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父の心配

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 トリスタン公国。
 レングストンから宮殿に手紙が届いたのは、ラメイラが懐妊して直ぐの事。
 リュカリオンが、ラメイラの懐妊を知らせたのだが、それはラメイラの父からすれば大喜び出来る内容ではなかった。
 トリスタン王は、エドワードを呼び付ける。

「どうした?父上。」
「ラメイラが妊娠した。」
「めでたいじゃないか!今日は祝だな!」
「エドワード………暫く留守を頼む。私はレングストンに行ってくるから。」
「………え?何故?」
「…………ラメイラが、出産時に死ぬんじゃないか、と恐怖心に苛まれてるらしい。」

 執務室に冷やかな風が流れる。

「母上の事と重ねてるのか?」
「恐らくな………出産時に母親が死んだのを見ているから怖くなったんだろう。」
「でも、あれは仕方なかったじゃないか!もう1人の子が腹の中で死んで、腹から取り出さなきゃ、レックスだって死んでしまうから………母上は自分も死んでもいいから、レックスを助けてくれ、て言って!」
「ラメイラは母親が死んだ事の方が辛かったからな………誰のせいでもないのだがな。」
「それを伝えに行くのか?」
「手紙で伝えても心配は拭えん。」
「…………分かった、こっちは任しといてくれ。」

 トリスタン王は直ぐ様、リュカリオン宛に手紙を書いた後、翌日にはレングストンへ旅立った。
 2週間程の道程であった。

✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧

 アードラ王宮
 アドラードは強ばっている身体を解しながら、医師の指示の元運動を始めていた。
 体内の毒も無くなり、あとは今迄のような体力に戻す事を目指している。

「本当に素晴らしい薬だ。まさかここ迄回復出来るとは。」
「カイル様は薬学に精通されておられますから。ウィンストン領主になられる事が決まっています。」
「レングストンの薬草の産地だな………そうかそれは素晴らしい逸材だ。」

 ヴァン子爵や他の医師達からはカイルの事を悪く言う者は居ない。
 アドラードはカイルとの会話を思い出す。

(………アリシアはカイル殿に素を見せていそうだな。いい傾向ではないか、のびのびした生活が出来て、窮屈だったアードラの王宮ではアマレスの目があって、いつ攫われるか分からなかったからな……。)

 アドラードは、アリシアの婚姻相手をコリンに拘ってはいなかった。
 アリシアの幸せをただ願うだけ。

(アルは親友であるコリン殿下と結婚させたがってるようだが、まぁ仕方あるまい。コリン殿下を反対したら、ロバートと、と言いかねんしな………。)

 ロバートは論外。
 それはそうだろう。
 ロバートはアルフレッド第一に考える性格で、妹のアリシアだろうと、アルフレッドと意見が違うと説教をするぐらいの男。
 アリシアはロバートを毛嫌いしているのを知っている。

(…………アリシアの気持ちを確かめねばな……。ロバートもカイル殿には一目置く程だ。)

 アドラードの中では意思は固まった。
 あとは正妃とアルフレッドがどう言うか……。

(さて、国交を再締結させたらアリシアを帰国させ、レングストンの結婚可能年齢迄にアリシアをさせねばな。)

 やらなければならない事が増えた。
 そう思えば多少の苦痛も堪える事等簡単なもののように思えたアドラードだった。
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