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暴走令嬢
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しおりを挟む「私は悪くない!悪くないわ!悪くないのよ!」
「フローレス!」
怯えるフローレスの神力が高まって膨張し掛かっていく。
「神力の持たぬ者は避難させろ!フローレス嬢を防御壁で囲め!」
「くっ!」
アリエスはフローレスの傍に居た事もあり、アリエスも風の属性を持つフローレスには分が悪いが、足しになれれば、と防御壁で囲った。
「フローレス嬢!落ち着いて下さい!」
「嫌ぁぁぁぁ!貴女なんて嫌いよ!居なくなれば良いのに!来ないでよ!私が妃になるんだから!」
「フローレス嬢!聞いて下さい!私は貴女に謝って欲しい訳でもありません!貴方が持っていったロティ様の宝珠の石のネックレスを返してくれるだけでいいんです!あのネックレスには証拠なんてありませんから!録画なんてしてません!落ち着いて下さい!」
しかし、冷静になれないフローレスは、神力のコントロールが出来なくなっている様子。
風の神力に強い氷の防御壁で囲っていても、神力の差が歴然で、氷の防御壁は作っては壊されていった。
一方、別の部屋から傍受していたロティシュ達は慌てて部屋を飛び出して、謁見の間へと掛け走っている。
「フローレス嬢の暴走を早く止めないと!」
「彼女の神力は抜きん出てるからねぇ」
「ザナンザお兄様!それでもわたくし達兄妹より下ですわ!下!本当、お馬鹿な人ね!フローレス嬢!」
だが、神力を持たない者達が謁見の間から逃げているので、ロティシュ達の行く手は阻まれてしまっていた。
「アリエス!無理をするな!離れてろ!」
「っ!…………へ、陛下………ですが………」
「くっ!…………もっと氷の壁で囲め!風で抑えろ!」
ルカスも自身の風で抑えてはいるが、暴走する神力に手を拱いていた。
「嘘よ………録画してたんでしょ…………信じないわ………」
「フローレス嬢!気をしっかり持って!信じて!落ち着いて!」
「っ!…………きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
フローレスも自身の力が暴走している事も分かってはいても、制御出来ずパニックを起こしていた。
一気に、フローレスより弱かった者達は吹き飛ばされ、壁迄押しやられてしまう。
唯一立っていられたのはアリエスとルカス、マークだけだ。
「くっ!……………こうなったら…………」
「アリエス!止めろ!お前迄暴走する!」
「アリエス!」
「……………マーク!アリエスが抑え込んでる間に、フローレス嬢を気絶させろ!」
「……………くっ!」
「……ゔっ!……………」
マークも、アリエスの神力でフローレスの神力が弱まった隙に、マークはフローレスの背後に回り、項に衝撃を与え、気絶させる事に成功する。
意識が飛べば、神力は出す事は出来ない。
「……………ふぅ~……気絶したか……」
「アリエス!アリエス!しっかりしろ!アリエス!」
「アリエスも気絶しただけじゃないか」
「分かってますよ!ですが、ルカス様の時との心配とは別物なんです!娘ですよ!」
「んな事は分かってる………しかし、アレだな……アリエスがこんなに神力強かったとは………」
「知らなかったんですか?ここ1、2年で急激に上がりましたよ」
マークの腕の中のアリエスは、神力を使い果たし、漆黒の髪になって眠っている。
フローレスも白銀ではなくなり倒れたままだ。
「マーク、怪我人に治癒魔法を頼む」
「……………鬼ですね、ルカス様」
「あ?ロティシュがもう来る………任せてやれ」
「父上!」
「ほら、な………」
「分かってますよ………」
やっと、謁見の間に入れたロティシュ達はルカスに駆け寄って来る。
「父上!アリエスは…………っ!」
「アリエスなら其処に………」
「アリエス!アリエス!如何なってるんだ!なぁ、アリエス!しっかりしろ!何で髪色が変わってるんだ!まさか死んだんじゃないだろうな!おい!」
「ロティ様!頭を振らないで下さい!アリエスは無事ですから!」
ルカスに話掛けておいて、アリエスを見つけると、ルカスを無視し、マークから奪って抱き締めるロティシュ。
「ロティ、落ち着け………神力を使い果たして眠っているだけだ」
「使い果たし………え?」
「神力を使い果たすと、回復する迄眠るんだ。回復してくると、髪色も白銀に戻る」
「知らなかった………」
「使い果たす事は先ず無いからな………いやぁ、懐かしいな」
ルカスがしみじみしていると、マシュリーとエリスも様子を見に戻って来た。
「マシュリー、エリス………怪我は無いか?」
「は、はい………レナードが避難誘導してくれましたから………ですが、怪我人は居るので今順番に手当をさせてますわ………アリエスは……」
「アリエスは、眠っているが無事だ。怪我は無い様だ」
「髪色、黒くなってますけど………」
「俺も、しょっちゅう使い果たして黒になってたぞ」
「その度に俺は心配させられましたけどね」
謁見の間は使い物にならなくなったが、怪我人は出たものの、死人が出る事はなく、マークは怪我人の治療へと向かった。
「本当、迷惑な人だわ、フローレス嬢」
「イリーサに言われたら立つ瀬がないぞ」
「あら、ザナンザお兄様………フローレス嬢はロティお兄様を慕ってなかったのですもの、アリエスを虐めた所で何の得があるんです?どうせ、皇太子妃になれないのに、こんな惨事起こして」
「イリーサ、その事はまた後日、招集して聞く。毒舌は体力を回復する迄待ってやれ」
「お父様は、神力使い果たしてないんですね」
アリエスやフローレスは使い果たして白銀ではなくなっていたのに、ルカスやマークはまだ白銀のままだ。
「俺は、フローレス嬢の風の流れをコントロールしていただけだしな。抑え込もうとすると謁見の間だけでなく城が吹っ飛ぶ。それより違う属性で抑え込んだ方が効果は高い」
「じゃあ、マークは?」
「マークは神力使ってないぞ………アイツは治癒魔法を使う為に温存させておかないとな」
「えぇ、そうでしょうね………怪我人は出るだろう、と予測はしてた筈ですし、俺は戦闘向けではないので………治癒魔法要因にさせる為にだけに俺を残す人ですからね、ルカス様は」
「お前は俺の考えを察するからな」
「腐れ縁って嫌ですねぇ」
「照れるなよ、マーク」
「照れてないです」
大惨事の後にも関わらず、ほのぼのとした会話が出回り、逃げていた者達も安心させる。
幸い、城内の謁見の間だけの被害だったので、民達は知る事もなかった。
そして、アリエスが意識が取り戻したのは、怪我人を治療し終わった後だった。
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