番い【つがい】さがし※完結※

京の希望

　血液検査や今後の事の注意点等を説明する看護師の声は全く聞こえない京だった。

「あの…………中絶………したいんです………。私、一生子供産みたくなくて………。」
「子供嫌いなの？」
「子供は好きです。でも自分の子供は要らないんです。」

　看護師は京を見つめ、今迄妊娠を喜んだ雰囲気の女性ではなく、全く逆な方の女性だと分かる。

「中絶するかしないかは、彼とよく話あって。中絶するにしても安定期になる前にしないとね。」
「話し合うつもりもありません。中絶して下さい。」
「…………一応、中絶申請書を渡しておくけど、パートナーのサインが要るのよ。」
「…………分かりました、書いてもらいます。何としてでも。」
「………………。」

　京の決意は固い。

(康太には頼めない。……………那由多………言いたくない………。)

　看護師との話が終わり、中待合室に戻って来た京は康太と目を合わせた瞬間、看護師に渡された持っていた書類を康太にぶちまけた。

「…………満足？妊娠させて。私は産まないから。あんたの子だったとしても絶対に！！」
「妊娠して、気が昂ってるのか？終わったんだろ？会計して帰ろう、さっき京のお母さんから連絡入って、こっちに来る、て言ってたから、マンションで待たないと。」

　康太に腕を掴まれた京は、その手をなぎ払う。
　なぎ払うと、スタスタと歩き出した。

「すいません、お騒がせしました。」

　康太は中待合室で頭を下げながら後を追うが京が何処にも居なかった。

「京！……………何処行ったんだ？」

　会計もまだ終わらない為、外に出て行った可能性もあるのに康太は出られない。

「すいません、今診察した女性で今ここに居ないんですけど、何処に行ったか分かりますか？」
「何方の方かしら………。」
「朝比奈京です。」
「化粧室見てきましょうか？」
「お願いします。今中待合でちょっと言い合って出て行ったんで……。」

　産婦人科医の受付スタッフに院内を探してもらっても京は居なかった。

「そうですか……すいません、早めに会計してもらえますか、外に探しに行くので。」
「申し訳ありません、出て行かれたのに気が付かず………直ちに計算します。」

　康太は会計を済ますと、辺りを探し回る。

「京！何処行ったんだ！京！」

　康太は、急いで携帯電話を取り出す。

「……………出ろ…………早くっ！」

　京の携帯電話は電源が入っていない様子。
　
「………くそっ！！………那由多に会いに行ったか？」

　康太は那由多にも連絡を入れた。

『もしもし、如何した？康太。』
「京、お前に会いに行ってないか？」
『………京が如何かしたか？』
「ちょっと言い合ったになったんだが、その後、何処に行ったか分からない。那由多に会いに行ったら教えてくれ、謝りたいから。」
『……………俺から京を取り上げて行こうとする奴に教えると思うのか？』

　電話越しの那由多は怒っている。
　当然の事だろう。

「だとしてもだ！俺が見つけても連絡は入れるから！」

　康太が那由多の立場であったとしても同じかもしれない。
　そう思うが、那由多に頼らざる得なかった康太だった。