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嫉妬は全部受け止める覚悟だったのに
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しおりを挟む「無理に決まってる!」
「まぁ…………ロティシュは無理だろうな」
「せめて半年は…………禁欲して貰いましょうか」
直ぐにロティシュの反抗心がルカスとマークに返されるが、その期間でルカスとマークは意見が合わない様子。
「俺の息子だぞ、マーク」
「だからでしょ!ルカス様の性欲の遺伝子なんて全く信用ならないんですよ!今迄もロティシュ様の鬼畜な女遊びを見聞きした貴族は多いんです!ルカス様はしっかり功績を残されてマシュリー様との婚約に結び付けられましたが、ルカス様も無謀と言えば無謀の自分勝手なやり方で成就なさった事は、殆どの者は知らないだけで、俺は知ってるんですからね!」
「あぁ…………耳痛ぇ………」
ルカスは性欲に関する事には、マークに強く出られないので、その期間に難色を示しているのだ。
「そうですわね、ルカス様はきっと、ロティが半年の禁欲は無理だと思ってるんですわ」
「当たり前だろ、マシュリー………俺なら耐えられない!」
「アガルタやコルセアとの戦争で3ヶ月は禁欲したじゃないですか!」
「それなら、ロティも3ヶ月の禁欲でいいだろ!」
「甘いと思いませんか!ルカス様!これがイリーサ様が同じ立場になったら!」
「……………イリーサ………んなもの、半年じゃ済まさん!」
「じゃあ1年で良いですね?ルカス様」
「……………はっ!………ヤ、ヤラレた!………すまん、ロティシュ…………1年禁欲しろ」
「無理に決まってるでしょ!」
臣下や民達に認めて貰う為の禁欲は、果たして役に立つのだろうか。
「禁欲生活は兎も角、わたくしは違う事をさせたいですわ、アリエスに」
「マシュリー?」
「……………もう、侍女を解雇させますわ、アリエスとエリスに」
「マシュリー様!」
エリスもだが、アリエスも侍女をする事に誇りを持っている。
特にエリスはマシュリーに言われる事は思いもよらなかったのだろう。
「皇妃様!私は辞めたくないです!」
「マシュリー様!私もですよ!」
「分かってますわ………でもエリス……貴女はもう公爵夫人なのよ?夫は宰相であるのに、下働きの様な仕事を続ける意味は無いの………わたくしは、貴女に甘え過ぎていたのね………だから、貴女もアリエスも冷遇されていたのを見て見ぬ振りをしてしまったわ………貴女達は気にしない、といつもわたくしに返してきたけれど、貴女達はわたくしが知る以上に傷付いていた筈よ?」
「マシュリー様…………私は……侍女の仕事が生き甲斐なんですよ!」
エリスがマシュリーの足元に跪き懇願し始めた。
「えぇ、知ってるわ。どれだけエリスが侍女の仕事が好きなのか…………でもね、エリス……アリエスは解放してあげないと………」
「皇妃様!私も侍女の仕事が好きです!辞めたくありません!」
「公爵夫人と公爵令嬢が侍女で、しかも令嬢が皇太子妃になる、となれば、必ず何方かを取らねばならないと思うの………ましてや、皇族居住地内だけの仕事はしては来なかったでしょう?エリスは兎も角、アリエスは城内でも侍女服で過ごしていた事も多かった。皇太子妃が来賓がみえる事の多い城内で、侍女服で居たら、外交では良く無いと思わないかしら?」
今回、ロティシュの誕生祝賀会の来賓はコルセア国のシュナクだけではない。元アガルタ国のあった地も、コルセア国が領土を手にしたものの、モルディア皇国との戦争で衰退し、再び国土は戻ってしまった。
それにより、アガルタ国周辺にあった国々との外交も多くなり、遠方から数多く来賓が来ている。
「そ、それは………」
「そうだな…………潮時かもしれないな」
「エリス…………マシュリー様のお言葉も一理ある………エリスの気持ちは分かるが………」
「……………私………マシュリー様にご迷惑お掛け………」
「違うわ!エリス!貴女がわたくしを支えてくれていたから、頑張って来れたの!」
「……………マシュリー様………ゔっ………」
「お母様…………」
「だからね、エリスもアリエスも………侍女は……………もう、エリスはゆっくりして、アリエスは皇太子妃になる為の勉強を始めて欲しいわ…………別の意味で忙しくなるのだから、ロティとは禁欲生活出来ると思うのですが、ルカス様どう思われます?」
マシュリーは辛そうにエリスに語る。
アリエスやロティシュには、マシュリーがどれだけエリスに信頼を置き、支えられて支えてきたかを間近で見てきていたから、マシュリーの言う事には同意する部分は強かった。
夫のマークも周囲から言われていた。
宰相の身で妻が侍女長等と、立場的に如何なのか、とロティシュもそれはよく耳に入っていた事なのだ。マークの表情もエリスの生き甲斐の仕事を奪うのは偲びないのだろう。
「……………俺はそれでも良いが………マークは?」
「マシュリー様、エリスが侍女長を辞すならば変わりの侍女長は、エリス以上に厳しい者を選ばせて貰い、ロティ様とアリエスが結婚が決まる迄は禁欲させますが宜しいですか?」
そして、自分やエリスが辛い思いをするのだから、とロティシュにも別の辛さと試練を与えようとするマークに、ロティシュはキレる。
「禁欲は嫌だって言ってるだろ!マーク!」
「ロティ様の下半身は信用出来ませんから………陛下と一緒で」
「悪かったな…………だが、今は変わったじゃないか………ロティ、アリエス」
ルカスは決意をした顔になり、アリエスとロティシュに顔を向ける。
「「は、はい」」
「こんな場所でこんな話をするのは、あの場で言えなかった事だと分かるだろう?」
「はい………分かります、父上」
「禁欲させるのを伝えに来たつもりだったが、思わぬ話がマシュリーから出たからな………皇帝命令で、エリスは侍女長を退任し、アリエスは皇太子妃教育に入るように。本来のあるべき公爵夫人と令嬢に戻るように」
「陛下…………私はもう……マシュリー様に不要なのですか………」
エリスからしたら寝耳に水なのだ。
当然とばかりの意見を言ってしまう。
この場には6人しか居ないのだ。ルカスが人払いして迄、6人の意思を固めるつもりだったのが分かる。
「違う!それは絶対に違う………エリスとアナがマシュリーと共にモルディアに来なければ、マシュリーは強く居られなかった。安心して俺は城の外には出れなかっただろう………お前なら分かる筈だ…………あの戦争を」
「えぇ………エリスとアナが居てくれたからだわ」
「……………はい……陛下………次代の侍女長が決まり次第、引き継ぎ後辞任致します」
エリスはその場で泣き崩れ、アリエスもまた涙が止まらなかった。
床に落ちるアリエスやマシュリー、エリスの涙から出来る宝石が、暗い廊下に散らばり僅かな光を取り入れようと輝いていた。
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