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陽太郎の巣作り

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「——え、み、みやまえ?」 

「久しぶりだな、志久。——いや、今は花咲、か」 


 ——薄暗い中、足元をライトに照らされ立っていたのは、あの宮前だった。 


「は? なんでここにいんだよ」 

「いや、俺も招待を受けて来ている」 

「な、何嘘いってんだよ。俺、さっきまで会場にいたのに、お前いなかったじゃん。それに宮前の名前は来賓の中になかったし」 


 斗貴哉と一緒に覚えた来賓リストに宮前の名前はなかった。あったら絶対に忘れない。 

 それに斗貴哉との婚約を破談にした宮前が、斗貴哉の婿である俺のお披露目会に呼ばれる筈がない。 

 ……だが、この会場に入るには招待状は必須だ。 


「——すまない、嘘をついた。招待を受けたのは父の会社の幹部だ。俺はその同伴者としてここに来た」 

「なんでくんだよ。誘われてもフツーこねーだろ」 

「——あんたに、謝りたくて」 

「はぁ? 何をいまさら。ヒカルは? 今どうしてんだよ」 

「ヒカルは、今はアメリカの俺のアパートにいる」 

「なんでお前だけこっちにいんだよ。大学はどうしたよ」 

「……会社の都合で休学して、今はこっちに帰ってきているところだ」 

「ヒカルを置いてか!?」 


 なんでヒカルを置いてきてんだよ。あんな弱っちいヒカルを1人見知らぬ土地に置き去りにして、なんで1人でのこのこ日本に帰ってきてんだよ。身勝手な宮前に無性に腹が立つ。 


「ヒカルのことは本当にすまなかった。俺もあんなふうに奪うつもりじゃなかったんだ」 

「は! あんな連れ去り方しといて、何言ってんだよ。お前は何もかも知ってて、あの日運命の番であるヒカルを、俺から奪いに来たんじゃないのかよ」 

「違う。誤解なんだ」 


 宮前が俺のほうに一歩近づく。だが俺は、距離を詰められないように、歩数の分だけ後ずさる。 


「誤解ってなんだよ。お前、前に俺からヒカルの匂いを感じ取ってたじゃないか。それをあの日、俺がヒカルと会うのを知って、確かめに来たんだろーが」 

「そうじゃない、本当に違うんだ」 

「何が違うんだよ。そのまんまじゃねえか」 

「違うんだ、聞いてくれ志久。俺は、あの匂いはお前のものだと思ってたんだ」 


 宮前が近づくたび、俺は後ずさり、最後はコツンと踵が花壇のブロックに当たった。 


「は? ——……あ、ちょ、ストップ、止まれ宮前」 

「俺はずっと、俺の相手はお前だと思っていた」 

「いや、おかしいだろ、それ。匂いって。俺アルファだし。おい、マジ止まれよ。近い!」 

「運命の番がアルファとオメガだけって誰が決めた? 前例がないだけで、あるかもしれない。ずっと気になっていた。その甘い匂いが」 


 宮前が俺のすぐ目の前に立ち、木に吊るされたライトの灯りが影を作った。 


(宮前ってこんなにでかかったっけ……?) 


 こんな至近距離で宮前を見上げたことは初めてだった。 


「……斗貴哉と一緒になったってことは、志久はもうオメガになったのか」 

「は——」 


 俺を見下ろす宮前の顔は、暗く影になっているにもかかわらず、なぜだか目だけが光ってみえた。怖いと思った刹那、俺の体に背中から頭にかけてブルっと震えがきた。 

 これまで宮前を怖いと思ったことなんかなかった。 

 俺よりちょっと背が高いくらいなんだ、たいしたことじゃない。そんなことで怖がるような俺じゃない。 

 ——それなのに、今はなぜか怖い。 


「……だからなんだよ。なっちゃ悪いのかよ。つーか、なってねえよ」 

「——なってない? 本当に? 志久、その甘い匂い、誰にも何も言われないのか」 

「……え?」 


 嘘、匂いする? 俺から? 

 何を言ってんだって、宮前はどっか狂ってしまったんじゃないかって、怖くて仕方がない。 
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