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俺、志久陽太郎が初めて花咲斗貴哉と出会ったのは、どこかの資産家が主催したとある大きなパーティだった。
「おい、あれ見ろよ。花咲家の斗貴哉様じゃないか」
「へぇ、本当だ。珍しいな、こんなパーティに出るだなんて」
「斗貴哉様といえばあの”深窓のオメガ”の。これは珍しいねぇ」
ノンアルのカクテルを片手に、会場の中を知り合いを探して歩いていると、そんな会話が耳に入った。話をしていたのは3人の男たちで、その洒落た着こなしや場馴れした様子から、どこかの資産家の御曹司とかそんなんだろうと思う。
(花咲家の深窓のオメガ?)
花咲家は俺でも知っている。日本でも有数の旧家で、この国の経済界にも影響力のある家だ。でもあそこは超怖いことで有名なアルファの兄弟だけじゃなかったっけ。
(あの家にオメガがいるなんて聞いたことないけど)
興味本位で彼らの視線の先を見ると、そこには壁の花の如く佇む、見たこともないくらい美しい青年の姿があった。
——今国内のトップ企業や政財界では、”第三の性”と呼ばれるアルファが多く進出し、躍進を遂げていた。
このアルファとかオメガっていうのは、男女とはまた違う第2の性とかいうやつで、α(アルファ)・β(ベータ)・Ω(オメガ)の3つがある。
強く賢いエリートのアルファ。つまり俺。そして凡人のベータ。いわゆる一般人。人口のほとんどがこれ。最後に弱々だけど男でも妊娠できる体質のオメガだ。
雄々しく逞しい見た目のアルファとは反対に、オメガは儚げで美しく、そしてアルファの本能を刺激するフェロモンを出す。オメガはアルファと惹かれ合い、そして男女の区別なく新たなアルファを産むことさえできる。
アルファもオメガも希少種であるがため、一般人であるベータの中には、一生アルファやオメガと出会うきっかけすらない人もいる。しかし、こうした政財界のトップや資産家といった富豪が集まるヒエラルキーの上位には、自然と集まってくるものだ。
かくいう俺もまた、志久財閥という大きな家の次男であり、文武両道眉目秀麗、両親ともにアルファというサラブレッドなエリートアルファの1人。
だからこんな、ベータには到底参加できない有名企業や資産家を集めたようなレセプションやガラなんかの社交パーティに参加できるのだ。
(……とはいえ、俺はまだ高校生で、このパーティも親父同伴。カッコつかねーよなー)
視線の先にはあの深窓のオメガ。なんというか大人の色気みたいなものがすごい。声をかけたくても、ここは上位のアルファが集う巣だ。俺みたいなガキが声をかけたところで、鼻であしらわれてはい終了って感じだろうな。
「斗貴哉様はおいくつになられたんだったかな? ようやく社交界に顔を出し始めたということは、結婚相手を探しているというのは本当かもな」
「もう彼も30歳を過ぎた頃だろう。だからそうかもしれないな。しかし彼ならこれまで引く手あまただったろうに。なぜ今ごろになって」
「オメガとして子を持つには、年齢的にもうギリギリだからだろうな。引きこもりの息子のわがままを聞くのももう限界ってことか。さすがの花咲にも焦りが出たかな」
「はは、そうかもな。おー早速、議員の息子が挨拶に行ったな」
さて誰が最初に声をかけるのかと、周囲が好奇心をもって見守る中、堂々とした出で立ちの若い男が斗貴哉様に声をかけに行った。
(あいつ勇気あんなー)
何を話しているのかはこちらからは分からない。鼻であしらうどころか優雅なお辞儀を返し、優しく微笑むその姿を、俺はただ食い入るようにして見つめていた。
「陽太郎、お前も斗貴哉くんに声をかけるかい」
いつの間に来たのか、背後から親父の声がした。自分は挨拶回りがあるからと俺をほっぽりだしておきながら、その実しっかりと俺の様子を観察していたらしい。
「彼はなかなか姿を見せないからね。陽太郎も初めて会うだろう? 彼はオメガで陽太郎に婚約者がいるけれど、こういう場で躊躇することはないよ。交流関係を広げるのも、これからの陽太郎の人生には必要なことだからね」
(婚約者、か)
ヒカルの笑顔が頭に浮かぶ。
——将来有望な若いアルファには、必ず婚約者がいる。だいたいが、どこかの政治家や資産家なんかのそれなりに身分のあるオメガだ。なんたってアルファにとって、美しく気品のあるオメガと番うことは、ある種のステータスみたいなものだから。
そして校生の俺にも、例に漏れず婚約者がいる。それがこのヒカル。
だけどヒカルは、他のアルファの婚約者たちのようにいいとこの子息令嬢とかじゃなく、庶民オメガだ。
しかも庶民の中でも、下流も下流。ドがつくほどの貧乏一家の生まれで、両親ともにベータ。
ベータの両親からオメガが生まれるのは珍しい。
だからヒカルは世間的にはかなり珍しい存在ではあるのだが、それだけだ。
(幼なじみだからってさっさと婚約決めちゃって、俺ちょっと早まったのかなー)
幼馴染で、一応付き合ってる。だからこの婚約は、自然の成り行きであり、当然のことだ、とも言える。
(……ヒカルで妥協したとかじゃないけどさー。でももうちょっと待てば、俺にもチャンスがあったのかと思うと)
目の前に佇む極上のオメガを前にし、俺はちょっとだけヒカルとの婚約を後悔していた。
「おい、あれ見ろよ。花咲家の斗貴哉様じゃないか」
「へぇ、本当だ。珍しいな、こんなパーティに出るだなんて」
「斗貴哉様といえばあの”深窓のオメガ”の。これは珍しいねぇ」
ノンアルのカクテルを片手に、会場の中を知り合いを探して歩いていると、そんな会話が耳に入った。話をしていたのは3人の男たちで、その洒落た着こなしや場馴れした様子から、どこかの資産家の御曹司とかそんなんだろうと思う。
(花咲家の深窓のオメガ?)
花咲家は俺でも知っている。日本でも有数の旧家で、この国の経済界にも影響力のある家だ。でもあそこは超怖いことで有名なアルファの兄弟だけじゃなかったっけ。
(あの家にオメガがいるなんて聞いたことないけど)
興味本位で彼らの視線の先を見ると、そこには壁の花の如く佇む、見たこともないくらい美しい青年の姿があった。
——今国内のトップ企業や政財界では、”第三の性”と呼ばれるアルファが多く進出し、躍進を遂げていた。
このアルファとかオメガっていうのは、男女とはまた違う第2の性とかいうやつで、α(アルファ)・β(ベータ)・Ω(オメガ)の3つがある。
強く賢いエリートのアルファ。つまり俺。そして凡人のベータ。いわゆる一般人。人口のほとんどがこれ。最後に弱々だけど男でも妊娠できる体質のオメガだ。
雄々しく逞しい見た目のアルファとは反対に、オメガは儚げで美しく、そしてアルファの本能を刺激するフェロモンを出す。オメガはアルファと惹かれ合い、そして男女の区別なく新たなアルファを産むことさえできる。
アルファもオメガも希少種であるがため、一般人であるベータの中には、一生アルファやオメガと出会うきっかけすらない人もいる。しかし、こうした政財界のトップや資産家といった富豪が集まるヒエラルキーの上位には、自然と集まってくるものだ。
かくいう俺もまた、志久財閥という大きな家の次男であり、文武両道眉目秀麗、両親ともにアルファというサラブレッドなエリートアルファの1人。
だからこんな、ベータには到底参加できない有名企業や資産家を集めたようなレセプションやガラなんかの社交パーティに参加できるのだ。
(……とはいえ、俺はまだ高校生で、このパーティも親父同伴。カッコつかねーよなー)
視線の先にはあの深窓のオメガ。なんというか大人の色気みたいなものがすごい。声をかけたくても、ここは上位のアルファが集う巣だ。俺みたいなガキが声をかけたところで、鼻であしらわれてはい終了って感じだろうな。
「斗貴哉様はおいくつになられたんだったかな? ようやく社交界に顔を出し始めたということは、結婚相手を探しているというのは本当かもな」
「もう彼も30歳を過ぎた頃だろう。だからそうかもしれないな。しかし彼ならこれまで引く手あまただったろうに。なぜ今ごろになって」
「オメガとして子を持つには、年齢的にもうギリギリだからだろうな。引きこもりの息子のわがままを聞くのももう限界ってことか。さすがの花咲にも焦りが出たかな」
「はは、そうかもな。おー早速、議員の息子が挨拶に行ったな」
さて誰が最初に声をかけるのかと、周囲が好奇心をもって見守る中、堂々とした出で立ちの若い男が斗貴哉様に声をかけに行った。
(あいつ勇気あんなー)
何を話しているのかはこちらからは分からない。鼻であしらうどころか優雅なお辞儀を返し、優しく微笑むその姿を、俺はただ食い入るようにして見つめていた。
「陽太郎、お前も斗貴哉くんに声をかけるかい」
いつの間に来たのか、背後から親父の声がした。自分は挨拶回りがあるからと俺をほっぽりだしておきながら、その実しっかりと俺の様子を観察していたらしい。
「彼はなかなか姿を見せないからね。陽太郎も初めて会うだろう? 彼はオメガで陽太郎に婚約者がいるけれど、こういう場で躊躇することはないよ。交流関係を広げるのも、これからの陽太郎の人生には必要なことだからね」
(婚約者、か)
ヒカルの笑顔が頭に浮かぶ。
——将来有望な若いアルファには、必ず婚約者がいる。だいたいが、どこかの政治家や資産家なんかのそれなりに身分のあるオメガだ。なんたってアルファにとって、美しく気品のあるオメガと番うことは、ある種のステータスみたいなものだから。
そして校生の俺にも、例に漏れず婚約者がいる。それがこのヒカル。
だけどヒカルは、他のアルファの婚約者たちのようにいいとこの子息令嬢とかじゃなく、庶民オメガだ。
しかも庶民の中でも、下流も下流。ドがつくほどの貧乏一家の生まれで、両親ともにベータ。
ベータの両親からオメガが生まれるのは珍しい。
だからヒカルは世間的にはかなり珍しい存在ではあるのだが、それだけだ。
(幼なじみだからってさっさと婚約決めちゃって、俺ちょっと早まったのかなー)
幼馴染で、一応付き合ってる。だからこの婚約は、自然の成り行きであり、当然のことだ、とも言える。
(……ヒカルで妥協したとかじゃないけどさー。でももうちょっと待てば、俺にもチャンスがあったのかと思うと)
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