73 / 102
未来の嫁?
しおりを挟む「ア、アードラより留学中のアリシア・ヴィセ・アードラと申します!」
カイルの馬車に乗り、ウィンストン公爵家のカイルの王都の邸、実質は父親である宰相の邸なのだが、馬車で邸に帰って来たカイルが着替えにただ、立ち寄っただけのアリシアの、カイルの母、エマへ挨拶の風景。
緊張したアリシアを見て、微笑む母エマ。
「アリシア王女様、我が家にお越し頂きありがとうございます。ウィンストン公爵より、お話を伺う事ありますわ。娘、ナターシャ妃と親しくして頂きありがとうございます。」
「い、いえ!こちらこそ、ナターシャお姉様には、刺繍等教えて頂き、嬉しく思っておりました。」
深々と頭をエマにされ、アリシアも深々と頭を下げた。
将来、義理母になる可能性もあるのだから、失礼があってはならない。
「何してんだ、ほら行くぞ、アリシア。」
帰って直ぐ、軽装に着替えたカイルが玄関ホール前で挨拶しあうアリシアとエマに割って入る。
「…………カイル、王女様にそのような口は慎みなさい。」
「親父から聞いてるでしょう?………彼女がそのアレですよ?」
「そうだとしても、まだでしょう?わきまえなさい。」
「…………分かってますよ。」
カイルがアリシアの腕を掴み、ウィンストン公爵邸を出ようとする。
「し、失礼します!お義母様!!」
思わず言ってしまった、アリシア。
「!!………おまっ!」
「………はっ!!」
カイルに馬車に押し込まれ、いきなり怒鳴られたのは言うまでもない。
「お前な!まだ嫁じゃないだろうが!」
「ご、ごめん!思わず……。」
だが、アリシアは嬉しかった。
カイルがまだ嫁じゃない、と言ってくれたのが……。
まだ、と。
「………ったくよ~……我慢させられる身にもなれ………。」
(……トーマス殿下が言ってた……カイルは我慢してる、て………。)
アリシアは頬が火照った気がして、顔を手で覆う。
照れられてるのに気付くカイルは、アリシアの頭をゴツく。
「痛っ!」
「何照れてんだよ!」
「駄目なの!?照れちゃ!」
「駄目。」
「……………いいじゃない、夢ぐらい見たって。」
「…………まだ『女』の顔見せるんじゃねぇよ!俺に!」
「あ、我慢してるんだって?」
クスクスと小悪魔のようにほくそ笑むアリシアは、
横に座るカイルの顔を覗くと、カイルは耳迄真っ赤になり、アリシアから離れた。
「だから、頼むから………。」
「!!」
アリシアは聞こえた。
小声で呟くカイルの声を。
『今はまだ我慢させてくれ……。』
幼女趣味じゃない、と信じたいカイルに、勘違いさせているアリシアなのだと、まだそういう事がアリシアには分からないのかもしれない。
馬車の中の2人きりの空間が早く終わらないか、とカイルは願う。
2人きりになると、どうなるかが不安だったのだ。
理性を止める為に、今迄の努力が水の泡と化すのだ。
「カイル…………ごめんなさい。楽しみたいだけだったの。」
「…………楽しめ………付き合ってやるから。」
恋愛経験豊富なカイルを悩ませる小悪魔アリシア。
少しシュンとするアリシアを見ると、甘い顔を惚れた弱みなのか、カイルはアリシアの頭を撫でた。
「へへへ………。」
カイルの手の温もりの暖かさに、アリシアは照れた。
少女の可愛さの微笑みはカイルは見たくない物なので、そっぽを向いた。
暫く沈黙が続き、馬車が止まる。
「カイル様、貴族街入り口ですが、ご指示通り、こちらで宜しいのですか?」
「あぁ、ここでいい。一応、街に部下配置してるな?」
「はい。」
「アリシア、降りるぞ。」
「あ、うん!」
カイルが先に降りるとアリシアに手を差し伸べる。
「…………いいの?」
「何が?当たり前だろ?」
「…………そう………なんだけど、ちゃんと扱ってくれたのが嬉しいな、て。」
「…………阿呆か、誰であろうと女なら手を差し伸べるぞ………まぁ、こういうのも母親以外最近しねぇけど。ほら、早く降りろ。」
「う、うん。」
エスコートしてくれた事も嬉しかったが、貴族街から平民街に出る時も、アリシアの歩幅に合わせ歩いてくれるのだ。
「5年経ちゃ、身長伸びるよな……つか、伸ばせ。」
「伸びるよ!絶対に!胸も大っきくするんだから!」
「声でけぇよ!」
ぜぃぜぃと、息切れもしているアリシア。
まだカイルの歩くペースに合わせるのがやっと。
カイルも遅くはするが、徐々にペースが上がるのだ。
「ま、身体の成長は早い方が良いような悪いような……。」
「え?何て言ったの?」
「お前は知らんでいい。」
「だって、カイル背が高過ぎて、聞き取り難いんだもん!」
身長差はカイルの胸の辺りがアリシアの後頭部。
カイルは、アリシアの成長が楽しみではあるが、あまり絶世の美女になってほしくない、と思ってはいた。
(…………只でさえ、可愛い顔付きに、天然パーマの銀髪で人形みたいなヤツが、大人なったら、引く手あまたじゃねぇか。オッサンになった俺なんかより、若い男に行かれちゃ困んだよ………。)
待つと決めてはいるものの、未だに気持ちは揺れ動くカイルだった。
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。
ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。
ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。
保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。
周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。
そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。
そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる