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甘々の公子
しおりを挟む「んんっん!」
「「!」」
なかなか終わらないセシリアとリュシエールに対し、カーター伯爵から咳払いされる。
「そろそろ行きませんと、殿下が居なければ始まらないので、お止め下さいますか?」
その声で、セシリアとリュシエールが離れる。
「あ、あぁ……すまない」
「……………」
真っ赤な顔をして、頬を手で覆い下を向くセシリアと、夢中でセシリアを貪っていたリュシエールは照れている。
「ハンカチを結んで差し上げなさい、セシリア」
「あ、はい………えっと……何方を……」
「両方付けて、リア」
「いいんですか?」
「構わないよ………公子としての祈りと、リュシーとしての祈りを込めてくれたんだろう?リアは………なら両方欲しい」
「は、はい」
セシリアはリュシエールの利き腕に2枚を結ぶ。
「ありがとう」
「お気を付けて」
「リアの応援があるから、頑張って来るよ」
貴族達が集まる広場で、リュシエールが来るのを待っていた。
セシリアは離れようとリュシエールの後ろをゆっくり歩くが、リュシエールに腰を抱き寄せられる。
「え?」
「リアは私の婚約者だろう?」
「わ、私は、離れた所で見守るので……」
よく見える様に壇上があり、そこに乗ろうとするリュシエールに連れて行かれそうになっている。
「駄目」
「え?」
腰を持ち上げられて壇上に上がらせられてしまうセシリア。
開始の合図だけの筈なのに、セシリアが居る意味は無い。
「殿下!」
「まぁ………あの子ってば」
カーター伯爵の静止を振り切り、壇上にセシリアを乗せてしまい、見ていた公妃は扇で口元を隠し笑っている。
「上手くいったのであろう……先程も騒動があったからな」
「早々に婚約発表ですわね」
「今しそうだが………」
「まぁ………それならそれで……」
悪びれる感じも無く、公王と公妃が安堵の表情を見せていた。
「長い片恋だったのだ、仕方あるまい」
「良かったですわ、実って」
「そうだな」
壇上にリュシエールだけでなくセシリアも上がったので、何があるのか、と不思議そうに見つめられている。
「天気に恵まれ、狩猟日和になり皆もやる気に満ちている事だろう。この私も今やる気に満ちている。今日、一番狩れた者には昇給と昇格と共に、賞金を上乗せする!私は負ける気はしないから、私に勝てるのを目標にせよ!私は勝利を婚約者セシリア・カーターに捧げる!」
「…………え!」
狩猟祭が婚約発表になってしまい、狩猟よりセシリアとリュシエールの婚約が気になり過ぎて、誰もが狩猟どころではなくなってしまった。
結局、リュシエールが1番狩りの結果が良く、公国民達にも、獣の肉が振る舞われ、大盛況にはなったのだが、婚約発表のめでたい知らせの方が上回り、狩猟祭なのか婚約祝の祭なのか分からなくなっていた。
「あ、あの………そろそろ離して頂けないでしょうか………」
「…………ヤダ」
狩猟も終わり、片付け中であるのだが、テントの中に連れ込まれたセシリアは、リュシエールの膝上に座らされている。
リュシエールに腰をがっつり抱えられ、肩に頭を乗せられてから時間も経っている。そして人払いされており、テントの中は2人きりだ。
「興奮してるんだ………落ち着く迄待ってくれる?」
「…………でも片付け等、しているではありませんか………帰らなくて宜しいのですか?」
「…………帰る?…………あぁ……帰らないとな……此処で抱く訳にはいかないし……」
「っ!………抱く?………あ、あの………」
「婚約発表したし、邪魔者の心配無くなっただろう?…………そろそろ私達、愛し合ってもいいんじゃない?」
「あ、愛し合………」
想像してしまうセシリア。顔を手で覆いリュシエールから顔を背けた。
「…………リア、想像した?……可愛いなぁ………私も想像を何度もしたか分からないな…………これからは、城内を自由に歩いていいからね……でも、カーター伯爵家には帰らせないから」
「っ!…………久しぶりに帰らせて下さい!」
「いいけど、夜は私の隣に居なかったら迎えに行くから」
「………ま、毎夜ですか?」
「当然でしょう?………ベッドの中で可愛いがりたいんだから」
「……………っ!ね、閨事に……自信ないです!」
「…………嘘吐きだなぁ………知ってるから大丈夫じゃない?………上書きしちゃうから、今夜から忘れてくれていいよ」
「こ、今夜からですか!?」
「同じ屋根の下に居て、何ヶ月も我慢してたんだから当然だろう?」
リュシエールの指が、セシリアの背を辿る。
「っん!」
「……………身体は覚えてるんだなぁ……可愛い声聞けた……………あぁ………でも此処で抱いてしまいそうだ……私達も帰ろうか」
「…………え?………歩けます!下ろして下さい!」
そのまま抱き上げられ、歩き出したリュシエール。落ちたくないので、リュシエールにしがみついていた。その状態でテントから出てしまうと、まだ人が多く残る場所で、見ないようにする者達が大半だった。
「や、やっぱり下ろして下さい!」
「嫌だって言ったでしょう?」
「殿下、やっと出て来られてそのまま延長したいのでしょうが、城に戻ったら仕事がありますからね」
「…………ヴェル、邪魔しないでくれ」
テント傍に待機していたのか、ヴェルリックがリュシエールの背後から声を掛ける。
「邪魔しますよ………コンラッドの尋問があるじゃないですか」
「ヴェルがよく知ってるんだから、任せる」
「任されても困ります」
「……………お仕事して下さらないなら、私カーター伯爵家に帰ります」
「なっ!」
優先順位を守って欲しい、セシリア。コンラッドの事は引き伸ばしたくはないのだ。
「そ、そんな冷たい事言わないでくれる?リア」
「公子としての職務はしっかりして下さい」
「…………分かった……その代わりしっかりご褒美は貰うから」
「…………わ、分かってます」
ご褒美は何なのかは分かっていた。我慢をしていたリュシエールが理解出来てしまう会話を先程されたのだ。
「殿下、結婚前は控えましょうか」
「控える気は無い」
「っ!」
「リアもそうだろう?」
「わ、私に振らないで下さい!」
馬車に乗っても、膝上に乗せられて目の前に座るヴェルリックの目線が冷たかったのだが、リュシエールが気にしている素振りは全く無く、リュシエールがセシリアに構って来る。
「リュ、リュシー……様っ!」
「ん?」
「あまり………触れるのは……」
頬を撫でられ、耳朶で遊び、髪を手櫛され、こよりを作る様に絡めてセシリアで遊んでいるリュシエール。
「邪魔なヴェルが居るからキスは我慢してるんだけどね………」
「今後も邪魔はすると思いますけど?」
「だって、いちいち反応が可愛くて、触っていたいんだから仕方ないね」
「んっ………」
「あ、ほら………感じる顔がまた可愛い」
「妹なので!………妹の女の顔を兄に見せないでくれます?」
「なら、イチャイチャしてるのを邪魔しないでくれ………城に着いたら仕事するから」
―――確信犯だわ、リュシー様……
仕事と私情は分けるから、仕事していない時は邪魔するな、と言いたいのだろう。それにヴェルリックが居なかったら、今以上の事を仕掛けて来るに違いない、と思ったセシリアだった。
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