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 朝、布団の中で爆睡していると、ドアの外からノック音とお手伝いさんの「陽太郎様、起きていらっしゃいますか」という声で俺は飛び起きた。  

 慌ててスマホを見る。朝8時に待ち合わせして今8時半過ぎだ。ヒカルから15分おきの着信が2回と、メッセージが2通。最後のメッセージは『心配だから、これからおうちに行くね』だった。 


(うわ~やべー寝過ごした) 


 飛行機は10時半。今からダッシュで準備して車で空港まで行ったら、ギリ間に合うかくらい。 


(マジか~) 


「陽太郎様、ご婚約者様がいらっしゃっていますが、いかがいたしましょうか」 

「……ん~、ちょっと待ってもらっててー」 

「かしこまりました」 


 お手伝いさんが去っていく足音を聞きながら、俺はボサボサの髪を手ぐしで直しつつ、布団から這い出た。 

 でもまだ頭は眠くてだるい。そして、旅行に行くのがすげー面倒臭くなっていた。 


(行かねーって言ったら、ヒカル泣くかな。いや泣かないか。きっとニコニコしてるだろ。ヒカルだし) 


 でも旅行の用意はできてるし、飛行機も今から次の便に変更すりゃそれで済む。それに一泊するつもりで一応あっちのホテルもとったんだぜ? 

 ヒカルはヒートがまだだから、恋人とはいえエッチなことしてない。だからそろそろいいだろっていう意味で。
一泊だって伝えてあるから、ヒカルもそのつもりだろうし。やっぱ行かねーってのはなあ。 


 エッチなことをしたいって気持ちはもちろんある。だから俺も、今日の旅行は楽しみにしてたはずなんだけど。でもヒカルとエッチするって、なんか今更って感じもするんだよなー。 



 そんなことを考えながらのろのろ起きて、ふわ~ってあくびしながらパジャマのまま玄関行くと、玄関ドアの前にコートを着たヒカルが俯いて立っていた。脇には俺と選んだスーツケースが置かれている。 

 俺が階段から降りてくると、ヒカルがいつもの笑顔でこっちを見た。 


「ヨウくん!」 

「わりぃヒカル。寝坊した。飛行機遅らせていい?」 


 そう声をかけると、ヒカルは一瞬泣きそうな顔したけど、すぐにニコッて笑った。 

 ほら。ヒカルは笑うんだ。 


「う、うん、いいよ! 俺、ここで待ってるし!」 


 えへへと笑うヒカル。 

 怒ればいいのに。悪いのは俺なんだけど、なんだかちょっとイラついてしまうのはなんでだろ。ヒカルのこういうとこ、長所なんだろうけど、なんだかちょっと壁があるように感じるんだよな。 

 ヒカルのことは好きだけど、こんなんで結婚してずっと一緒で本当にうまくやっていけるんだろうかって、思っちまう。 


 俺ってこう見えて、浮気とかしないタイプ。 

 ベータの友達は俺より遊んでて、一緒に夜の街に繰り出してクラブ行ったりナンパしたりはするけど、俺はそこまで。親父にも会社の信用にかかわるような遊びだけは絶対するなって、キツく言われてるしさ。 

 でも本当ならさ、ヒカルと結婚するかしないかは別として、もっとこう色んな人と付き合ってさ、いっぱい経験してからするもんじゃないかって思うんだよな。 


(宮前ですら、あの斗貴哉様との結婚を遅らせてるし) 


 まあ悩むよなぁ。俺たちアルファって、家やらなんやらしがらみがあって、意外と選択肢なかったりするんだよな。 

 斗貴哉様と結婚する宮前ですら悩むんだから、俺が悩むのは当然か。 


「じゃ、俺着替えてくっから」 

「うん!」 


 俺は階段を上がっていきながらチラッとホールを見下ろすと、ヒカルはいつものニコニコ顔で見送っていた。 

 そんなヒカルに、俺はちょっと意地悪な気持ちになった。 

 今日着ていく服はもう用意してあったし、本当なら30分もあれば終わるんだけど、俺はわざと支度に時間をかけた。 

 とりあえず使用人に飛行機の予約変更を頼むと、ゆっくりシャワー浴びて、髪のセットに時間をかけたりして、終わったのはそれから1時間経った後。 

 荷物を持って下に降りると、ヒカルは広い玄関ホールの脇にある椅子にぽつんと座ってた。 

 お手伝いさんがジュースでも出したんだろう、手には中身の残ってない空のコップ。 


「わり、待たせた」 


 荷物を持ち階段を降りながら声をかけると、やっぱりヒカルは怒らず、ニコッて笑った。 


「じゃいこ! ヨウくん」 


 コップをサイドテーブルに置いたヒカルは、椅子から立ち上がりスーツケースの取っ手に手をかけると、俺に空いた手を差し出した。 

 俺は躊躇なくその手を繋ぐと、2人で玄関から外へ出た。 
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