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押し掛けプロポーズ
しおりを挟むレングストン、ウィンストン領
「ここね………。」
アリシアはウィンストン領に王都を通り越して、単身来ていた。
民間で馬車を雇い、乗り継いで約2ヶ月アードラからここ迄やって来たのだ。
その間16歳になり、レングストンでは婚姻が出来る歳になる。
「居るといいけど………。」
先ずはウィンストン公爵邸の前に馬車を横付けして貰ったアリシア。
こちらの邸には連絡もしていない、飛び入りだ。
「何者だ。」
門兵からは怪訝そうに声が掛かる。
「こちらに、カイル・ウィンストン公爵がおみえだと思うのだけど、ご在宅かしら?」
「旦那様に何用だ?」
「わた……私、アリシア・ヴィセ・アードラと言います。王都にカイル様がまだおみえの時、大変お世話になったの、旅の途中で立ち寄ったのだけど、ウィンストン領に居るのに素通りしては失礼かと思って。」
「身分高そうな者だが、共も連れずにか?」
「えぇ、私1人よ?」
「暫く待て。確認して来る。」
門兵が邸内に入って行く。
門前払いかもしれない。
だが、アリシアも馬鹿ではない。
まだカイルが未婚である事も事前に調べている。
姉と慕う、カイルの妹、ナターシャとの手紙のやり取りで、カイルが忘れられない女性が居る、と。
それが、アードラの内乱の時に出会った女だと………。
調べてはいるものの、自信も無いままやって来てしまったのだ。
暫くすると、玄関から身なりの良い白髪の男が出てくる。
男は、アリシアに声を掛けた。
「アリシア様ですね?」
「………は、はい。」
「旦那様は、研究室に篭っておいでです。どうぞ、中へ。」
「…………はい。」
通された邸は日光も遮断するように、窓はカーテンで暗くしており、華やかなカイルの邸には到底思えなかった。
「どうぞ、こちらでございます。………旦那様、お客様でございます。」
「……………誰だ?新薬が出来るまで中に誰も通すな、て言っただろう。」
「特別なお客様ですので………大旦那様から言付けされておりまして。」
「…………父上に?………分かった入ってもらえ。」
「どうぞ。」
「…………。」
アリシアは中に入る。
そこには金髪長髪だが、髪質はボロボロで、着ている物も皺くちゃな長身の男が、扉を背に、身体を動かしている。
部屋は大量の書籍や、薬品のニオイが立ち込め、むせ返そうだった。
「カイル?…………カイル………なの?」
「……………?……誰だ?」
男はアリシアの方に振り向くと、眼鏡を掛けてはいたが、間違いなくカイルだった。
アリシアが今迄見てきたカイルではない。
むさ苦しい、という言葉が似合う、風貌が汚い男。
華やかで高飛車でクールな印象はどこにもなかった。
だが、左手薬指には見覚えのある銀と翡翠の指輪。
「…………アリシア?」
「………うん…………私、16歳になったよ。カイル………誰とも結婚もしてない?」
「…………。」
「カイル?」
「………馬鹿………何で来やがる………王女として、王族に嫁げば良かったじゃねぇか………。」
言葉と裏腹に眼鏡を外し目頭を押さえたカイル。
(…………あぁ、変わってない……カイルだ。)
アリシアはカイルに近付くと、カイルは腕を伸ばした。
「く、来るな!!今俺は臭い!!ずっと風呂にも入ってないんだ!!」
「だから?でもカイルでしょ?」
徐々に距離を詰めて行くアリシア。
目の前に来ると、アリシアはカイルの顔を覗き込んだ。
目の下にはクマ、充血した目と、痩せこけた頬ではあるが、アリシアが好きなカイル。
思いっ切って、アリシアはカイルに抱き着いた。
「な!………だから臭いって!」
「……………うん、臭いね……でもカイルだもん。私が好きな人だもん。」
「……………アリシア……。」
「ねぇ、まだカイルも独身なんでしょ?………何で?」
「……………好きになった奴がまだ子供で、16になってなかったんだよ!」
「………それ、私で合ってるよね?」
「……………合ってる……。」
「やった!!」
「……………ここに………俺に会いに来た、て事は、覚悟してんだろうな?」
「覚悟?何で覚悟要る訳?」
「要るだろ!…………身分の事とか、国も違うし、環境だって……!!」
アリシアは、つま先立ちしカイルに唇を合わせた。
「うるさいな………私はカイルに嫁ぎに来たの!!黙って受け取れ!馬鹿!!」
「……………アリシア………プロポーズは俺に言わせろ……馬鹿。」
前髪も伸び顔の表情さえ読み取れないカイルだが、言葉は罵っていても優しい声をアリシアに掛けた。
「…………ちょっと待ってろ……。」
カイルはアリシアから離れ、扉を開けた。
「セルゲイ、風呂に入りたい。彼女を客間………じゃないな、書斎へ案内してくれ。俺の妻になる女だ、丁重に扱ってくれ。ああ見えて、アードラの王女だから。」
「畏まりました…………カイル様、お父上や陛下にお伝えして宜しいのですね?」
「あぁ、明日王都へ挨拶に行く。あとウェールズ領主にも連絡を。」
「おめでとうございます。カイル様、アリシア様。」
「……………。」
「アリシア、風呂に入ってくるから、部屋で待っててくれ。」
「…………う、うん。」
セルゲイと呼ばれた白髪の男は執事だと紹介された、アリシアはカイルの部屋に通された。
カイルの部屋だという室内は、先程入った部屋と同じニオイと、同じように書籍が山積みになっていた。
(………あ………何か急に緊張してきちゃった!)
暫く待っていると、扉がノックも無く開いた。
「アリシア、すまないな…………今使える部屋、ここしかないんだ。」
カイルはアリシアの記憶の中の姿そのままに外見を戻し入って来る。
その姿にアリシアは涙を溢した。
「…………カイル…………カイル!!」
「うわっ!さっき抱き着いて確認したろ!?」
「だって!あんな姿見た事なかったんだもん!記憶の中のカイルはコレだから!」
カイルはアリシアに抱き着かれ、始めて成長した姿に感慨深くなった。
そして、そのまま腕に力を込めて始めて抱き締める。
「…………たく……俺好みの女に成長しやがって…………。」
「カイルの為だもん、当然でしょ?」
「遠慮なく、貰っていいんだな?アリシア。」
「……………え?貰う?……………んっ!」
アリシアは、一つ分頭の差があるカイルを見上げると、真剣な目でアリシアを見つめているカイルが居た。
目線は合わせているが言葉を交わす事なく、アリシアの唇を奪い昧られた。
「こういう事をするし、これ以上の事を求めていいんだろ?」
「……………う、うん。」
「なら、遠慮は要らないな。」
「……………カイルが求めてくれるなら……
。」
「我慢したんだ、当然アリシアの全てを貰うさ。」
2人はまた力強く抱き締めあったのだった。
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