20 / 24
陽太郎の巣作り
3
しおりを挟む
「——え、み、みやまえ?」
「久しぶりだな、志久。——いや、今は花咲、か」
——薄暗い中、足元をライトに照らされ立っていたのは、あの宮前だった。
「は? なんでここにいんだよ」
「いや、俺も招待を受けて来ている」
「な、何嘘いってんだよ。俺、さっきまで会場にいたのに、お前いなかったじゃん。それに宮前の名前は来賓の中になかったし」
斗貴哉と一緒に覚えた来賓リストに宮前の名前はなかった。あったら絶対に忘れない。
それに斗貴哉との婚約を破談にした宮前が、斗貴哉の婿である俺のお披露目会に呼ばれる筈がない。
……だが、この会場に入るには招待状は必須だ。
「——すまない、嘘をついた。招待を受けたのは父の会社の幹部だ。俺はその同伴者としてここに来た」
「なんでくんだよ。誘われてもフツーこねーだろ」
「——あんたに、謝りたくて」
「はぁ? 何をいまさら。ヒカルは? 今どうしてんだよ」
「ヒカルは、今はアメリカの俺のアパートにいる」
「なんでお前だけこっちにいんだよ。大学はどうしたよ」
「……会社の都合で休学して、今はこっちに帰ってきているところだ」
「ヒカルを置いてか!?」
なんでヒカルを置いてきてんだよ。あんな弱っちいヒカルを1人見知らぬ土地に置き去りにして、なんで1人でのこのこ日本に帰ってきてんだよ。身勝手な宮前に無性に腹が立つ。
「ヒカルのことは本当にすまなかった。俺もあんなふうに奪うつもりじゃなかったんだ」
「は! あんな連れ去り方しといて、何言ってんだよ。お前は何もかも知ってて、あの日運命の番であるヒカルを、俺から奪いに来たんじゃないのかよ」
「違う。誤解なんだ」
宮前が俺のほうに一歩近づく。だが俺は、距離を詰められないように、歩数の分だけ後ずさる。
「誤解ってなんだよ。お前、前に俺からヒカルの匂いを感じ取ってたじゃないか。それをあの日、俺がヒカルと会うのを知って、確かめに来たんだろーが」
「そうじゃない、本当に違うんだ」
「何が違うんだよ。そのまんまじゃねえか」
「違うんだ、聞いてくれ志久。俺は、あの匂いはお前のものだと思ってたんだ」
宮前が近づくたび、俺は後ずさり、最後はコツンと踵が花壇のブロックに当たった。
「は? ——……あ、ちょ、ストップ、止まれ宮前」
「俺はずっと、俺の相手はお前だと思っていた」
「いや、おかしいだろ、それ。匂いって。俺アルファだし。おい、マジ止まれよ。近い!」
「運命の番がアルファとオメガだけって誰が決めた? 前例がないだけで、あるかもしれない。ずっと気になっていた。その甘い匂いが」
宮前が俺のすぐ目の前に立ち、木に吊るされたライトの灯りが影を作った。
(宮前ってこんなにでかかったっけ……?)
こんな至近距離で宮前を見上げたことは初めてだった。
「……斗貴哉と一緒になったってことは、志久はもうオメガになったのか」
「は——」
俺を見下ろす宮前の顔は、暗く影になっているにもかかわらず、なぜだか目だけが光ってみえた。怖いと思った刹那、俺の体に背中から頭にかけてブルっと震えがきた。
これまで宮前を怖いと思ったことなんかなかった。
俺よりちょっと背が高いくらいなんだ、たいしたことじゃない。そんなことで怖がるような俺じゃない。
——それなのに、今はなぜか怖い。
「……だからなんだよ。なっちゃ悪いのかよ。つーか、なってねえよ」
「——なってない? 本当に? 志久、その甘い匂い、誰にも何も言われないのか」
「……え?」
嘘、匂いする? 俺から?
何を言ってんだって、宮前はどっか狂ってしまったんじゃないかって、怖くて仕方がない。
「久しぶりだな、志久。——いや、今は花咲、か」
——薄暗い中、足元をライトに照らされ立っていたのは、あの宮前だった。
「は? なんでここにいんだよ」
「いや、俺も招待を受けて来ている」
「な、何嘘いってんだよ。俺、さっきまで会場にいたのに、お前いなかったじゃん。それに宮前の名前は来賓の中になかったし」
斗貴哉と一緒に覚えた来賓リストに宮前の名前はなかった。あったら絶対に忘れない。
それに斗貴哉との婚約を破談にした宮前が、斗貴哉の婿である俺のお披露目会に呼ばれる筈がない。
……だが、この会場に入るには招待状は必須だ。
「——すまない、嘘をついた。招待を受けたのは父の会社の幹部だ。俺はその同伴者としてここに来た」
「なんでくんだよ。誘われてもフツーこねーだろ」
「——あんたに、謝りたくて」
「はぁ? 何をいまさら。ヒカルは? 今どうしてんだよ」
「ヒカルは、今はアメリカの俺のアパートにいる」
「なんでお前だけこっちにいんだよ。大学はどうしたよ」
「……会社の都合で休学して、今はこっちに帰ってきているところだ」
「ヒカルを置いてか!?」
なんでヒカルを置いてきてんだよ。あんな弱っちいヒカルを1人見知らぬ土地に置き去りにして、なんで1人でのこのこ日本に帰ってきてんだよ。身勝手な宮前に無性に腹が立つ。
「ヒカルのことは本当にすまなかった。俺もあんなふうに奪うつもりじゃなかったんだ」
「は! あんな連れ去り方しといて、何言ってんだよ。お前は何もかも知ってて、あの日運命の番であるヒカルを、俺から奪いに来たんじゃないのかよ」
「違う。誤解なんだ」
宮前が俺のほうに一歩近づく。だが俺は、距離を詰められないように、歩数の分だけ後ずさる。
「誤解ってなんだよ。お前、前に俺からヒカルの匂いを感じ取ってたじゃないか。それをあの日、俺がヒカルと会うのを知って、確かめに来たんだろーが」
「そうじゃない、本当に違うんだ」
「何が違うんだよ。そのまんまじゃねえか」
「違うんだ、聞いてくれ志久。俺は、あの匂いはお前のものだと思ってたんだ」
宮前が近づくたび、俺は後ずさり、最後はコツンと踵が花壇のブロックに当たった。
「は? ——……あ、ちょ、ストップ、止まれ宮前」
「俺はずっと、俺の相手はお前だと思っていた」
「いや、おかしいだろ、それ。匂いって。俺アルファだし。おい、マジ止まれよ。近い!」
「運命の番がアルファとオメガだけって誰が決めた? 前例がないだけで、あるかもしれない。ずっと気になっていた。その甘い匂いが」
宮前が俺のすぐ目の前に立ち、木に吊るされたライトの灯りが影を作った。
(宮前ってこんなにでかかったっけ……?)
こんな至近距離で宮前を見上げたことは初めてだった。
「……斗貴哉と一緒になったってことは、志久はもうオメガになったのか」
「は——」
俺を見下ろす宮前の顔は、暗く影になっているにもかかわらず、なぜだか目だけが光ってみえた。怖いと思った刹那、俺の体に背中から頭にかけてブルっと震えがきた。
これまで宮前を怖いと思ったことなんかなかった。
俺よりちょっと背が高いくらいなんだ、たいしたことじゃない。そんなことで怖がるような俺じゃない。
——それなのに、今はなぜか怖い。
「……だからなんだよ。なっちゃ悪いのかよ。つーか、なってねえよ」
「——なってない? 本当に? 志久、その甘い匂い、誰にも何も言われないのか」
「……え?」
嘘、匂いする? 俺から?
何を言ってんだって、宮前はどっか狂ってしまったんじゃないかって、怖くて仕方がない。
1
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
処女姫Ωと帝の初夜
切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。
七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。
幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・
『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。
歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。
フツーの日本語で書いています。
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは
マフィアのボスの愛人まで潜入していた。
だがある日、それがボスにバレて、
執着監禁されちゃって、
幸せになっちゃう話
少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に
メロメロに溺愛されちゃう。
そんなハッピー寄りなティーストです!
▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、
雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです!
_____
▶︎タイトルそのうち変えます
2022/05/16変更!
拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です
2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。
▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎
_____
出産は一番の快楽
及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。
とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。
【注意事項】
*受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。
*寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め
*倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意
*軽く出産シーン有り
*ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り
続編)
*近親相姦・母子相姦要素有り
*奇形発言注意
*カニバリズム発言有り
凶悪犯がお気に入り刑事を逆に捕まえて、ふわとろま●こになるまで調教する話
ハヤイもち
BL
連続殺人鬼「赤い道化師」が自分の事件を担当する刑事「桐井」に一目惚れして、
監禁して調教していく話になります。
攻め:赤い道化師(連続殺人鬼)19歳。180センチくらい。美形。プライドが高い。サイコパス。
人を楽しませるのが好き。
受け:刑事:名前 桐井 30過ぎから半ば。170ちょいくらい。仕事一筋で妻に逃げられ、酒におぼれている。顔は普通。目つきは鋭い。
※●人描写ありますので、苦手な方は閲覧注意になります。
タイトルで嫌な予感した方はブラウザバック。
※無理やり描写あります。
※読了後の苦情などは一切受け付けません。ご自衛ください。
俺の番が変態で狂愛過ぎる
moca
BL
御曹司鬼畜ドSなα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!!
ほぼエロです!!気をつけてください!!
※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!!
※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️
初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀
βの僕、激強αのせいでΩにされた話
ずー子
BL
オメガバース。BL。主人公君はβ→Ω。
αに言い寄られるがβなので相手にせず、Ωの優等生に片想いをしている。それがαにバレて色々あってΩになっちゃう話です。
β(Ω)視点→α視点。アレな感じですが、ちゃんとラブラブエッチです。
他の小説サイトにも登録してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる