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未来の嫁?

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「ア、アードラより留学中のアリシア・ヴィセ・アードラと申します!」

 カイルの馬車に乗り、ウィンストン公爵家のカイルの王都の邸、実質は父親である宰相の邸なのだが、馬車で邸に帰って来たカイルが着替えにただ、立ち寄っただけのアリシアの、カイルの母、エマへ挨拶の風景。
 緊張したアリシアを見て、微笑む母エマ。

「アリシア王女様、我が家にお越し頂きありがとうございます。ウィンストン公爵より、お話を伺う事ありますわ。娘、ナターシャ妃と親しくして頂きありがとうございます。」
「い、いえ!こちらこそ、ナターシャお姉様には、刺繍等教えて頂き、嬉しく思っておりました。」

 深々と頭をエマにされ、アリシアも深々と頭を下げた。
 将来、義理母になる可能性もあるのだから、失礼があってはならない。

「何してんだ、ほら行くぞ、アリシア。」

 帰って直ぐ、軽装に着替えたカイルが玄関ホール前で挨拶しあうアリシアとエマに割って入る。

「…………カイル、王女様にそのような口は慎みなさい。」
「親父から聞いてるでしょう?………彼女がそのですよ?」
「そうだとしても、でしょう?わきまえなさい。」
「…………分かってますよ。」

 カイルがアリシアの腕を掴み、ウィンストン公爵邸を出ようとする。

「し、失礼します!お義母様!!」

 思わず言ってしまった、アリシア。

「!!………おまっ!」
「………はっ!!」

 カイルに馬車に押し込まれ、いきなり怒鳴られたのは言うまでもない。

「お前な!嫁じゃないだろうが!」
「ご、ごめん!思わず……。」

 だが、アリシアは嬉しかった。
 カイルが、と言ってくれたのが……。
 、と。

「………ったくよ~……我慢させられる身にもなれ………。」
(……トーマス殿下が言ってた……カイルは我慢してる、て………。)

 アリシアは頬が火照った気がして、顔を手で覆う。
 照れられてるのに気付くカイルは、アリシアの頭をゴツく。

「痛っ!」
「何照れてんだよ!」
「駄目なの!?照れちゃ!」
「駄目。」
「……………いいじゃない、夢ぐらい見たって。」
「…………『女』の顔見せるんじゃねぇよ!俺に!」
「あ、我慢してるんだって?」

 クスクスと小悪魔のようにほくそ笑むアリシアは、
横に座るカイルの顔を覗くと、カイルは耳迄真っ赤になり、アリシアから離れた。

「だから、頼むから………。」
「!!」

 アリシアは聞こえた。
 小声で呟くカイルの声を。

『今はまだ我慢させてくれ……。』

 幼女趣味じゃない、と信じたいカイルに、勘違いさせているアリシアなのだと、まだそういう事がアリシアには分からないのかもしれない。
 馬車の中の2人きりの空間が早く終わらないか、とカイルは願う。
 2人きりになると、どうなるかが不安だったのだ。
 理性を止める為に、今迄の努力が水の泡と化すのだ。

「カイル…………ごめんなさい。楽しみたいだけだったの。」
「…………楽しめ………付き合ってやるから。」

 恋愛経験豊富なカイルを悩ませる小悪魔アリシア。
 少しシュンとするアリシアを見ると、甘い顔を惚れた弱みなのか、カイルはアリシアの頭を撫でた。

「へへへ………。」

 カイルの手の温もりの暖かさに、アリシアは照れた。
 少女の可愛さの微笑みはカイルは見たくない物なので、そっぽを向いた。
 暫く沈黙が続き、馬車が止まる。

「カイル様、貴族街入り口ですが、ご指示通り、こちらで宜しいのですか?」
「あぁ、ここでいい。一応、街に部下配置してるな?」
「はい。」
「アリシア、降りるぞ。」
「あ、うん!」

 カイルが先に降りるとアリシアに手を差し伸べる。

「…………いいの?」
「何が?当たり前だろ?」
「…………そう………なんだけど、ちゃんと扱ってくれたのが嬉しいな、て。」
「…………阿呆か、誰であろうとなら手を差し伸べるぞ………まぁ、こういうのも母親以外最近しねぇけど。ほら、早く降りろ。」
「う、うん。」

 エスコートしてくれた事も嬉しかったが、貴族街から平民街に出る時も、アリシアの歩幅に合わせ歩いてくれるのだ。

「5年経ちゃ、身長伸びるよな……つか、伸ばせ。」
「伸びるよ!絶対に!胸も大っきくするんだから!」
「声でけぇよ!」

 ぜぃぜぃと、息切れもしているアリシア。
 まだカイルの歩くペースに合わせるのがやっと。
 カイルも遅くはするが、徐々にペースが上がるのだ。

「ま、身体の成長は早い方が良いような悪いような……。」
「え?何て言ったの?」
「お前は知らんでいい。」
「だって、カイル背が高過ぎて、聞き取り難いんだもん!」

 身長差はカイルの胸の辺りがアリシアの後頭部。
 カイルは、アリシアの成長が楽しみではあるが、あまり絶世の美女になってほしくない、と思ってはいた。

(…………只でさえ、可愛い顔付きに、天然パーマの銀髪で人形みたいなヤツが、大人なったら、引く手あまたじゃねぇか。オッサンになった俺なんかより、若い男に行かれちゃ困んだよ………。)

 と決めてはいるものの、未だに気持ちは揺れ動くカイルだった。
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