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破滅する家族
しおりを挟むダイニングテーブルに、子供の頃から座ってきた位置に京、那由多、父は座る。
遅れて母も入って来るが、康太も連れて来る。
「お母さん、康太君は帰ってもらえ。」
「何を言ってるの!駅の場所も分からないのに、追い出せる訳ないでしょう!それに、さっきも言ったけど………。」
「まぁ、いい。会話に入ってこなければ、話が終わったら駅まで送る。」
「康太君は泊まっていきなさい、京と一緒の部屋に、ね?」
「ありがとうございます、お義母さん。」
この温度差に京は虫唾が走る。
「如何でもいいから、早く座れ。康太君はソファに座ってもらおうか。」
「那由多、そこを退きなさい!康太君にそこに座ってもらうから。」
母は、那由多を蚊帳の外に追い出したい様子。
「那由多、退いてくれ。」
「俺の場所だ。お前こそ、そっちに座れ。というか、家族の話に今は入って来るな。」
「………チッ……京も何とか言ってくれよ、俺達結婚するんだから。」
「…………。」
京は康太に話し掛けられても無視をする。
「京!」
「康太は黙れ!」
「君は、まだ黙っててもらおう。警察呼んでもいいんだよ?」
母が連れて来たので、警察を呼ぶと言われても康太は気にしている様子もない。
だが、早く康太は京と話たい為、条件を出した。
「京と話をさせて下さい。それなら黙ります。」
「そうね、そうしたら?京。」
「こっちの話が終わってからだ!!いいからお前は座れ!!」
バンッ!!
「………君も話が分からない男だな………。」
父は、怒鳴りテーブルを叩いた。
「あなた……そんな言い方……。」
「いいから座れっ!!」
「…………。」
母と康太は大人しくなった。
やっと、という所だろう。
「先ず、お母さんにはこの書類を書いてくれ。書きながら聞いてほしい。無駄な時間を使ったからな。」
「何?これ…………!!」
「早く書いてくれ、明日には提出したいんでな。」
それは離婚届だった。
「離婚したらこの宅地は売りに出す。大した額にはならんらしいから、それを那由多と京に半額ずつ渡す。」
「そ、そんな一方的じゃないの!」
「一方的?そうさせたのはお前じゃないか。京に干渉し続け、那由多の部屋を荒らし、那由多を遠ざけようとした。俺は何度と言ってきた筈だ。無理に康太君に押し付けようとしただろう?京を。」
「そ、それは京を那由多から離そうと……。」
「お前の気持ちは分かる。だがやり過ぎじゃないか?と言ったよな?別々に住居を、と言う迄は俺も納得した。だが、何も康太君に電話して、京と話す、と言うのは、縛り付けてないか?康太君と常に一緒に過ごさせるのは、京の意思だと言うのか?」
「そ………それは……。」
覚えがあるだけに、答えが出せない母。
「京は我慢してたんだよ。独り暮らしをしようにも、バイトで金を貯めようとしても、お前から康太君に電話して、京が出なかった時の苛立ちを俺は散々見てきた。連絡着いたら着いたで、京にその時の事を散々聞き出して………うんざりしたから、俺は家を出たんだ。だが、お前は改める事もなくエスカレートしていき、京を追い詰めて行ったんだ。お前こそ、京から離れた方がいい。2人共大人になった、親権云々の問題もない。財産分与でこの宅地を処分するだけで済むようにしてきた。」
「…………わ、私は如何するの?」
「この家から出てってもらえばいい。後は自由だ。」
「……………私は嫌よ!家庭を壊した那由多をどうにかするべきでしょう!」
「………もう遅い。」
母は青褪めた表情でペンを握り締めて、手を震わせる。
「那由多、京、お前達は何方の方の性になる?」
「俺は父さんの性のままだな。」
「私も。」
「…………け……京………あなたはお母さんと一緒に………。」
「お母さんに感謝してる事沢山あるけど、嫌。」
「………そ、そうね………どうせ直ぐに、康太君の方の性になるんだから……。」
「私、結婚なんてしないけど。」
「…………え?だってあなた………妊娠……。」
「…………今日、中絶してきたの。」
ガタッ!
「京!な、何で!産んでくれ、て言ったよな!?」
「そうよ!何で堕ろしたの!」
「…………康太にレイプされて出来た子なんて、私愛せないし、もしかしたら那由多との子かもしれないし…………お母さん………私の気持ち、分かってる様で分かってない……。私はお母さんに信用して欲しかったから、康太の所に居たの!それを康太は利用して、私をレイプし続けた………流れに任せて一時期康太でもいいか、と思った時もあったけど……危険日だと知りながら………那由多の所に私を送り出して………帰って来た後…………。」
「京!もう言うな!!」
「!!」
那由多は京を抱き締める。
「言いたくないだろ?…………もう言うな……俺も言わせたくない……。」
「それだよ!那由多っ!!お前が京をそうやって縛り付けてるから、京は俺の所に来なかったんだよ!………何でもかんでも、お前は持ってていいよな………頭もいい、顔もいい、女からチヤホヤされ………性格も良い奴だよ……だから、お前の唯一の京が欲しかった!京が俺に来てくれたら、お前と友達で居られたのに!…………京……俺とやり直そう……好きなんだ………。」
「……………。」
京は那由多にしがみつき、首を横に振る。
「康太………京を縛り付けてたのはお前のほうじゃないか……ずっと……京を悩ませて………俺達は、ただ兄妹を隠せる土地でひっそり暮らせれば良かったんだ。結婚も、子供も諦め、2人で過ごせれば……と。将来の約束なんてものは要らない程、傍に居るのが当たり前で、それだけで人としての倫理を諦めたんだ………。俺はお前が想像出来ないぐらい、倫理観を持ちながら京と兄妹で居られるのをどれだけ望んだか、分からないだろう。京だって同じだったんだよ。だが無理だった。父さんと母さんを裏切り続けた酬いだ。………もう、俺達と関わるのは止めろ………お前迄闇に堕ちる事はない。」
「だから、京を引き摺り出すんじゃないか!」
「………康太……もう、私は闇に堕ちてるの……那由多を兄として見れなくなった、子供の時から………。」
康太は腰を落とす。
もう2人の間に入れない、と悟った康太。
母もまた、京が言いたかった言葉を那由多が遮った事で、康太へ託そうとした自分がしてきた事を後悔したのだった。
娘がレイプされて傷付いたのを、家族が崩壊するのを見逃して来た酬いを、今更ながら悔んでいた。
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