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アリシアの帰郷①

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 アリシアはアニースの心配ばかりしてしまう。
 自分の帰郷が近付く事も忘れ、トーマスが講師の日の夜、目を腫らしたアニースがアリシアの目の前で夕飯を食べていた。

「アニースお姉様!!わたくし、アニースお姉様の味方ですからね!あの女達追い出しましょう!!」
「…………アリシア……あなたはそんな事しなくても、ウィンストン公爵達が頑張ってくれているから。」
「だって、そんな目を腫らして!泣かされたんですよね?あの女達に!」

 メインの肉を口に含んだアニースは咀嚼後、訂正をアリシアにする。

「………あぁ、これは溜まりに溜まった膿を出したようなものだ………ずっと、泣けなかったから………ジャミーラとヘルンが父の事を心配していなかった事に腹を立ててしまって、平手打ちしてきたよ。それで箍が外れたんだ。」
「…………幾分かスッキリした顔されていたのはそれでですか。」
「うむ。」
「わたくし………アードラに帰っても、アニースお姉様の事が心配し過ぎて、直ぐにレングストンに戻ってきてしまいそうです……。」
「アリシアにはアリシアのするべき事があるだろう?」
「……………それでも、わたくしよりもアニースお姉様の大変さを思うと………。」

 アリシアは、気になる事があるとなかなか食が進まない。
 この日もまた、パンを千切っては口に入れる事もなく遊んでいるようだった。
 
「アリシア、パンで遊ぶんじゃない。話は終わり!食べよう。」
「………はい。」

 食事を何とか終えたアリシアは、アードラの父アドラードから送られた手紙を読む。
 回復したものの、まだアリシアの記憶の中の字ではないアドラードの字が、苦労を物語っていた。
 手紙には、アードラ国内が落ち着いて来た事、それによりアルフレッドが法改正により、王太子として政に携わる事に決まったとの事だった。
 これにより、18歳にならなくとも王位継承権を獲得し、アドラードがアードラを率いれなくなったとしても、代行がアルフレッドの元、国を動かす事が出来るという。

(…………わたくしにはわたくしのやるべき事………か。)

 何度もアドラードの手紙を読み返し、アードラに思いを馳せるのは間違えではないアリシア。
 だが、心はレングストンに居たかったのだ。
 そんな日を過ごすアリシアに、招かれざる客が到着する。
 ロバートだった。

「アリシア様、お迎えに上がりました。」
「…………ロバート……。」
「陛下とアル様、アマンダ様もお帰りを待ち望んでおります。」
「…………分かってる…………分かってるわ。」
「……………アリシア様のお気持ち、陛下にお話する事が、今後のアリシア様の未来が拓けるのですから。」
「……ロバートは知っているの?わたくしの気持ちが何処にあるか……。」
「…………アル様から伺っております。」

 アリシアが、レングストンで過ごした部屋が重い空気が流れる。
 侍女達はアリシアを心配そうに見つめていた。

「…………皆、荷造りを手伝って。荷造り出来て、王族の皆様にご挨拶出来たらアードラへ出発するわ。ロバートは皇帝陛下に謁見を求めて頂戴。」
「畏まりました。」
「……………カイル……。」

 アリシアは、カイルから貰ったネックレスを握り締めた。
 それからは、目まぐるしく動くアリシア。
 餞別ではないが、世話になった王族の面々に、アリシアがひと針ひと針縫った刺繍をしたハンカチを人数分作っていたのを用意する。
 皇帝や皇妃に挨拶をした後、アリシアは皇太子邸にやって来る。
 通常なら、リュカリオンは執務室に居る時間ではあったが、アリシアの為に時間を作り皇太子邸に居てくれた。

「寂しくなるな、アリシアが居なくなると。」
「…………えぇ………アリシア様……お身体にはお気を付けてお帰り下さいね。」
「ナターシャお姉様………リュカ殿下………わたくしも寂しいです………でも、わたくし必ず戻って来ますから!レングストンに!………戻って必ず、カイルに嫁ぎに来ます!」
「………アリシア様……そうなる事、わたくしも願っておりますわ。本当に姉妹になれるのを楽しみにしております。」

 ナターシャはリュカリオンから聞いていたのだろう。
 別段に驚く事もないようだった。

「ナターシャお姉様、健やかなお子様をお産み下さいね!ヴィオちゃん!暫く遊べなくなっちゃうけど、また遊びに来た時は一緒に遊ぼうね!」
「…………はい!アリシャねぇたま!」

 アリシアは可愛がっていたヴィオレットを抱き締めると、ヴィオレットも抱き締め返す。
 リュカリオンの髪色に似た金髪のヴィオレットは、カイルの金髪を思い出させてしまう。
 涙を堪えるアリシアに、ナターシャもリュカリオンも黙って見守った。
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