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ダイチの本心
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「ただきっかけがそうだったとしてても、俺の気持ちは本物ですし、その……キスだって、したいと思っています」
「……じゃあ、今ここでできるかい? ダイチ」
これは俺がダイチと、そしてダイチが俺と一緒に歩むためのファーストステップ。
「キスできたら……全部許してくれますか」
緊張なのか、少しかすれて震えたダイチの声。そして俺を射るように見つめる瞳。俺の手を握るその大きな手に、力がこもる。
「さぁ……どうかな」
「約束してください」
握られていた手が離れたと思ったら、その手が今度は俺の肩にかかり、ダイチの端正な顔が近づいてくる。俺の唇に、ダイチの吐息がかかる。
ダイチは寸前で一瞬ためらうように静止し、それから覚悟を決めたように顔が傾いた。俺はそれを見届けてから、目を瞑った。
胸のドキドキ音がすごい。俺のなのか、それともダイチのものなのか。
フワッと唇に柔らかいものが重なり、小さく吸い付くような感触があって、さあこれからと期待したら、なぜかすぐに離れた。
え? もう終わり?
俺が唖然としていると、ダイチが俺の肩に顔を伏せて、俺を抱きしめた。
「……すっげー緊張した~~~~」
「え、えー~~~~?」
「これでもすげー頑張ったんですよ!」
俺の耳元に、安堵したようなダイチの明るい笑い声が広がる。
「でもこれで許してくれますよね」
体を起こして、期待したように俺を見るダイチ。
期待したよりも控えめすぎるキスだったけど、……まあキスには変わりないか。
「しかたがない。これからゆっくり慣れていこうな」
これまでの緊張した空気が一気に和らいだ気がする。
ダイチもこれまでと同じ、人懐こい笑顔を見せている。
あー、これで一旦落着か?
ダイチが俺のことを本気で好きで、黒木の影響も夢程度なら、もういいか……。
「ね、ユウジさん。今度オリエンテーリングに行きませんか?」
緊張が解けたのか、これまで見たことがないくらいテンション高めのダイチに、俺の心も和んで頬が緩む。
「オリエンテーリング? ……って、小学校のときにやった、森とか山の中にあるポイント回って歩くやつ?」
「そう。でもあれって本当はタイムを競うスポーツなんです。コンパス使って地図を見ながら、山の中の各チェックポイントを走って巡って、ゴールまでのスピードを競うんですよ。ちょっと遠いですが、オリエンテーリングのコースがある島があって、そこで今度大会があるんです」
「え!? 俺は地図みながら山歩きとかできないし、それ以前に走れないよ!?」
「大丈夫です。難易度の違うコースが複数あって、子供でも参加できるんですよ。体験コースもあるので、ゆっくりでも問題ないです。俺は本気でやりますけど」
「一緒に歩いてくれるんじゃないの!?」
「はははっ」
俺の反応に、ダイチがおかしそうに笑う。
そうだな。ダイチと2人で、黒木の好きだった山を歩くのもいいな。
ダイチみたいなトレイルランは無理だけど、在宅ワークばかりの俺も少しは体力つけて、ハイキングに行くのもいい。
「あ、そうだダイチ。ダイチはバイク乗るの禁止ね」
黒木みたいに死んでしまうと嫌だから。
「えー」と不服そうな声がしたけど、こればかりは譲れない。
それでもしだよ? ――もしもの話。めちゃくちゃ気が早い話なんだけど、俺が死ぬときまでダイチがそばにいてくれたら、ダイチの中にいる黒木の欠片と一緒に天に昇ろう。
それでダイチを開放してやるんだ。
……本当に、ダイチとずっといっしょにいれたらの話だけどね。
「あ、そうだ、ユウジさん。俺からもお願いが」
「ん? なに」
「……佐藤さんと2人で、あんまり酒飲みに行かないでほしいんですけど」
あー……、初めてダイチが佐藤と会ったのがあれだったもんな。そりゃ嫌か。
「あのときは悪ふざけしちゃって、ダイチの印象よくないかもだけど、佐藤はああ見えて、いいヤツなんだよ」
「……俺の中の黒木さんが、スゲー拒否ってます」
「え!?」
「話聞く度、すっげーイラッとするんですよね。……俺の心が狭いだけかもしれないんですけど」
あいつ、黒木と接点はないって言っていたのに。もう一度問いただしてみるか。
まあただ単にダイチが佐藤を嫌いなだけかもしれないど。
でもこうやってちゃんと嫌なことや、悩んでいることを話してもらえたことは、すごく嬉しいことだ。
やっぱり何事も話し合うことは大事だなって、つくづく思ったよ。
これから先、黒木がどういった形で干渉してくるのかは分からないけど、ダイチの顔を見てダイチの言葉を聞いて、問題があればちゃんと話をして、2人の時間を大事にしていこう。そう胸に誓った。
黒木、ダイチと会わせてくれてありがとうな。
「……じゃあ、今ここでできるかい? ダイチ」
これは俺がダイチと、そしてダイチが俺と一緒に歩むためのファーストステップ。
「キスできたら……全部許してくれますか」
緊張なのか、少しかすれて震えたダイチの声。そして俺を射るように見つめる瞳。俺の手を握るその大きな手に、力がこもる。
「さぁ……どうかな」
「約束してください」
握られていた手が離れたと思ったら、その手が今度は俺の肩にかかり、ダイチの端正な顔が近づいてくる。俺の唇に、ダイチの吐息がかかる。
ダイチは寸前で一瞬ためらうように静止し、それから覚悟を決めたように顔が傾いた。俺はそれを見届けてから、目を瞑った。
胸のドキドキ音がすごい。俺のなのか、それともダイチのものなのか。
フワッと唇に柔らかいものが重なり、小さく吸い付くような感触があって、さあこれからと期待したら、なぜかすぐに離れた。
え? もう終わり?
俺が唖然としていると、ダイチが俺の肩に顔を伏せて、俺を抱きしめた。
「……すっげー緊張した~~~~」
「え、えー~~~~?」
「これでもすげー頑張ったんですよ!」
俺の耳元に、安堵したようなダイチの明るい笑い声が広がる。
「でもこれで許してくれますよね」
体を起こして、期待したように俺を見るダイチ。
期待したよりも控えめすぎるキスだったけど、……まあキスには変わりないか。
「しかたがない。これからゆっくり慣れていこうな」
これまでの緊張した空気が一気に和らいだ気がする。
ダイチもこれまでと同じ、人懐こい笑顔を見せている。
あー、これで一旦落着か?
ダイチが俺のことを本気で好きで、黒木の影響も夢程度なら、もういいか……。
「ね、ユウジさん。今度オリエンテーリングに行きませんか?」
緊張が解けたのか、これまで見たことがないくらいテンション高めのダイチに、俺の心も和んで頬が緩む。
「オリエンテーリング? ……って、小学校のときにやった、森とか山の中にあるポイント回って歩くやつ?」
「そう。でもあれって本当はタイムを競うスポーツなんです。コンパス使って地図を見ながら、山の中の各チェックポイントを走って巡って、ゴールまでのスピードを競うんですよ。ちょっと遠いですが、オリエンテーリングのコースがある島があって、そこで今度大会があるんです」
「え!? 俺は地図みながら山歩きとかできないし、それ以前に走れないよ!?」
「大丈夫です。難易度の違うコースが複数あって、子供でも参加できるんですよ。体験コースもあるので、ゆっくりでも問題ないです。俺は本気でやりますけど」
「一緒に歩いてくれるんじゃないの!?」
「はははっ」
俺の反応に、ダイチがおかしそうに笑う。
そうだな。ダイチと2人で、黒木の好きだった山を歩くのもいいな。
ダイチみたいなトレイルランは無理だけど、在宅ワークばかりの俺も少しは体力つけて、ハイキングに行くのもいい。
「あ、そうだダイチ。ダイチはバイク乗るの禁止ね」
黒木みたいに死んでしまうと嫌だから。
「えー」と不服そうな声がしたけど、こればかりは譲れない。
それでもしだよ? ――もしもの話。めちゃくちゃ気が早い話なんだけど、俺が死ぬときまでダイチがそばにいてくれたら、ダイチの中にいる黒木の欠片と一緒に天に昇ろう。
それでダイチを開放してやるんだ。
……本当に、ダイチとずっといっしょにいれたらの話だけどね。
「あ、そうだ、ユウジさん。俺からもお願いが」
「ん? なに」
「……佐藤さんと2人で、あんまり酒飲みに行かないでほしいんですけど」
あー……、初めてダイチが佐藤と会ったのがあれだったもんな。そりゃ嫌か。
「あのときは悪ふざけしちゃって、ダイチの印象よくないかもだけど、佐藤はああ見えて、いいヤツなんだよ」
「……俺の中の黒木さんが、スゲー拒否ってます」
「え!?」
「話聞く度、すっげーイラッとするんですよね。……俺の心が狭いだけかもしれないんですけど」
あいつ、黒木と接点はないって言っていたのに。もう一度問いただしてみるか。
まあただ単にダイチが佐藤を嫌いなだけかもしれないど。
でもこうやってちゃんと嫌なことや、悩んでいることを話してもらえたことは、すごく嬉しいことだ。
やっぱり何事も話し合うことは大事だなって、つくづく思ったよ。
これから先、黒木がどういった形で干渉してくるのかは分からないけど、ダイチの顔を見てダイチの言葉を聞いて、問題があればちゃんと話をして、2人の時間を大事にしていこう。そう胸に誓った。
黒木、ダイチと会わせてくれてありがとうな。
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