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【航side】邪魔者
しおりを挟む朝から食材仕入れで車から材料を下ろす航。
亜里沙をこれからどう、口説こうか考えながら、鼻歌を歌って煙草を更かして上機嫌だ。
―――あの顔、可愛かったんだよなぁ……もっと見てぇ……
裕司の弟、優馬が店長をするカフェが、亜里沙のお気に入りのカフェと知り、航もその偶然が嬉しかった。そう、思った矢先に亜里沙が溢した笑顔が、航の脳裏に焼き付いている。
羽美の様な可愛さは無く、茉穂程美人という迄も無いが、整った顔立ちに、自分のポリシーをしっかり持った物言いと気遣いは、羽美と追随する部分があった。若干、気の強さが否めないが航の許容範囲でもあったし、航に対しての遠慮の仕方も、航の事を優先にする事も、航の気を楽にしてくれている。
「……………クッ……初対面最悪だったのになぁ……」
見合いの席で、航に指を差し、喧嘩を売っているのか、とも思ったが、会社経営をしている家の娘で、航や裕司、彬良の様なスレている印象も無い亜里沙は、航が経験して来た世界とは無縁なのだと直ぐに理解出来、怒りは直ぐに収まった。
着物にも着慣れているであろう、立ったり座ったりの動作もサマになり、襟が気になって直した仕草も所作として申し分ない姿だった。
その印象で終わるつもりだった航だが、電話でまともに話した印象と、見合いでの印象と違う楽しませた亜里沙が気になり始めていた時に、グッと心を捕まれた途端、ゲームオタクと知り、また笑いを堪えるのも大変だったのだ。
怒りの中から、フッと和らかせてくれる亜里沙。沸点が低い航にとっては、羽美の代わりでは亜里沙には申し訳無いが、そう思えてしまう。そして、羽美と違う性格を探すのも楽しみになっていた。
「航、荷を下ろすのまだあるか?」
「………親父は仕込みしてていいぞ、俺やるし……それとも、何か欲しいのか?」
「いや、こっちは足りてる」
「じゃ、やる事ないなら休憩しとけよ」
「………それなら、母さんを銀行連れて行ってくる」
「おう………いってら~」
•*¨*•.¸¸♬︎
「…………お、亜里沙ちゃんか?」
朝一に、航は仕事の予定を亜里沙にラ○ンで知らせていた。その返事だと思いたい航は、スマートフォンの画面を見てウンザリした顔に変わる。
「…………ちっ!………こっちか………もしもし」
『こんにちは~、航さん』
ウキウキした、語尾にハートマークか音符が付いていそうな声がスピーカーの奥から聞こえる。静かな店舗と、相手は人混みの中なのかガヤガヤと対象的な、航と通話者との温度差。
「…………万里紗ちゃん?」
『正解で~す』
「………如何したの?何か用事?」
『デートの予定決めたくって……航さん、毎週水曜日お休みなんですね』
「………何で、君が知ってるんだ?」
亜里沙にしか教えていない、航のスケジュールを何故万里紗が知ってるのか、航は顔を顰めた。
『教えてくれたじゃないですか、航さん』
「君には教えてない」
『そうでした?………そんな事より航さん、来週水曜日ご飯食べに行きません?映画がいいですか?それとも遊園地とか………』
「…………行かねぇよ………悪いが、電話掛けて来ないでくれ………言ったよな?俺は自分の妹より年下は眼中に無いんだよ!」
『…………好きになったら、年齢なんて関係無いですよね?』
「……………君に無くても俺はあるんだよ!じゃあな!」
話もしたくないぐらいに苛つかされる、万里紗の言葉の言い回し。
学生時代なら許されるかもしれないが、社会人相手にその言い回しは通用しない事を分かって欲しいと、航は思い、電話を切り万里紗の番号を着拒にした。
「………水曜日の休み変えるか……決めちまったのは仕方ないが…………はぁ………マジ厄介………あ!………何であの娘が俺のスケジュール知ってる!確認しねぇと!」
万里紗に電話でさえ振り回された気がして、忘れた事を思い出す航は、再びスマートフォンの電話帳から亜里沙の番号を出すと直ぐに電話を掛けた。
「……………何で出ねぇ!」
留守番電話サービスに繋がり通話が出来ず、ラ○ンには既読も付かない。
せっかくいい気分だったのに、万里紗の電話で台無しになり、亜里沙と連絡が付かないとなると、益々苛々し始めた。
「クソッ!確認したくても、出掛けられねぇじゃねぇか!」
両親が銀行に行ってしまい、店には誰も居ない。業者から電話も掛かってくるかもしれないし、お客の予約の電話かもしれないのだ。店を留守に出来ない。持っているスマートフォンを投げ付けたくなるが、壊れたら亜里沙からの連絡待ち中に、連絡があったらと思ったら投げられない。
腹が立ち過ぎて、ビール瓶のケースを思いきり蹴り倒すと、何本も空のビール瓶が割れて散らばっていく。
「……………だぁ!結局、片付けんの俺だし!あぁ!ムカつく!」
ストレス発散にもならない散らかしに、銀行から帰って来た両親に航が怒られたのは言うまでもない。
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