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ウィンストン領主誕生

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「私をトーマス殿下の副官から下ろして下さい。」
「カイル!!」

 カイルの一言で、ウィンストン公爵が声を荒らげる。
 しかし、皇帝はウィンストン公爵を静する。

「………カイル………何故だ?」
「元々、トーマス殿下がウェールズ領主になられる迄、副官の任の頂く事になっておりましたが、私はその前に父が領主を勤めるウィンストン領土に引き篭ろうと思います。元より、その予定ではありましたし、それが早まっただけの事。そして、新たにトーマス殿下の副官にコリン殿下をお願い致します。」

 カイルは皇帝の前で跪き、頭を下げた。

「まだコリンでは荷が重いとは思わないのか?カイルは。」
「勿論、直ぐにとは申しません。引き継ぎも含め、私がトーマス殿下の副官として勤めあげた経験をコリン殿下へお伝え致します。いずれ、トーマス殿下もウェールズ領主となられる身。トーマス殿下が居なくなった職を誰が担いましょうか………次期皇帝となられるリュカ殿下を支える為に、世代交代に備え、私はコリン殿下にお願いしたいのです。」
「カイル!口が過ぎるぞ!陛下はこの先の事を考えておられる!」
「宰相…………よい。」
「申し訳ありません、陛下!!」

 ウィンストン公爵もカイルの横に並び跪き、頭を下げる。
 そして、また黙って聞いていたセシルもカイルをウィンストン公爵と挟み跪き頭を下げる。

「宰相、カイル…………。」
「はっ!」
「はい!」
「私も、トーマスがウェールズ領主になる、と申し出た頃から考えてはいた事だ。ラメイラ妃と結婚を決めた頃迄は悩んでおったトーマスが意を固めた時にな………だからカイルもトーマスがウェールズ領主になったら、と其方も早い段階で任を下りる、と私も宰相から聞いておる。そうなれば、リュカを支える者が減り、コリンを軍から入らせ鍛え上げて、重要な役職を、と考えていた私の計画は崩れてしまう、とな………だが、カイルの意思は固い…………良いだろう、カイル。其方の補佐として、コリンを鍛えてやってほしい。身分が上と思うな、其方の経験をコリンに詰め込んでくれ。」
「陛下…………よろしいのですか?息子の意見を鵜呑みにして……。」

 ウィンストン公爵とセシルは頭を上げた。

「仕方なかろう、いずれはトーマスの役職をコリンに、と思っておったしな。早まっただけだ。副官の方が何かと仕事が多いだろう。泣き言をコリンが言ったら叱り飛ばして構わん。」
「聞き入れて頂きありがとうございます、陛下。」

 カイルは床に頭が付く程、頭を下げた。

「所でカイル。私からも聞きたい事があるのだが?」
「はい。」
「頭を上げよ。」
「はっ!」
「アリシア王女との事はどうなったのだ?」
「!!…………ア、アリシア王女と…………ですか!?」

 精悍な顔立ちのカイルが急にじどろもどろし始め、それを見たリュカリオンは笑いを堪えた。

「コリンの事は気にするな。其方はアドラード王の命を救ったのだ。はあったのだろう?例えば…………アリシア王女とか………。」
「!!」
「カイル、正直に聞かせてくれよ、どうなんだ?」
「リュカ殿下迄!!」

 面白い話なので、リュカリオンは乗っかる。

「カイル、正直に言いなさい。陛下と皇太子殿下の御前だぞ!」
「……………父上………迄………た、確かには申し出ありました。ご推察通り、アリシア王女です。」
「ほぉ…………それで?」
「………アリシア王女の年齢的な事もありますので、アリシア王女が16歳になる迄心変わりしなければ…………そのは受け取る………と。但し、17歳迄は待てない、と伝えて参りました。」
「カイル、何で17歳では待てないんだ?」
「…………そ、それは………心変わりするかもしれませんから………そうなれば私は諦めが付くと………。」
「…………なるほど………父上、私は反対しません、とお話してますが、それはカイルの話を聞いても反対は無いです。」

 リュカリオンは嬉しそうに皇帝に意見を述べた。

「うむ………宰相は?」
「私は、陛下と皇太子殿下が良いのなら、従う迄です。」
「では、カイル………そうするが良い。その頃には其方はウィンストン領主になっておるだろう。アリシア王女が領主夫人でも良いと言うなら、私も何も言わん。」
「…………ありがとうございます………陛下……。」

 カイルは再び頭を下げたのだった。
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