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避難準備

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 裕司が来る迄、羽美や律也、航迄開店準備をするというので、亜里沙も手伝いを申し出た。

「亜里沙さん、姿勢が良いけど何かしているの?」

 航の母が、亜里沙の所作を見ていて気になったいた様だ。

「………学生時代ですけど、幼少期から日本舞踊とお茶を習わされてました……それが嫌で高校と大学は弓道してましたけど」
「あぁ………それで着物着慣れてたのか、亜里沙さん」

 律也が仕込みをしている横で亜里沙は聞かれた為、律也も聞いている。

「お茶を立てれるの?後で淹れて貰えるかしら」
「はい……お抹茶は好きなので、是非淹れさせて貰えるなら」

 抹茶を食後に甘味と共に出すこの店だと、亜里沙も以前来た時に知った。羽美が淹れてくれたお茶だったが、懐かしく思えて久々に淹れてみたかった亜里沙。

「お母さん、喜んでる」
「そりゃ、そうよ……航と付き合ってるんでしょ?結婚迄してくれたらお母さん安心よ」
「ま、まだ………そんな話無いですから!」
「あら、そう?………外孫も可愛いけど、内孫も早く見たいわ」
「お母さん!気が早いってば!」

 周りがとやかく言って波風を立てたら、まとまらない事もあるので、羽美は母の要望を止めようとしていた。

「お袋、亜里沙が返答に困る事聞くんじゃねぇよ、聞いてたろ?さっきの話………今、亜里沙はそんな余裕ねぇよ」
「航が羽美以外に優しいの、て新鮮だな」
「は?律也にも優しいだろうが………羽美との結婚許したの最終的に俺なんだぞ」
「その節はお世話になったなぁ………」
「てめぇに言いくるめられたんだよ!」

 お互い、皮肉を言っていても、手を休めず仕込みをする辺り、航はともかく、律也の手際良さに感心して見ていた亜里沙。

「速水さん、凄い………プロ並みですよね」
「亜里沙!俺を褒めろよ!」
「航さんはプロでしょ?当然出来ますよね?」
「…………ぐっ……」

 律也の包丁の使い方に見惚れていた亜里沙に、航はいい気分では無さ気だ。

「お兄ちゃんは当然出来るよね?」
「羽美迄……」
「航は当然出来て当たり前………俺は趣味の域」
「料理も出来て、経営の才あって、速水さん凄いなぁ…………私、父に経営の勉強もさせられた時期ありましたけど、社員達の上に立てれないな、て諦めちゃったんで………」
「あぁ………それで?将太君居るし、後継譲ったんだ」
「将太、結婚する予定あるんですよ……だから、私に早く結婚して、嫁に行けって……経理の仕事は好きですし、父はそのまま会社に居ていいから、と」
「それで、間野社長は見合いを打診してきたのか」
「そうです」
「亜里沙さん、経営出来そうだけどな」

 経営側に立つ者同士の会話は、航には分からない。すると、航の母がいち早く反応する。

「駄目よ!律也君、そんな事言っちゃ!亜里沙さんを逃したら、航が結婚出来なくなるじゃない!」
「ち~っす!店の入口閉まってたからこっちから入るぞ~っと………何だよ航、もうそこ迄話進んでたんか?早いなお前」

 裏口から裕司が入って来る。
 航の母の圧に、裕司が来た事で緩和された。

「お、おう、裕司………調度良かったぜ………親父、お袋、ちょっと抜けるぜ?亜里沙の事話てぇから」
「分かってる………亜里沙さんに協力してやれ……母さんも、急かし過ぎだぞ」

 航の友人が結婚していて、母としての焦りもあるのだろう。そんな空気を感じながら、亜里沙達は座敷に集まる。

「亜里沙ちゃん、先ず確認だが亜里沙ちゃんのスマホ容量充分あるんかな?」
「あんまり多い容量のスマホでは無いですけど」
「…………なら、こっちも要るか……用意しといて良かったよ」

 裕司は小型のボイスレコーダーと、小型Wi-Fiの様な機械を出してきた。

「探偵御用達仕様」
「そ、そんな大それたもん用意したんか!航」
「それだけじゃない……ドラレコと……盗撮用小型カメラ3台…………あ、一応借りもんだから、金は要らね」
「よくそれを直ぐに用意出来たな、裕司………俺はボイスレコーダーとその保存可能容量が多い転送機だけ頼んだんだぞ?」
「甘いな、律也………亜里沙ちゃんが車ん中で何かあったら如何するよ……このドラレコは車内も録画する………盗撮カメラは予備な」
「…………裕司……俺はお前が10年何をしてきたか知らねぇし聞いてねぇけどよ………今日この場で何をしてきたかすげ~興味あんだが……」

 航は、ボイスレコーダーやドラレコを手に持ちながら、裕司の過去を知りたがる。

「簡単な事さ……俺がムショ入ってる時のコネと、出てから食いぶち繋ぐのに、女ん所渡り歩いて、犯罪スレスレの事をやってた時、探偵事務所をしてる探偵と知り合って、借りたのさ」

 ―――え?ムショ?………刑務所の事?裕司さん、入ってたの?

「あ、亜里沙が固まった」
「あぁ………言ってなかったけど、俺逮捕歴あっから………航を料理人にする為の名誉ある功績」
「自慢になるかよ……亜里沙、裕司の事は後で説明するから……話すぞ?裕司」
「どうぞ~」

 裕司から、使用方法を聞いて、亜里沙が乗って来た車にドライブレコーダーを取り付けて貰った。

「後は、どう万里紗ちゃんに持たせて、亜里沙をいつ避難させるか……」
「え?私に本当に家から離れろと?」
「亜里沙さん、この前の家の中であった事を考えてごらん?………たまたま君が警察を呼ぶと言って大学生達は出てってくれたから良かったものの、本当に立てこもられて、危害があったら困るだろ?」
「…………あ……はい……」
「家の中は必ずしも安全じゃないんだ……10人以上入れるリビングで、亜里沙さん1人で居たらどう対処出来る?君の家だが、妹さんもよく知る家だ。妹さんの一声で、あんな騒ぎを起こす輩達は何をするか分からないよ?」

 律也が言うのは最もで、亜里沙の慣れ親しんだ家の中で、両親が居ない場は危険だと思い知らされた。

「航のマンションに避難した方が良いと思うけどな」
「どうせ、お前らヤってねぇよな?」
「…………裕司!てめぇ……暴露すんな!」
「あ、やっぱり?俺もそうだと思ったんだよ……何だ、調度いいじゃないか航」
「律也てめぇも黙れ!」

 律也や裕司が航に言っている事も分かってはいるが、亜里沙はどうすればいい分からずにいると、羽美が手招きをする。

「亜里沙さん亜里沙さん……」
「あ、はい……」
「律也さんだけど、裕司さんも彬良君も、その話になるから、聞き流していいですから………お兄ちゃんは、その手の話は苦手で揶揄ってるだけなので」
「…………は、はぁ……」
「お兄ちゃん、純情なんだから………いい加減聞き流せばいいのに……」

 羽美も、毎度の事なので、諦めている様だった。
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