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仮想三国志~蒼遼伝~プロローグ
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~西暦193年 徐州小沛県~
三人の若者が徐州の小沛の城に入って行った。三人の若者はある広い部屋の中ほどまで進むと、片膝をついた。彼らの先には、耳の大きい男が座っていた。その表情は優しく、人を惹き付ける魅力を放っていた。男の名は劉備、字は玄徳という。のちに蜀漢の皇帝にまで昇りつめる男であるが、今は徐州の一都市・小沛の新たな城主の官職に就いている。
そして、その左右に二人の大男が、劉備を守るように侍立していた。
向かって右の男は、身長九尺(現代で約二百八センチ)もあり、顎には豊かな髭を蓄えていた。その立派な体格からは、他を逸した雰囲気を醸し出していた。彼の名は関羽、字は雲長という。戦場では、青龍偃月刀を引っ提げ参戦しその姿は敵味方問わず、尊敬を集める武将である。
そして左の男は、身長八尺(現代で約百八十四センチ)、ドングリ眼で虎髭を生やしていた。その姿は、まさしく荒々しい猛将を思わせる風貌である。彼の名は張飛、字を翼徳という。劉備・関羽とは義兄弟であり、張飛はその一番下の弟である。戦場では、愛用の蛇矛を振って戦い、関羽と共に「兵一万に匹敵する武勇」と評された武将である。
三人を見まわした後、劉備が口を開いた。
「お前たちのことは、麋竺殿から聞いている。お前たち三人は私に仕えたいと思っているようだな。」
「はっ、我ら三人。蒼遼士永、簡瑜仲元、法季子長は劉備様にお仕えしたく参りました。」
若者の一人であり、真ん中にいた蒼遼が言った。
「お前たち、歳はいくつになる。」
「私と左に居ります仲元が十六、右に居ります子長は十七になります。」
劉備はしばらく考えて言った。
「お前たち三人は、まだ世間を知らないであろう。しばらく各地を旅し、世間を見、しかる後に自分に合う者に仕えるがよかろう。」
「何を言うか、兄者。」
そう言ったのは、張飛である。
「なぜ登用しない。味方は多いに越したことはないではないか。」
「翼徳の言うとおりです、兄者。わざわざ、仕えたいと申している者たちを拒む理由はないのでは?」
関羽も張飛の意見に賛同したが、劉備は首を横に振った。
「雲長、翼徳、私もこの者たちを配下に迎えたくないと思っているわけではない。しかし今、我々の状況が厳しいのは知っていよう。それにこの先、私がこの小沛一帯や徐州を将来的に確保できる保証はない。この者たちはまだ若い。この未来ある若者たちの可能性を、私たちのせいで狭めてしまいたくないのだ。」
そう言い、劉備は窓の外を見つめた。そして、三人の方に向き直ると言った。
「よし、そこの三人に試練を課す。お前たちはこれから諸国を巡って知勇を磨き、そして他の群雄と私を比較せよ。それでも私に仕えたければ、私のもとにまた来るが良い。その時は喜んで登用しよう。我らもお前たちのため、頑張ってこの乱世を生き延びよう。それでよいか。」
「はっ。その試練、謹んでお受けいたしましょう。」
三人は威勢よく答えた。
しばらくして、三人は小沛の城門をでた。
蒼遼が言った。
「なあ、これからどうする?」
「三人一緒に行っても仕方あるまい。これからは、各自別々に行動しよう。」
法季の提案に簡瑜も頷いた。
「よし、決まりだな。しばらくはこうして三人揃うこともあるまい。」
「また、こうして三人で語り合いたいが、逆に士永や子長と戦ってみたい気持ちもある。」
簡瑜が笑っていった。
「その時は、お互い全力で勝負しよう。それじゃあ達者で、士永、仲元。」
法季が手を振った。
「あぁ、それじゃあお互い元気でな。」
蒼遼と簡瑜も手を振り返した。
そして蒼遼、簡瑜、法季の三人はそれぞれ思い思いの方向に進んでいった。
三人の物語はまだ始まったばかりである。
三人の若者が徐州の小沛の城に入って行った。三人の若者はある広い部屋の中ほどまで進むと、片膝をついた。彼らの先には、耳の大きい男が座っていた。その表情は優しく、人を惹き付ける魅力を放っていた。男の名は劉備、字は玄徳という。のちに蜀漢の皇帝にまで昇りつめる男であるが、今は徐州の一都市・小沛の新たな城主の官職に就いている。
そして、その左右に二人の大男が、劉備を守るように侍立していた。
向かって右の男は、身長九尺(現代で約二百八センチ)もあり、顎には豊かな髭を蓄えていた。その立派な体格からは、他を逸した雰囲気を醸し出していた。彼の名は関羽、字は雲長という。戦場では、青龍偃月刀を引っ提げ参戦しその姿は敵味方問わず、尊敬を集める武将である。
そして左の男は、身長八尺(現代で約百八十四センチ)、ドングリ眼で虎髭を生やしていた。その姿は、まさしく荒々しい猛将を思わせる風貌である。彼の名は張飛、字を翼徳という。劉備・関羽とは義兄弟であり、張飛はその一番下の弟である。戦場では、愛用の蛇矛を振って戦い、関羽と共に「兵一万に匹敵する武勇」と評された武将である。
三人を見まわした後、劉備が口を開いた。
「お前たちのことは、麋竺殿から聞いている。お前たち三人は私に仕えたいと思っているようだな。」
「はっ、我ら三人。蒼遼士永、簡瑜仲元、法季子長は劉備様にお仕えしたく参りました。」
若者の一人であり、真ん中にいた蒼遼が言った。
「お前たち、歳はいくつになる。」
「私と左に居ります仲元が十六、右に居ります子長は十七になります。」
劉備はしばらく考えて言った。
「お前たち三人は、まだ世間を知らないであろう。しばらく各地を旅し、世間を見、しかる後に自分に合う者に仕えるがよかろう。」
「何を言うか、兄者。」
そう言ったのは、張飛である。
「なぜ登用しない。味方は多いに越したことはないではないか。」
「翼徳の言うとおりです、兄者。わざわざ、仕えたいと申している者たちを拒む理由はないのでは?」
関羽も張飛の意見に賛同したが、劉備は首を横に振った。
「雲長、翼徳、私もこの者たちを配下に迎えたくないと思っているわけではない。しかし今、我々の状況が厳しいのは知っていよう。それにこの先、私がこの小沛一帯や徐州を将来的に確保できる保証はない。この者たちはまだ若い。この未来ある若者たちの可能性を、私たちのせいで狭めてしまいたくないのだ。」
そう言い、劉備は窓の外を見つめた。そして、三人の方に向き直ると言った。
「よし、そこの三人に試練を課す。お前たちはこれから諸国を巡って知勇を磨き、そして他の群雄と私を比較せよ。それでも私に仕えたければ、私のもとにまた来るが良い。その時は喜んで登用しよう。我らもお前たちのため、頑張ってこの乱世を生き延びよう。それでよいか。」
「はっ。その試練、謹んでお受けいたしましょう。」
三人は威勢よく答えた。
しばらくして、三人は小沛の城門をでた。
蒼遼が言った。
「なあ、これからどうする?」
「三人一緒に行っても仕方あるまい。これからは、各自別々に行動しよう。」
法季の提案に簡瑜も頷いた。
「よし、決まりだな。しばらくはこうして三人揃うこともあるまい。」
「また、こうして三人で語り合いたいが、逆に士永や子長と戦ってみたい気持ちもある。」
簡瑜が笑っていった。
「その時は、お互い全力で勝負しよう。それじゃあ達者で、士永、仲元。」
法季が手を振った。
「あぁ、それじゃあお互い元気でな。」
蒼遼と簡瑜も手を振り返した。
そして蒼遼、簡瑜、法季の三人はそれぞれ思い思いの方向に進んでいった。
三人の物語はまだ始まったばかりである。
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