上 下
60 / 61

破滅する家族

しおりを挟む

 ダイニングテーブルに、子供の頃から座ってきた位置に京、那由多、父は座る。
 遅れて母も入って来るが、康太も連れて来る。

「お母さん、康太君は帰ってもらえ。」
「何を言ってるの!駅の場所も分からないのに、追い出せる訳ないでしょう!それに、さっきも言ったけど………。」
「まぁ、いい。会話に入ってこなければ、話が終わったら駅まで送る。」
「康太君は泊まっていきなさい、京と一緒の部屋に、ね?」
「ありがとうございます、お義母さん。」

 この温度差に京は虫唾が走る。

「如何でもいいから、早く座れ。康太君はソファに座ってもらおうか。」
「那由多、そこを退きなさい!康太君にそこに座ってもらうから。」

 母は、那由多を蚊帳の外に追い出したい様子。

「那由多、退いてくれ。」
「俺の場所だ。お前こそ、そっちに座れ。というか、家族の話に今は入って来るな。」
「………チッ……京も何とか言ってくれよ、俺達結婚するんだから。」
「…………。」

 京は康太に話し掛けられても無視をする。

「京!」
「康太は黙れ!」
「君は、まだ黙っててもらおう。警察呼んでもいいんだよ?」

 母が連れて来たので、警察を呼ぶと言われても康太は気にしている様子もない。
 だが、早く康太は京と話たい為、条件を出した。

「京と話をさせて下さい。それなら黙ります。」
「そうね、そうしたら?京。」
「こっちの話が終わってからだ!!いいからお前は座れ!!」

 バンッ!!

「………君も話が分からない男だな………。」

 父は、怒鳴りテーブルを叩いた。

「あなた……そんな言い方……。」
「いいから座れっ!!」
「…………。」

 母と康太は大人しくなった。
 やっと、という所だろう。

「先ず、お母さんにはこの書類を書いてくれ。書きながら聞いてほしい。無駄な時間を使ったからな。」
「何?これ…………!!」
「早く書いてくれ、明日には提出したいんでな。」

 それは離婚届だった。

「離婚したらこの宅地は売りに出す。大した額にはならんらしいから、それを那由多と京に半額ずつ渡す。」
「そ、そんな一方的じゃないの!」
「一方的?そうさせたのはお前じゃないか。京に干渉し続け、那由多の部屋を荒らし、那由多を遠ざけようとした。俺は何度と言ってきた筈だ。無理に康太君に押し付けようとしただろう?京を。」
「そ、それは京を那由多から離そうと……。」
「お前の気持ちは分かる。だがやり過ぎじゃないか?と言ったよな?別々に住居を、と言う迄は俺も納得した。だが、何も康太君に電話して、京と話す、と言うのは、縛り付けてないか?康太君と常に一緒に過ごさせるのは、京のだと言うのか?」
「そ………それは……。」

 覚えがあるだけに、答えが出せない母。

「京は我慢してたんだよ。独り暮らしをしようにも、バイトで金を貯めようとしても、お前から康太君に電話して、京が出なかった時の苛立ちを俺は散々見てきた。連絡着いたら着いたで、京にその時の事を散々聞き出して………うんざりしたから、俺は家を出たんだ。だが、お前は改める事もなくエスカレートしていき、京を追い詰めて行ったんだ。お前こそ、京から離れた方がいい。2人共大人になった、親権云々の問題もない。財産分与でこの宅地を処分するだけで済むようにしてきた。」
「…………わ、私は如何するの?」
「この家から出てってもらえばいい。後は自由だ。」
「……………私は嫌よ!家庭を壊した那由多をどうにかするべきでしょう!」
「………もう遅い。」

 母は青褪めた表情でペンを握り締めて、手を震わせる。

「那由多、京、お前達は何方の方の性になる?」
「俺は父さんの性のままだな。」
「私も。」
「…………け……京………あなたはお母さんと一緒に………。」
「お母さんに感謝してる事沢山あるけど、嫌。」
「………そ、そうね………どうせ直ぐに、康太君の方の性になるんだから……。」
「私、結婚なんてしないけど。」
「…………え?だってあなた………妊娠……。」
「…………今日、中絶してきたの。」

 ガタッ!

「京!な、何で!産んでくれ、て言ったよな!?」
「そうよ!何で堕ろしたの!」
「…………康太にレイプされて出来た子なんて、私愛せないし、もしかしたら那由多との子かもしれないし…………お母さん………私の気持ち、分かってる様で分かってない……。私はお母さんに信用して欲しかったから、康太の所に居たの!それを康太は利用して、私をレイプし続けた………流れに任せて一時期康太でもいいか、と思った時もあったけど……危険日だと知りながら………那由多の所に私を送り出して………帰って来た後…………。」
「京!もう言うな!!」
「!!」

 那由多は京を抱き締める。

「言いたくないだろ?…………もう言うな……俺も言わせたくない……。」
「それだよ!那由多っ!!お前が京をそうやって縛り付けてるから、京は俺の所に来なかったんだよ!………何でもかんでも、お前は持ってていいよな………頭もいい、顔もいい、女からチヤホヤされ………性格も良い奴だよ……だから、お前の唯一の京が欲しかった!京が俺に来てくれたら、お前と友達で居られたのに!…………京……俺とやり直そう……好きなんだ………。」
「……………。」

 京は那由多にしがみつき、首を横に振る。

「康太………京を縛り付けてたのはお前のほうじゃないか……ずっと……京を悩ませて………俺達は、ただを隠せる土地でひっそり暮らせれば良かったんだ。結婚も、子供も諦め、2人で過ごせれば……と。将来の約束なんてものは要らない程、傍に居るのが当たり前で、それだけで人としてのを諦めたんだ………。俺はお前が想像出来ないぐらい、倫理観を持ちながら京と兄妹で居られるのをどれだけ望んだか、分からないだろう。京だって同じだったんだよ。だが無理だった。父さんと母さんを裏切り続けた酬いだ。………もう、俺達と関わるのは止めろ………お前迄闇に堕ちる事はない。」
「だから、京を引き摺り出すんじゃないか!」
「………康太……もう、私は闇に堕ちてるの……那由多を兄として見れなくなった、子供の時から………。」

 康太は腰を落とす。
 もう2人の間に入れない、と悟った康太。
 母もまた、京が言いたかった言葉を那由多が遮った事で、康太へ託そうとした自分がしてきた事を後悔したのだった。
 娘がレイプされて傷付いたのを、家族が崩壊するのを見逃して来た酬いを、今更ながら悔んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

処理中です...