鬼畜皇太子は素直になれない【完結】

Lynx🐈‍⬛

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舞い降りた縁談

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 ルカスの執務室からアリエスは出て行く。悩んだあげく、アリエスの意思に任せると言うルカス達。

「荒療治過ぎませんか?ルカス様」
「仕方ないだろ………実際に打診もあったのは今回だけではないからな……それに………ロティシュがもう少し素直にならなきゃ、アリエスはかわいそうだろ」

 マシュリーの心配は最もだ。

「本当に大丈夫なんでしょうね?嫌ですよ、俺は……アリエスをコルセアに嫁がせるのは」
「アリエスが、コルセアの王太子に惚れたら?」
「「「…………ないない……」」」

 マシュリー、マーク、エリスは手を振る。

「だと思ってるから、ちょっとした起爆剤になればな、とな………」

 だが、それが波乱をルカス達が思う以上に巻き起こす。

          ♢♢♢♢♢

 アリエスは翌日から侍女の仕事を調整し、休みを取る事にした。ただ、急な事の為に侍女仲間達からは惜しむ声が聞こえる。

「アリエス様にもっと教えを請いたかったのに………」
「本当に………どれぐらい休むんですか?」
「…………ごめんなさい……実は縁談の話があって………」

 侍女仲間達は、目を輝かせる。

「遂に?」
「ロティシュ殿下とご結婚ですか?」
「おめでとうござい………」
「ま!待って!待って待って待って!!」

 アリエスは手を翳して、侍女仲間達の声を静止させる。それが侍女を達は不思議で、ロティシュとの結婚を待ち望む彼女達からは何故、という顔をされる。

「私、ロティ様とは結婚の予定は無いわ」
「「「「え!!」」」」
「何故、私がロティ様と結婚する話になるの?」
「違うんですか?」
「……………違うわ……その準備もしたいから、休みを貰うの」
「お相手はどちらの方なんですか?」
「…………お会いした事はないから、詮索しないで…………ね?」

 アリエスはそれ以上言えず、その翌日からコルセア国の王太子の事を調べ、失礼の無い様に滞在中はアリエスが主に相手をする為、礼儀作法や言葉使い等の教師の元へと通う。既に必要は無いのでは、とマークにも言われてはいたが、国交のある国に印象を悪くさせてはいけないという、アリエスの生真面目さが許さなかった。
 数日、アリエスの姿を見なくなり、ロティシュも不思議に思い始めた頃、執務室にお茶を持ってきた侍女に聞いたロティシュ。

「アリエスは居ないのか?」
「アリエス様でしたら、お休みされてます………暫くは侍女として登城しない、と仰って」
「暫くって?どれぐらいだ?」
「殿下の誕生祭後迄と聞いております」
「…………俺の誕生祭?」
「はい、来賓をお迎えするに辺り、アリエス様が公爵令嬢としてお相手する任を任されたと」
「…………公爵令嬢として来賓を相手?」
「はい、私達侍女はそう伺ってます」
「……………そうか……置いたら下がっていいぞ……ありがとう」
「失礼致します」

 今迄も来賓は来た事はあったが、アリエスが来賓をホストする事等無かった。大臣クラスの貴族が相手をする事が慣例だったのだ。それでなくとも、宰相であるマークの任になる事が多い。特に今年は、ロティシュも結婚をしていてもおかしくはない年齢というのもあり、最近の皇族主催の夜会には、ロティシュ目当ての他国の令嬢を連れた貴族も多かったのだ。それを牽制し、ロティシュは必ずアリエスを側に侍らせていたのだが、この年の誕生祭は出来なくなる、という事。

「冗談じゃない…………アリエスが居なきゃ、牽制も出来やしない!」

 断る事も面倒くさがるロティシュは、アリエスに甘えていた。夜会のファースダンスは必ずアリエスと踊り、それ以降夜会が終わる迄、アリエスは側に付き添わせていたロティシュ。その間、アリエスは令嬢達の嫌味や虐めを受ける事もなく、ロティシュが守っていたと思っていて、お互いに牽制していて良かった関係だとロティシュの一方的な考えで、勝手に決め付けていたのである。そして、そうして並び立つ事で、アリエスはロティシュの物だという位置付けを周知させたかった、本当に面倒くさい男のロティシュだった。告白出来ない事が拗らせた厄介なロティシュの言動は、両親のルカスやマシュリーも悩ませたのである。

 ガタン。

 ロティシュは執務室を、侍女が淹れたお茶も飲まず飛び出した。宛もなくアリエスを探す。
 行き交う貴族や侍従達は一礼や挨拶をするものの、全く挨拶を返さないロティシュに何事か、と不思議そうに見送るしか出来なかった。

「ルカス様………ロティ様気が付きましたよ」
「…………本当か?……やっとか……鈍いなぁ、相変わらず」

 ルカスの執務室で、レナードから報告が入る。アリエスが侍女の仕事を休み3日後の事だ。

「告白しますかね?」
「してくれなきゃ困る…………アリエスをコルセアに等嫁がせるものか」

 レナードの問にルカスではなくマークが答える。

「いや………しないだろ……あわよくば、あいつは周知から結婚に持ち込むつもりだった筈だ………告白もせずにな」
「…………うわぁ……雁字搦めにしてアリエスを逃げさせない様にしてるじゃないですか」

 ルカスは、父として我が息子の考える事が分かるのか、ロティシュの行動から見解を出す。それにレナードはうんざりした顔を見せた。

「誰に似たんですかね…………その卑しい考え」
「……………」
「な、何だよ……」

 マークとレナードがルカスに冷たい視線を送る。

「ルカス様以外居ないよな」
「その卑しい行動はルカス様、恥ずかしがり屋な所はマシュリー様で、見事に出来上がった、と言うか……」
「……………何も言い返せねぇ……」

 ルカスは納得せざる得なかった。



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