン公爵、ナターシャ嬢も大人の仲間入りですな。」
「えぇ、やっと少し肩の荷が降りましたよ。」
「これからは、伴侶探しが忙しくなりますなぁ、どうです?我が家の息子は。17でまだ身を固める気配がないんですよ、ナターシャ嬢の愛くるしさを見たら、息子もその気になるかな、とね。今すぐではないでしょうが。」
「申し訳ありませんが、ナターシャには許嫁が居るのですよ。今日はこちらには来られないですがね、16歳になる頃には嫁がせようと考えておるのです。当人同士次第ではありますがね。」
「おや、残念ですなぁ。」
親の立場である大人達は、この日の主人公を他所に下心を見せていた。
ナターシャが住む国、レングストンでは14歳を目安にして、親が結婚相手を探す事が多く、特に女児は16歳前後で婚姻を結ばせられている。
男児は爵位継承問題もあるので、婚姻が遅れる事もあるのだが、20歳迄には結婚するケースが多かった。
しかし、ナターシャは既に許嫁が5歳の時に親のウィンストン公爵が決めている。
会った事も無い、名前も年齢も知らない相手。
その相手にウィンストン公爵はいつ会わせてくれるのだろうか、とナターシャは思っていた。
公爵家に産まれた為に、自分が求める相手では決してないとは覚悟もしているナターシャ。
我儘が言えない時代だったのだ。
結婚相手を見つける節目となる14歳の誕生日は、ナターシャが思っていた雰囲気では無かった。
ウィンストン公爵が来賓客と、ナターシャの伴侶の話ばかりしていたのである。
そして繰り返す「許嫁が既に居る」の言葉。
しかし、その相手はこのパーティーには居ないのだ。
「…………お母様、許嫁の方は来られないのですね、会わずに結婚させるおつもりなんですか?お父様は………。それとも許嫁が居るのは嘘なのでは?」
ナターシャは、父の素振りが不審で仕方がないので、母に伺いを立てる。
「こちらには来られない方なのよ。仕方がないわ。」
「……………一体何方なのです?」
「お父様が仰らないのだから、お母様からは言えないわ。」
母も、来賓の奥様方との談笑をしているのを遮って迄ナターシャは聞いたのに、こちらも話をしてくれないのだった。
パーティーも終わり、ナターシャは来賓達を見送った後、部屋に戻ろうとしたのを、父に呼び止められた。
「ナターシャ、少し話をさせてもらえるか?」
「………何でしょう、お父様。」
「こちらへ。エマ、セシル、カイルも来てくれ。」
父の書斎に連れ込まれた、ナターシャ。
「ナターシャ、明日から許嫁が居られる邸に、【お行儀見習い】に行くように。」
「………お、【お行儀見習い】?」
「言い換えたら、花嫁修業だな。あちらには、明日から伺うと伝えてある。」
「急ではありませんか!お父様!」
「ナターシャ以外は、このお話は知っていたの、ごめんなさいね。………あちらに事情があったものだから。」
母が少し困り顔をしながら、自分の頬に手を当てる。
「何ですの?事情、て。」
「明日、行けば分かるよ、ナターシャ。」
セシルが明るく言うが、
「今知りたいですわ!」
「この縁談話があった時の約束ではあったんだが、明日には分かるから話してもいいか………。」
父は顔の前に手を組み、溜息をついた。
「ナターシャ、お前の許嫁は4人居るのだ。」
「……………よ、4人!!お父様!!何なんですか!それでも人の親ですの!?」
「まぁ、聞きなさい。その4人の中の方から、ナターシャと相性の良い方を、という話だ。ナターシャ以外にも同じように、【お行儀見習い】に入る令嬢も他に3人居る。ナターシャ含め、年頃になる令嬢の中で、ナターシャが一番年上だ。年功序列でナターシャが先に【お行儀見習い】に入り、16歳になる迄に、一人の方の伴侶とされるか見極められるのだ。」
「……………方?……身分が上ですの?…………も、もしかして、王家の?」
「察しがいいね、ナターシャ。そう、ナターシャのお相手は、皇太子殿下のリュカリオン様、第二皇子トーマス様、第三皇子タイタス様、第四皇子コリン様の誰かだよ。」
カイルが明るく名前を明かす。
「王宮でお茶会があるだろう?幼いナターシャがお茶会でピアノを弾いた時に、陛下と皇妃様の目に止まったんだ。まだ幼かったリュカ殿下、トーマス殿下、タイタス殿下も、ナターシャのピアノを聞いていて、ナターシャを気に入られた、と仰ってね。陛下からのお言葉だ、他の貴族へ嫁がせるような事は出来ないからね、ナターシャには許嫁が居る、と言い聞かせていたんだよ。」
ナターシャは目先が真っ暗になって、呆然としたのだった。
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる
しおの
恋愛
家族に虐げられてきた伯爵令嬢セリーヌは
ある日勘当され、山に捨てられますが逞しく自給自足生活。前世の記憶やチートな能力でのんびりスローライフを満喫していたら、
王弟殿下と出会いました。
なんでわたしがこんな目に……
R18 性的描写あり。※マークつけてます。
38話完結
2/25日で終わる予定になっております。
たくさんの方に読んでいただいているようで驚いております。
この作品に限らず私は書きたいものを書きたいように書いておりますので、色々ご都合主義多めです。
バリバリの理系ですので文章は壊滅的ですが、雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
読んでいただきありがとうございます!
番外編5話 掲載開始 2/28
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる