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剥奪

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 アドラードがアマレスを投獄した頃、牢獄に入っていたナバーロを入れ違いに出したロバート。

「ナバーロ!!お主帰っておったのか!」
「…………宰相、お助けを………!!」

 鉄格子を挟み、兵士に拘束されて歩くアマレスに助けを求めた所で、ナバーロも察する。
 アドラードが病に伏せっているのに、何故宰相が拘束されたのかが疑問に残るものの、第二責任者である宰相が兵士に自由を奪われている光景を目の当たりにしては、ナバーロもタダでは済まないのだ、と。

「ここに入っててもらう。」

 アマレスを牢獄に閉じ込め、兵士達はナバーロに声を掛けた。

「ナバーロ、出ろ!今よりアドラード王から詰問がある!」
「アドラード王だと!寝たきりだった筈だ!」
「いいから出るんだ!」

 何が何だか分からず、兵士の言う通りに出るしかなかったナバーロは、手を縛られ兵士に連れて行かれた。
 先程、アマレスが捕まった会議室に連れて来られたナバーロの前には健康そうなアドラードと、ナバーロが見慣れないトーマス、カイル、アルフレッド、ロバートが待ち構えている。
 そして、遅れてマルシアがアーサーを連れてやって来た。

「…………マルシア……。」
「あら、お父様………マリージョからいつお戻りに?」
「…………。」

 マルシアの言葉には答えず、肩を落としたナバーロ。

「アドラード様…………な、何故起きて……。」
「只今より外務大臣ナバーロ、その娘マルシアに処分を言い渡す。」

 アドラードもまた、マルシアの言葉を聞き入れる事は無い。

「外務大臣ナバーロ、犯罪者アマレスと共に王である私を病に見せかけて毒で殺害しようとした殺人未遂、アードラ資産横領及び近隣諸国への侵略行為、マリージョへの資産横流し、娘マルシアの不貞を知りながら証拠隠滅の疑いにより、お前を外務大臣の任を外し、爵位剥奪を言い渡し、娘マルシアには父、ナバーロ同様、殺人未遂、アマレスとの不貞により側妃の身分を剥奪。アマレスとの間に生まれた息子アーサーの王位継承権を破棄するものとする。お前達は、裁判に掛け、処罰を後に知らせる。それ迄牢獄の中で謹慎せよ!アーサーは王族の地位から落とし、一人の臣下として、アードラに使えよ。」
「…………なっ!アドラード様!アーサーはあなた様の子ですわ!何を馬鹿な事を!」

 マルシアは慌てて否定する。
 ナバーロは観念したのか肩を落としたままだった。

「証拠ならありますよ、マルシア側妃がアマレス宰相との不貞によりアーサー王子を産んだ事の証明が。」
「誰なのです!あなた達は!」
「名乗った所であなた方との付き合いはしませんし、忘れて頂いて結構です。ただ私達は、アードラと国交のある国の者。我が国は医療が発達してまして、血液から親子関係が分かるんですよ。最近採血させて頂いたのはお忘れか?」

 トーマスは名乗る事もせず、以前会った他国の皇子の顔さえ覚えていないマルシアには敬意を払う事も嫌がった。

「………そんな事で分かるものか!」
「それが分かるんですよ。親子の顔付き、髪色は遺伝子から来る物。我が国は血液の中にその遺伝子がある事に気が付きまして、アーサー王子の父親が、アドラード王の遺伝子よりアマレスの遺伝子の方がより親に近いと出ましてね。何でもその頃しきりにアマレスはあなたに会いに行っていたという証言も入手しまして、血液検査をさせてもらったしだいです。」
「………………あぁぁ………………揉み消したと思っていたのに……。」

 今度はカイルが医学的観念から説明をすると、マルシアはその場に座り込んだ。

「ナバーロ、マルシアを投獄せよ、アーサーは私室で処罰を下す迄謹慎せよ。」
「父上…………ではなかったのですか?」
「アーサー………残念だが、もう王子として認める訳にはいかん、すまぬな。」

 黙って事の成り行きを見るしかなかったアーサーは悲しい顔をする。
 その顔を見ていたアルフレッドだが、声を掛ける気にもなれない。
 アドラードを裏切った証拠でもあるアーサーに優しい声等掛けてはこれから先の甘えになってしまうからだった。

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