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天然?公爵令嬢のアピール?

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 翌日、ロティシュとザナンザは勉強をサボっていた。城の皇族専用庭園に隠れては、直ぐに探される為、城内で貴族が出入り出来る庭の片隅で、2人は不貞腐れていた。

「ちぇっ……結局見られないままか……」
「父上が、あんな神力があるなんて知らなかったよ!」
「悔し過ぎる!…………俺もやりたい!」
「俺もだよ!兄上!」

 ルカスの実体と精神を分けた神力は、ロティシュやザナンザだけでなく、15年前の戦でルカスの力を見た者は、憧れ出来なかった者が後を絶たない。だが、ロティシュとザナンザは知らなかった。どれだけ神力を消費し、疲れを伴うのかを。ルカスでさえ、長時間長距離は無理で、何度疲れ果てたかを知っているのは、ルカスの副官だったマークだけだ。
 父親に憧れるのはいい傾向ではあるが、動機は不純過ぎるロティシュとザナンザ。その不純さは全てに繫がっている。

「やってみよう!」
「うん!!」

 暫く2人は瞑想するが、全く変化無い。

「…………兄上……」
「………何だ?」
「………如何やるの?」
「………………知ら~~~ん!!分から~~~~ん!!」

 勉強をサボっているからなのか、まだ若いからなのか、ロティシュもザナンザも出来ない。

「ロティ様~、ザナンザ様~」
「…………げっ!あの声……」
「アリエスだ!」

 隠れている茂みを掻き分け、探しに来るアリエスが、ロティシュとザナンザを見つけると、駆け出して来るが…………

「!!………あっ!」
「「えっ!!」」
「きゃぁぁぁっ!!」

 躓く物が何も無い場所で、アリエスが転びロティシュの胸に飛び込んだ。

「!!」
「………………あっ!ロティ様っ!し、失礼を!!」
「…………ほ、本当っ!失礼だな!お前!」

 しかし、倒れ込むアリエスを支え様と、腕を出したら、アリエスの胸を押さえてしまったロティシュ。お互いに真っ赤になって離れたが、ザナンザには面白くなかった。

「アリエス、大丈夫?」
「あ………は、はい……ロティ様は大丈夫ですか?」
「………………う………あ、あぁ……」

 ロティシュからすればご褒美以外何物でも無い。アリエスは、父マークの遺伝なのか、黒髪に1束だけ白銀の髪の少女。瞳は母エリスに似たグリーンと白銀の瞳のオッドアイだ。ロティシュから見たら、神秘的に見えるアリエス。

「ロティ様、ザナンザ様、今日は必ず勉強は出なさい、と陛下からお達しですよ………私も参加しろ、と言われていますので、お迎えに来ました」
「………勉強なんかクソ食らえだ……」

 しかし、アリエスはロティシュの僅かな気持ちも感じる事は無く、要件だけ伝える。それが、ロティシュは苛々した態度に変えさせた。

「そうはいきません、ロティ様………今日は神力の勉強です…………急遽、変更になり上皇陛下がお越しになりますから」
「…………上皇が?」
「はい……陛下がモルディア皇国一の神力の持ち主ですが、お忙しいので上皇陛下に頼まれまして、ロティシュ様、ザナンザ様、イリーサ様、そして私も学ばさせて頂く事になりました」

 ロティシュはもう一度、アリエスを見ると侍女服を着ていない。公爵令嬢らしく着飾っていた。

「神力!!兄上!!お祖父様から教えて頂けるなら行かなきゃ!!父上の神力の使い方も詳しく教えてくれるかも!!」
「!!…………あ、あぁ、そうだな行こう!」
「…………」

 ロティシュの意識が変わり、アリエスも緊張感が取れる。ロティシュに見つめられると、ドキドキが止まらないのだ。

「アリエス、何処だ?」
「あ!はい!訓練場です!」

 アリエスが先導する様に歩くと、背後で歩くロティシュが情けない様に見え、アリエスの前に出る。ザナンザはアリエスの横に並び歩こうとするが、ロティシュは気に入らない。

「ザナンザ!」
「………はいはい」

 ロティシュに並び歩く様に促され、ザナンザは小声でロティシュに言った。

「……………大きかった?弾力は?」
「………なっ!」
「その手………さっきアリエスの胸触ってたじゃないか」

 先程、アリエスが転んだ時、支えた右手を見つめていたロティシュ。恨めしそうに見るザナンザは、冷たい声だ。

「い、言うかよ」

 耳迄赤くなる、純情な面を見せるロティシュ。その耳が、表情が後ろを歩くアリエスに見えていたのなら、どんなにいいかとさえ、思っている。皇太子として告白して、身分下の令嬢がそれをと取る場合さえもある。特に父は宰相であり、皇帝ルカスの従弟のマーク、母はロティシュの乳母エリスで現在は侍女長。身分に関しては口煩く、気を付けさせられたロティシュとアリエスの為、と捉えるに違いない、と思っているのだ。
 アリエスもまた、自分からは告白出来ないでいる。それは出生の事と関係する。マークの母は妾だった。それにより継母であった公爵夫人からの愛情も与えられず、城で幼少期から過ごし、ルカスの副官に抜擢される迄、上皇の義理の弟の息子という事もあり、皇位継承者でありながら、後ろ盾も無い子として扱われた過去がある。宰相になった今では、表立って言われはしないが、皇太子妃マシュリーの侍女のエリスと結婚して、アリエスが産まれると、アリエス自身が冷遇される様になった。そんな彼女が、ロティシュに恋をしても、反対される事は分かっているし、見目麗しいロティシュと、黒髪、オッドアイのアリエスは不釣り合いだと思っていた。『中途半端な公爵令嬢』そんな陰口が後を絶たない。

「あ、やっと来たわ!お祖父様、お兄様方来られました!」

 訓練場の入り口で、ロティシュ、ザナンザの妹、イリーサ皇女が手を振る。10歳の皇女だが、既にマシュリー似のふわふわした愛くるしさがとても眩しい。しかし、性格はやや、問題ありだった。

「遅っ!アリエスを困らせないで!お兄様方!!わたくしの時間でもあるのだから、無駄に待たせないで頂ける?」

 可愛いなりで、発する言葉はキツイ皇女だった。


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