仮想三国志

三國寿起

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 仮想三国志~蒼遼伝~第六話

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敵将・郭援を討ち取り、意気上がる鍾繇・馬超連合軍は、壺関の城門破壊に取り掛かった。高幹軍の兵士が城門の上から弓を射たり、城門破壊の攻城兵器である衝車を破壊しようと取り掛かるが、周りを固めている馬岱率いる弓騎兵部隊が城門上の敵を射倒していく。
馬岱自身は、薄茶色の鎧に白の布を纏っていた。手には緑色の弓を手にして、自らも城門上の敵を次々に倒していく。
一方の馬超らは、郭援軍をほぼ平定していた。満寵軍は予期せぬ事態に備えて、後方で待機していた。蒼遼は、馬超と龐悳に向かって言った。
「馬超殿、龐悳殿。ここらの敵兵はほぼ平らげました。今から、私たちも壺関に向かい敵軍に圧力を掛けましょう。」
「うむ、そうだな。全軍、壺関に向かい進軍だ!」
馬超・龐悳両騎馬隊が壺関に向かって前進していく。先頭を馬超、その少し後ろに龐悳がいた。蒼遼は軍の中ほどで馬を走らせていた。すると、韓鈴が後ろから追い付き声を掛けた。
「蒼遼様の作戦、お見事でした。敬服いたしました。」
「韓鈴殿を含め、皆さんの助力があってこそです。自分は、作戦を立案したに過ぎませんよ。」
蒼遼がそう言い終えた時、一本の矢が城門から放たれた。その矢はなんと、先頭を走っていた馬超の右足首に命中した。
「ぐっ!」
馬超が呻き声を上げ、馬は主の異変に気がついたのか、前足を上げて嘶いた。それに気づいた龐悳が騎馬隊の進軍を止める。龐悳が馬で駆け寄ると、馬超は彼に構わず進軍するよう目で告げた。龐悳は頷き、騎馬隊を再び進軍させた。
「馬超殿!」
蒼遼が慌てて、馬超に近づく。
「出血が…戻って治療を…。」
「いや、大丈夫だ。」
馬超が首を振って、蒼遼の言葉を遮った。
「それより士叡、布袋を持ってないか?」
「布袋…ですか?それならありますが…。」
「ちょっと貸してくれ。」
蒼遼は袋を差し出すと、馬超はそれで矢が刺さった右足を覆った。
「今はこれで十分。それよりも、さっさとこの戦を終わらせるぞ。」
そう言うと、馬超は再び馬を走らせた。その様子を見て、蒼遼は嘆息した。
「さすがは馬超殿だ。あの怪我を物ともせず再び戦いに戻るとは…。私もこうしてはおれぬ、急ぎ後を追いかけねば!」
蒼遼は馬超を追うように馬を走らせた。

一方の壺関では、攻城兵器が城門をこじ開け、連合軍が一気に流れ込んでいった。
馬超と蒼遼もその中に加わり、敵兵を倒しつつ敵総大将の高幹を捜した。しかし、いくら捜しても肝心の高幹は見つからなかった。
暫くして、壺関を守っていた兵全員が降伏した。馬超ら各部隊の指揮官が連合軍大将の鍾繇の所に集まった。蒼遼も作戦の立案者として、そして怪我をした馬超を支えるため、馬超に帯同した。鍾繇が口を開いた。
「どうやら、敵将・高幹は壺関の城門を破る直前に脱出したようだ。幽州は曹操様の烏丸征伐で戦闘状態。涼州は馬騰様がこちらに味方をしているので通行不可。そう考えると、高幹は旧主・袁紹との関係が良好だった荊州の劉表の下に行った可能性が高い。」
「後を追わなくて大丈夫なのですか?高幹が劉表の下に到達してしまったら、そちらにとっては厄介になるかもしれませんが…。」
蒼遼が懸念を口にしたが、鍾繇はそれを笑って制した。
「蒼遼殿、心配することはない。ここから荊州までは距離がある。それにここ并州と荊州の間には私の管轄下である司州がある。すでに各地の地方官に伝令を送ってある故、捕まるのも時間の問題であろう。」
「ならば、今日はこれで終わりだな。部隊の損害や捕虜の確認をして本営に戻るとするか。」
馬超はそう言うと、馬超は蒼遼に部隊の下に戻るように促した。他の諸将も各々の部隊に戻って行った。

壺関を満寵に任せ、残りの部隊は本営に戻った。馬超は、矢を受けた右足首の治療にあたっていた。
「戦の時はあまり気にならなかったが、よく見ると意外と痛むな…。」
馬超は少し顔を歪めながら言った。側にいた蒼遼は半ば呆れながら馬超を見ていた。
「いくら馬超殿とは言え、今回は無茶しすぎですよ。涼州に帰るまでにはまだ時間はあるので、片付けや帰還の準備は龐悳殿や馬岱殿に任せて、馬超殿は安静にしてください。」
そう言うと、蒼遼は馬超の幕舎を後にした。
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