6 / 10
仮想三国志~蒼遼伝~第五話
しおりを挟む
戦い当日。
蒼遼は、隊列を組んだ兵士たちを万感の思いで見ていた。自分が立案した策を、この大軍団で実現させると思うと、武者震いを感じずにいられなかった。
「士叡。」
傍にいた馬超が、口を開いた。
「良い表情をしている。初めて異民族討伐の軍に従軍した時とは、全く違うな。」
「あの時は、ガチガチでしたから…。ただ、今回は自分の策をこの大軍団で実行できると思うと、胸の高まりを抑えられません。」
「ふっ…。お前のその表情を見ると、不思議と負ける気がしない。」
そう言うと、馬超は馬に跨った。
「さあ馬に乗れ、士叡。そろそろ、満寵殿の軍が動き出すころだ。」
蒼遼が馬に跨ると、今まさに満寵軍が進撃するところだった。
蒼遼が属する馬超と逆側にいる龐悳の騎馬隊は、それぞれ壺関から見えにくい崖の陰に隠れる形で駐屯している。馬岱の歩兵部隊と鍾繇の攻城兵器部隊は、満寵軍の後方に待機していた。
馬超と蒼遼が槍を手にすると、遠くの方で金属音が聞こえ始めた。剣と剣とがぶつかる音、満寵軍と郭援軍が戦を開始したことを告げる音でもあった。
「いよいよだな。」
馬超の目つきが、戦をする時の鋭さに変わっていた。それを見て、蒼遼も気を引き締める。そこに、斥候が馬超と蒼遼に情報を伝えに来た。
「報告!満寵殿の部隊が後退を始めました。敵軍は満寵殿の部隊に歩兵部隊で追撃を掛けるのみで、弓矢での攻撃は行っておりません。」
「弓矢を打っていない…。満寵軍が後退に転じたため、安心しているのでしょう。」
「それこそ、騎馬隊が突撃するのに絶好の条件よ。満寵軍の旗が見えたら、突撃して大いにかき乱してやる!」
しばらくして、満寵軍の旗が顔をのぞかせた。
「行くぞ、全軍突撃!」
馬超の号令と共に、騎馬隊が一斉に駆けだした。蒼遼は、先頭を駆ける馬超の右斜め後ろに付いた。
騎馬隊が、出発地点と奇襲地点との半ばくらいに差し掛かった頃、郭援隊の先頭が顔をのぞかせていた。
この後の作戦予定では、馬超と龐悳の騎馬隊が両側から敵部隊を挟み撃ちにすると同時に、満寵の歩兵部隊も反転して攻撃。敵軍が混乱している隙に鍾繇と馬岱が率いる攻城兵器と弓騎兵と歩兵の混成部隊が壺関を破る手筈になっている。壺関で守備をしている本隊は、馬が駆けるときに出る土煙で奇襲のことは気づいている筈だが、勝ちに逸っている部隊を止めるのは難しい。ましてや、本隊から引き離されていれば尚更である。
崖の切れ間、郭援隊の端にいた兵士の数人が騎馬隊に気づき驚きの表情を浮かべる。が、時すでに遅し、その瞬間に騎馬隊に蹴散らされていた。
蒼遼の属する馬超率いる騎馬隊は、郭援隊の奇襲に成功した。反対側でも喊声が聞こえた。龐悳率いる騎馬隊も、同時に奇襲に成功したようだ。両側から騎馬隊に挟み撃ちにされて、郭援隊は大混乱に陥っていた。後退を続けていた満寵隊も反攻を開始し、流れは一気に鍾繇・馬超連合軍に傾いた。
蒼遼が迫る敵兵を打ち倒していると、すぐ横で華麗に細剣を振るう人物の姿が見えた。共に従軍していた韓玲であった。二人がすれ違う直前、韓玲は蒼遼に向かって軽く微笑んだ。蒼遼もそれに応えて軽く頷くと同時に敵兵を斬り払った。
馬超と龐悳もそれぞれの武器を持って、敵兵を斬り伏せていく。二人の戦い方は両極端な戦い方であった。
馬超はお気に入りの錦の直垂と白色の鎧、そして獅子頭の兜を身に着け、朱色の槍を手にしていた。そこが戦場とは思えぬような流れる動きで敵を打ち倒し、馬を駆けていく。馬超が、涼州で錦馬超と呼ばれる所以である。
一方の龐悳は全身黒一色の鎧に身を固め、これもまた漆黒の戟を手にしている。龐悳の戦振りは、愛用の戟にて豪快に敵を斬り倒す戦い方。その姿は、さながら鬼武者の様である。
馬超・龐悳の部隊が敵を蹂躙していると、少し先で馬に乗って大剣を振り回し戦う人影が見えた。この部隊の指揮官である郭援であった。
一足早く駆け出したのは龐悳であった。馬超もその後に続く。龐悳が郭援に向かって戟を振り上げる。龐悳の存在に気づいた郭援が、大剣でその攻撃をいなす。その周りで龐悳に向かってくる敵兵を馬超が槍を振るって阻んでいた。
四合、五合と打ち合ったが、六合目で龐悳の戟が郭援の大剣を叩き落とした。呆気に取られる郭援に、龐悳は最後の一撃を振り下ろした。
「敵将・郭援、この龐悳が討ち取ったぞ!」
戦場に龐悳の大声が響き渡った。馬超がそれに呼応して槍を突き上げる。蒼遼も槍を上げて兵士を鼓舞した。味方の兵士が一斉に歓声を上げる。一方、主を失ったことを悟った郭援隊の兵士は一気に瓦解した。散り散りになって逃走する兵士の中を、鍾繇率いる攻城兵器部隊とそれを護衛する馬岱率いる弓騎兵部隊が進軍していく。
戦い遂に、後半戦に差し掛かろうとしていた…。
蒼遼は、隊列を組んだ兵士たちを万感の思いで見ていた。自分が立案した策を、この大軍団で実現させると思うと、武者震いを感じずにいられなかった。
「士叡。」
傍にいた馬超が、口を開いた。
「良い表情をしている。初めて異民族討伐の軍に従軍した時とは、全く違うな。」
「あの時は、ガチガチでしたから…。ただ、今回は自分の策をこの大軍団で実行できると思うと、胸の高まりを抑えられません。」
「ふっ…。お前のその表情を見ると、不思議と負ける気がしない。」
そう言うと、馬超は馬に跨った。
「さあ馬に乗れ、士叡。そろそろ、満寵殿の軍が動き出すころだ。」
蒼遼が馬に跨ると、今まさに満寵軍が進撃するところだった。
蒼遼が属する馬超と逆側にいる龐悳の騎馬隊は、それぞれ壺関から見えにくい崖の陰に隠れる形で駐屯している。馬岱の歩兵部隊と鍾繇の攻城兵器部隊は、満寵軍の後方に待機していた。
馬超と蒼遼が槍を手にすると、遠くの方で金属音が聞こえ始めた。剣と剣とがぶつかる音、満寵軍と郭援軍が戦を開始したことを告げる音でもあった。
「いよいよだな。」
馬超の目つきが、戦をする時の鋭さに変わっていた。それを見て、蒼遼も気を引き締める。そこに、斥候が馬超と蒼遼に情報を伝えに来た。
「報告!満寵殿の部隊が後退を始めました。敵軍は満寵殿の部隊に歩兵部隊で追撃を掛けるのみで、弓矢での攻撃は行っておりません。」
「弓矢を打っていない…。満寵軍が後退に転じたため、安心しているのでしょう。」
「それこそ、騎馬隊が突撃するのに絶好の条件よ。満寵軍の旗が見えたら、突撃して大いにかき乱してやる!」
しばらくして、満寵軍の旗が顔をのぞかせた。
「行くぞ、全軍突撃!」
馬超の号令と共に、騎馬隊が一斉に駆けだした。蒼遼は、先頭を駆ける馬超の右斜め後ろに付いた。
騎馬隊が、出発地点と奇襲地点との半ばくらいに差し掛かった頃、郭援隊の先頭が顔をのぞかせていた。
この後の作戦予定では、馬超と龐悳の騎馬隊が両側から敵部隊を挟み撃ちにすると同時に、満寵の歩兵部隊も反転して攻撃。敵軍が混乱している隙に鍾繇と馬岱が率いる攻城兵器と弓騎兵と歩兵の混成部隊が壺関を破る手筈になっている。壺関で守備をしている本隊は、馬が駆けるときに出る土煙で奇襲のことは気づいている筈だが、勝ちに逸っている部隊を止めるのは難しい。ましてや、本隊から引き離されていれば尚更である。
崖の切れ間、郭援隊の端にいた兵士の数人が騎馬隊に気づき驚きの表情を浮かべる。が、時すでに遅し、その瞬間に騎馬隊に蹴散らされていた。
蒼遼の属する馬超率いる騎馬隊は、郭援隊の奇襲に成功した。反対側でも喊声が聞こえた。龐悳率いる騎馬隊も、同時に奇襲に成功したようだ。両側から騎馬隊に挟み撃ちにされて、郭援隊は大混乱に陥っていた。後退を続けていた満寵隊も反攻を開始し、流れは一気に鍾繇・馬超連合軍に傾いた。
蒼遼が迫る敵兵を打ち倒していると、すぐ横で華麗に細剣を振るう人物の姿が見えた。共に従軍していた韓玲であった。二人がすれ違う直前、韓玲は蒼遼に向かって軽く微笑んだ。蒼遼もそれに応えて軽く頷くと同時に敵兵を斬り払った。
馬超と龐悳もそれぞれの武器を持って、敵兵を斬り伏せていく。二人の戦い方は両極端な戦い方であった。
馬超はお気に入りの錦の直垂と白色の鎧、そして獅子頭の兜を身に着け、朱色の槍を手にしていた。そこが戦場とは思えぬような流れる動きで敵を打ち倒し、馬を駆けていく。馬超が、涼州で錦馬超と呼ばれる所以である。
一方の龐悳は全身黒一色の鎧に身を固め、これもまた漆黒の戟を手にしている。龐悳の戦振りは、愛用の戟にて豪快に敵を斬り倒す戦い方。その姿は、さながら鬼武者の様である。
馬超・龐悳の部隊が敵を蹂躙していると、少し先で馬に乗って大剣を振り回し戦う人影が見えた。この部隊の指揮官である郭援であった。
一足早く駆け出したのは龐悳であった。馬超もその後に続く。龐悳が郭援に向かって戟を振り上げる。龐悳の存在に気づいた郭援が、大剣でその攻撃をいなす。その周りで龐悳に向かってくる敵兵を馬超が槍を振るって阻んでいた。
四合、五合と打ち合ったが、六合目で龐悳の戟が郭援の大剣を叩き落とした。呆気に取られる郭援に、龐悳は最後の一撃を振り下ろした。
「敵将・郭援、この龐悳が討ち取ったぞ!」
戦場に龐悳の大声が響き渡った。馬超がそれに呼応して槍を突き上げる。蒼遼も槍を上げて兵士を鼓舞した。味方の兵士が一斉に歓声を上げる。一方、主を失ったことを悟った郭援隊の兵士は一気に瓦解した。散り散りになって逃走する兵士の中を、鍾繇率いる攻城兵器部隊とそれを護衛する馬岱率いる弓騎兵部隊が進軍していく。
戦い遂に、後半戦に差し掛かろうとしていた…。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
姫様、江戸を斬る 黒猫玉の御家騒動記
あこや(亜胡夜カイ)
歴史・時代
旧題:黒猫・玉、江戸を駆ける。~美弥姫初恋顛末~
つやつやの毛並みと緑の目がご自慢の黒猫・玉の飼い主は大名家の美弥姫様。この姫様、見目麗しいのにとんだはねかえりで新陰流・免許皆伝の腕前を誇る変わり者。その姫様が恋をしたらしい。もうすぐお輿入れだというのに。──男装の美弥姫が江戸の町を徘徊中、出会った二人の若侍、律と若。二人のお家騒動に自ら首を突っ込んだ姫の身に危険が迫る。そして初恋の行方は──
花のお江戸で美猫と姫様が大活躍!外題は~みやひめはつこいのてんまつ~
第6回歴史・時代小説大賞で大賞を頂きました!皆さまよりの応援、お励ましに心より御礼申し上げます。
有難うございました。
~お知らせ~現在、書籍化進行中でございます。21/9/16をもちまして、非公開とさせて頂きます。書籍化に関わる詳細は、以降近況ボードでご報告予定です。どうぞよろしくお願い致します。
鈍牛
綿涙粉緒
歴史・時代
浅草一体を取り仕切る目明かし大親分、藤五郎。
町内の民草はもちろん、十手持ちの役人ですら道を開けて頭をさげようかという男だ。
そんな男の二つ名は、鈍牛。
これは、鈍く光る角をたたえた、眼光鋭き牛の物語である。
浅井長政は織田信長に忠誠を誓う
ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
局中法度
夢酔藤山
歴史・時代
局中法度は絶対の掟。
士道に叛く行ないの者が負う責め。
鉄の掟も、バレなきゃいいだろうという甘い考えを持つ者には意味を為さない。
新選組は甘えを決して見逃さぬというのに……。
夜鳴き屋台小咄
西崎 劉
歴史・時代
屋台を営む三人が遭遇する、小話。
時代設定は江戸頃としていますが、江戸時代でも、場所が東京ではなかったりします。時代物はまぁ、侍が多めなので、できれば庶民目線の話が読みたくて、書いてみようかなと。色々と勉強不足の部分が多いですが、暇つぶしにどうぞくらいなら、いいかなとチャレンジしました。
北武の寅 <幕末さいたま志士伝>
海野 次朗
歴史・時代
タイトルは『北武の寅』(ほくぶのとら)と読みます。
幕末の埼玉人にスポットをあてた作品です。主人公は熊谷北郊出身の吉田寅之助という青年です。他に渋沢栄一(尾高兄弟含む)、根岸友山、清水卯三郎、斎藤健次郎などが登場します。さらにベルギー系フランス人のモンブランやフランスお政、五代才助(友厚)、松木弘安(寺島宗則)、伊藤俊輔(博文)なども登場します。
根岸友山が出る関係から新選組や清河八郎の話もあります。また、渋沢栄一やモンブランが出る関係からパリ万博などパリを舞台とした場面が何回かあります。
前作の『伊藤とサトウ』と違って今作は史実重視というよりも、より「小説」に近い形になっているはずです。ただしキャラクターや時代背景はかなり重複しております。『伊藤とサトウ』でやれなかった事件を深掘りしているつもりですので、その点はご了承ください。
(※この作品は「NOVEL DAYS」「小説家になろう」「カクヨム」にも転載してます)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる