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秘密の通路

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 仁王立ちしたカイルがアリシアを見下ろしている。

「あは…………ははは………ごめんなさい……見ちゃった。」
「………まぁ、いい……ここに居ると女に見つかるから行くぞ。」
「何処に?」
「隠れ場所。」
「?」

 アリシアとカイルが一緒に居る所を見られては、噂が立ってしまう。
 カイルはスタスタと歩き出した為、アリシアは駆け足でついて行った。
 王城の裏の茂みに着くと、辺りを見回すカイル。

「ほら、そこの茂みの裏に回れ。」
「ここ?」
「扉がある。」
「…………あ、本当にある。」

 見回したカイルは、鍵を取り出し、扉を開けた。

「入れ。」
「え?いいの?入って。」
「構わん………皇太子邸の方から回ると人目に付くからな。」

 アリシアは扉の中に入る。

「え!」
「ほら、早く入れ。」
「カイル様…………この方は……アリシア王女では……。」

 レングストンの兵士ではない、武装や平民、貴族服を来た男達。

「親父や兄貴には黙っておいてくれ。」
「よろしいのですか?」
「緊急時だったんでな、アリシア王女はここからご自分の部屋に戻るだけだ。人目を避ける為に一番ここが近かった。」
「分かりました。」
「…………アリシア、こっちだ。」
「……………。」

 言葉少なくまだスタスタと先を歩くカイルに必死について行くのがやっとのアリシア。
 進んでいる場所は、人の気配も少ない場所を歩いている。
 言葉を掛けて良いのか、と思いつつ人が居ないので、アリシアは声を掛けた。

「あそこは何なの?」
「…………ウィンストン公爵家の私兵だ。代々ウィンストン公爵家は表向きは宰相を担うが、裏では隠密行動をする役職がある。あの扉や部屋は、王城内に至る所にあり、隠し通路や隠し部屋を使い、情報を集めている。ここも部屋と部屋の間にある隠し通路。」
「え!!いいの?私がこんな所通っても。」
「しーっ!部屋の間だが、デカイ声を出すと気付かれる。人目に付いてもおかしくない場所に連れて行くから、そこから皇女宮に帰れ。」
「え~!探検したい。」

 こんなに面白い場所、そのまま帰るなんて!と言わんばかりに目を輝かせるアリシア。

「あのな………今の女はアードラのアリシア王女がレングストンに居る事を知らないんだ。あの女にバレてみろ、アードラのアマレス宰相に知らされない保証なんてないんだぞ?」

 だから、アリシアを隠すようにカイルは連れて来た、という事らしい。

「それに、な。場所も分からないのに探検なんてしてみろ、隠し通路で野垂れ死になるぞ?」
「………だから、カイルが案内役に。」
「するかよ……そんな事に付き合ってられるか。」
「でも、この通路、て皇帝陛下も知っているの?」
「勿論。皇子4人、皇妃、ナターシャにも最近教えた筈だ。ウィンストン公爵家は国に何か惨事が起きたら、最後迄国を守る使命があるんでな…………ほら、皇太子邸に行く通路にこの部屋から出れば出るから、皇女宮に戻れ。」

 通路から部屋の気配を確認したカイルはアリシアを部屋に出す。

「…………廊下には今居ないな……ほら。」
「…………あの、ね………カイル。」
「ん?」

 アリシアはカイルの言う通りにする方がいいと分かってはいるが、まだ話しをしたかった。

「この前、私熱出した時のカイルがくれた薬茶……。」
「あぁ、あれ効いたろ。」
「うん、あれありがとう。嬉しかった。」
「俺が悪かったからな。」
「……………カイル………私が16歳になる迄、誰とも結婚しないで。」
「……………アリシア……お前………俺に『待て』て言うのか?」
「うん。待ってて。絶対にお父様やお兄様説得するから………皇帝陛下にもお願いするから………。」
「…………約束はしない。でも、その時迄お互い独り身だったらな。」
「……………うん……。」

 それが、カイルが今言える精一杯の言葉だと分かる。
 お願いだから、独りで居て欲しい。

「…………もう………頼むから『女の顔』するな……まだその顔は俺には地獄だ。」

 『好き』とは決して言わない大人のカイル。
 簡単に『好き』という顔を見せるアリシア。
 この年の差も辛いが、何よりも身分の壁があるのがお互いは辛かった。
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