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意地悪な碧眼青年と兄

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「意地、悪過ぎにも程がある」
「………何を言ってるんだ、ヴェル」

 リュシーが、セシリアの居る部屋から出て、別の部屋へとやって来た。
 そこにはヴェルリックが居て、リュシーは別の机に向かい始めると、溜まった書類の処理を始めた。

「セシリアに明かしてないんでしょう?」
「面白いじゃないか」
「妹の身も考えて下さいよ」
「別に危険な事ではないじゃないか」

 仮面を取り忘れていたのに気が付き、リュシーは外すと、碧眼の瞳がはっきりと分かる。

「素顔迄隠して、どうせ名前も明かしてないんでしょう?」
「愛称は伝えてるぞ」
「…………そんな、子供の頃に呼ばれた愛称等で呼ばれて嬉しいですか?」
「特別感があるが」
「では、私も貴方の事を愛称で呼びましょうか?」
「止めろ、気持ち悪い」
「私も嫌ですよ、貴方を愛称で呼ぶなんて」
「セシリアに呼ばれるから意味があるんだ」
「…………片恋が実を結びそうになると、益々盲目的になるんですね」
「失礼だな、ヴェル………私はコンラッドと婚約が長いし、私が入る隙が無かったから諦め掛けていたんだ、チャンスが目の前にあって、見す見す逃すものか」
「…………まぁ、セシリアとコンラッドの婚約は子供の頃からでしたしね」

 長い間の片恋に終止符を打ち、別の恋にという気にもなれずにいたリュシーをヴェルリックは知っていた。だからこそ、セシリアとコンラッドの婚約破棄の為に動いたヴェルリックだが、それで上手く行くかどうか等、あとは当人次第だ。

「コンラッドの方は何か変わった事はないか?」
「見張りによると、娼館を追い出された後、別の娼館に行っているそうです」
「………節操のない男だな」
「全くです」
「隠し子も出てきてもおかしくないんじゃないか?」
「娼館は、避妊魔法を掛けられてる筈ですし、その情報は入ってませんよ………令嬢達とは気を付けているのか、隠し子も居ませんね」
「………隠し子居たら面白いだろうなぁ……」
「…………やめて下さいよ……そんなのが居たら、セシリアはコンラッドを管理出来ていなかったんだ、と言われかねないじゃないですか………只でさえ、コンラッドのせいで令嬢達から冷遇の目で見られたりしてるんですから」
「セシリアは悪くないだろ」
「悪くないですよ、悪いのはコンラッドです」

 セシリアがどれだけコンラッドに傷付けられてきたのを見てきたヴェルリックには、コンラッドを奈落の底に突き落としてやりたいぐらいの気持ちでいる。幼い時に決められた婚約に当初は幼馴染であったコンラッドと妹の婚約には祝福をしていたのだが、成人し女の味を知ったコンラッドは豹変してしまった。それからはヴェルリックはコンラッドと距離を置き、疎遠になっていたのだが、セシリアはそうではない。結婚したらなかなか縁も切れなくなり、ヴェルリックの心労も増すのだ。

「それでも、冷遇しようとする空気は変わりません」
「私と結婚したら言われなくなるだろう」
「そうかもしれないですが、私は貴方と義兄弟になるのにも、悩みの種になりそうですけどね」
「聞き捨てならないな……光栄に思ってくれよ」
「一生、頭が上がらないのに、更に血縁になるなんて……」
「光栄に思ってくれ、義兄上」
です!」

 このリュシーという青年。ヴェルリックの上官らしく、ヴェルリックの敬語は崩れる事はない。

「私は、セシリアに紳士的に接する気はないからな、ヴェル」
「は?」
「婚約期間も短いし、平行して結婚式準備も始めた………コンラッドの悔しそうな顔を見ながら、セシリアが私に好意を抱き微笑む様を、結婚式で見せつけてやりたいんだ。ヴェルにもコンラッドにもな」
「…………悪魔ですか、貴方は」
「一々、ヴェルは毒吐くね……」
「純血は守って下さいよ」
「…………娼館に今迄居たんだぞ?無傷な訳ないじゃないか」
「娼館の主はだと言ってましたよ」
調はしてる、と耳に入っている」
「……………ぐっ!」
「態々、私をセシリアに会わせる時間を遅らせただろう、ヴェル」
「……………それが何か?」
「ヴェルが戻って来たと、連絡が入ってから私に顔を出さなかったな」

 そう、セシリアが待ちぼうけになったのは、決してリュシーが仕事が多忙で来れなかった訳ではない。ヴェルリックが遅らせたのだ。
 リュシーがセシリアと会った時、侍女のマーシャに確認し、更にセシリアに探りを入れていたのだ。

「私は、ヴェルを信用しているから、ヴェルが久々に妹と話がしたいだろうと、思っていたんだが、ヴェルは私を信用していないらしい」
「ち、違うんです!それは………その……」
「何が違うんだ」
「セシリアが………一糸纏わぬ様な姿だったので、身支度を…………と」
「………一糸纏わぬ姿?」
「………下着だけだったのですよ……だから、準備に時間を取らせて貰ったのです………貴方の事だから、直ぐに行ってしまうかと………」
「っ!」

 リュシーは想像をしてしまう。恋焦がれていた令嬢と初めて言葉を交わし、美しい姿の中身が如何なっているのか、と。

「娼館では用意してくれなかった様で、卑猥な下着だけであとはシーツを羽織り出てきたもので………」
「…………想像するじゃないか!」
「でしょうね……私は妹なので、欲に駆られませんが、妹でなかったら押し倒す欲に負けるでしょう」
「それも止めろ!想像する!」
「鼻血出ますか?」
「………私が欲求不満だと言いたいのか!」
「……………はなるんじゃないでしょうか……セシリアは身持ちは固いと思いますよ?コンラッドにさえも触れさせなかったんですから」

 形勢逆転を繰り返し、揶揄われた仕返しをお互いに揶揄い返す、リュシーとヴェルリック。

「だが、調はしたんだろう?」
「…………簡単な物みたいでしたけどね」
「ふ~ん………報告書を確認しておかねばな」
「だから、純血は結婚迄は守って下さい」
「♫•*¨*•.¸¸♪」
「…………コンラッドにバラしましょうか?」
「バラす気無いくせに」
「…………チッ……」

 性格はお互いに把握しているから、結局は都合の悪い事を言えば、その話は終わってしまう。
 それからは、仕事に集中してその日の仕事は終わらせ、ヴェルリックはカーター伯爵家に帰宅した。

         ❆❆❆❆❆❆❆

 ―――セシリアに会いに行こうかな……

 リュシーが背を伸ばし、強張っている筋肉を伸ばし、仕事を終わらせ部屋を出ようとしていた。

「失礼します!」
「………如何した?」
「ドラグーン伯爵家で動きがありました」
「…………コンラッドか?」
「はい………カーター伯爵家へ向かったと見ております」

 仮面を手に持って部屋を出ていたリュシーだが、それをポケットにしまい、部下であろうか、報告に来た男に聞く。

「ヴェルリック卿はもう帰宅している……彼が居るなら対処するだろう。カーター伯爵は?もう帰宅しているか?」
「はい、今確認しましたら、一報を聞き付け帰宅されました」
「…………それなら安心だ……明日また報告をヴェルリック卿かカーター伯爵に聞く事にする」
「………はっ!」
「私は部屋に戻る」

 ―――めげないなぁ、あの男は……数日はゆっくり休ませようか、セシリアにコンラッドの話をしてしまいそうだ

 リュシーはそのまま自室へと向かう。
 このリュシー、仕事をする建物と同じ敷地内にある建物内に住んでいた。エヴァーナ公国公子、リュシエール・エヴァーナだった。

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