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ダイチの本心
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ハグどころか、こうやって手を繋ぐのもほとんどないわけだし、彼の本心が知りたい。
「……その、俺たち付き合って半年経つだろ? 俺は、ダイチと手を繋ぐ以上の関係になりたいと思ってるんだけど、ダイチがどう思っているのかよく分からなくて」
「あ……」
ダイチはうろたえたように下を向いた。
どういう反応なんだろう。俺は少し不安になった。
「ダイチ。ダイチは俺とはそういう関係になりたくない?」
「――いえ、そういうわけじゃ……」
俺の手の中で、ダイチが不安げに拳を握る。
「じゃあさ、どうしたいか聞かせてくれるかな。君の言う俺を好きだという、言葉の意味が知りたい。ただの憧れみたいなもの? それとも、告白したらもうそれで満足しちゃったかな」
「え……」
戸惑うように俺を見るダイチに、胸がズキリと痛む。
なんだかひどく、かわいそうなことをしているようで。
でもこれで追求をやめてしまえば、きっと変にしこりが残ってギクシャクしたままになるだろう。
ここまできたら、はっきりさせたほうがいい。
……別れることになるかもしれないけど。
「ダイチ。俺は君より28も上だ。恋は盲目と言うよね。好きになったときは気にならなかったことも、親密になれば見えてくることもある。付き合ってみて、思っていたのと違うってこともあると思う。……俺も最初変なことを言ったし、それでも嫌わず俺と付き合いたいって言ってくれたことは、嬉しかったよ」
「……」
「ね、ダイチ。ダイチは、本当は俺のことどう思ってる? 俺に教えてくれるかな」
俯いて拳を握り、返事をしないダイチ。
そんな状況に、俺はああこれはもうだめかもって思った。
……サイさんの言う通り、黒木なんかどこにもいなかったんだ。
これまで俺は、何人かの男と付き合った。
佐藤みたいなゲイ好きする容姿じゃない俺は、モテなくて、いい縁もなく、俺みたいなのを好きになるのは碌でもないヤツが多かった。
尚人も酷かったけど、それ以外でも浮気もあったし、俺に手を上げるやつもいたし、借金ばっかりするやつもいた。
そんな俺にも、きっとそのうち生まれ変わった黒木が現れて、そりゃもう物語に出てくる白馬に乗った王子様とお姫様のように、俺とハッピーエンドを迎える人生を歩んでくれるんだって、そう思ってた。
……でも違ったんだな。
ダイチは王子様でもなんでもなくて、ただ一瞬血迷って冴えないおっさんを好きになったと思い込んだ、ただの男の子だったんだ。
あーそんなこと考えてたら……ヤバい。涙出そう。
「……ごめん、ダイチ。困らせちゃったね。ハハ……もういいよ。困らせてしまってごめん」
固く握ったダイチの拳から手を離した。
そして出そうになる涙をごまかすために、ソファから立ち上がった。
「もう、今日は帰りなさい。そろそろロッシュを迎えに行く時間だしね。わざわざ来てくれたのに、嫌な思いをさせちゃったな」
もうこれで終わり。テーブルの上を片付けようと、飲みかけのカップに手を伸ばした。そのとき。
「ユ、ユウジさん」
それまで黙りこくっていたダイチに、急に片手を掴まれた。
「え? ダ、ダイチ?」
「ご、ごめんなさい。ユウジさん」
「ダイチ?」
「俺、ユウジさんを泣かせてしまった」
思わず目元を押さえると、指に涙が触れた。俺ってば、泣くのこらえていたのに。出ちゃってたか。
おっさんが泣くなんて、みっともない。すぐに手で拭った。
「ダイチ、気にしないでいい。もう、いいよ。さ、手を離して。君は帰りなさい。……また俺のほうから連絡するから」
そのときはお別れのメッセージになるだろうな。
「さ、もう帰って」
俺が手を引っ込めようとすると、ダイチの手に力がこもった。
「ユウジさん、俺……ユウジさんがそんなふうに思ってるなんか知らなくて。俺もちゃんと話す。だから帰れとか、言わないで」
……やっとダイチが口を開いてくれた。
俺はホッと胸をなでおろした。
これで話が進む。
本当にこれで終わりかと思ったよ。
この様子だと別れ話ではなさそうだなと思いながら、ダイチの隣にもう一度座り直した。
「……その、俺たち付き合って半年経つだろ? 俺は、ダイチと手を繋ぐ以上の関係になりたいと思ってるんだけど、ダイチがどう思っているのかよく分からなくて」
「あ……」
ダイチはうろたえたように下を向いた。
どういう反応なんだろう。俺は少し不安になった。
「ダイチ。ダイチは俺とはそういう関係になりたくない?」
「――いえ、そういうわけじゃ……」
俺の手の中で、ダイチが不安げに拳を握る。
「じゃあさ、どうしたいか聞かせてくれるかな。君の言う俺を好きだという、言葉の意味が知りたい。ただの憧れみたいなもの? それとも、告白したらもうそれで満足しちゃったかな」
「え……」
戸惑うように俺を見るダイチに、胸がズキリと痛む。
なんだかひどく、かわいそうなことをしているようで。
でもこれで追求をやめてしまえば、きっと変にしこりが残ってギクシャクしたままになるだろう。
ここまできたら、はっきりさせたほうがいい。
……別れることになるかもしれないけど。
「ダイチ。俺は君より28も上だ。恋は盲目と言うよね。好きになったときは気にならなかったことも、親密になれば見えてくることもある。付き合ってみて、思っていたのと違うってこともあると思う。……俺も最初変なことを言ったし、それでも嫌わず俺と付き合いたいって言ってくれたことは、嬉しかったよ」
「……」
「ね、ダイチ。ダイチは、本当は俺のことどう思ってる? 俺に教えてくれるかな」
俯いて拳を握り、返事をしないダイチ。
そんな状況に、俺はああこれはもうだめかもって思った。
……サイさんの言う通り、黒木なんかどこにもいなかったんだ。
これまで俺は、何人かの男と付き合った。
佐藤みたいなゲイ好きする容姿じゃない俺は、モテなくて、いい縁もなく、俺みたいなのを好きになるのは碌でもないヤツが多かった。
尚人も酷かったけど、それ以外でも浮気もあったし、俺に手を上げるやつもいたし、借金ばっかりするやつもいた。
そんな俺にも、きっとそのうち生まれ変わった黒木が現れて、そりゃもう物語に出てくる白馬に乗った王子様とお姫様のように、俺とハッピーエンドを迎える人生を歩んでくれるんだって、そう思ってた。
……でも違ったんだな。
ダイチは王子様でもなんでもなくて、ただ一瞬血迷って冴えないおっさんを好きになったと思い込んだ、ただの男の子だったんだ。
あーそんなこと考えてたら……ヤバい。涙出そう。
「……ごめん、ダイチ。困らせちゃったね。ハハ……もういいよ。困らせてしまってごめん」
固く握ったダイチの拳から手を離した。
そして出そうになる涙をごまかすために、ソファから立ち上がった。
「もう、今日は帰りなさい。そろそろロッシュを迎えに行く時間だしね。わざわざ来てくれたのに、嫌な思いをさせちゃったな」
もうこれで終わり。テーブルの上を片付けようと、飲みかけのカップに手を伸ばした。そのとき。
「ユ、ユウジさん」
それまで黙りこくっていたダイチに、急に片手を掴まれた。
「え? ダ、ダイチ?」
「ご、ごめんなさい。ユウジさん」
「ダイチ?」
「俺、ユウジさんを泣かせてしまった」
思わず目元を押さえると、指に涙が触れた。俺ってば、泣くのこらえていたのに。出ちゃってたか。
おっさんが泣くなんて、みっともない。すぐに手で拭った。
「ダイチ、気にしないでいい。もう、いいよ。さ、手を離して。君は帰りなさい。……また俺のほうから連絡するから」
そのときはお別れのメッセージになるだろうな。
「さ、もう帰って」
俺が手を引っ込めようとすると、ダイチの手に力がこもった。
「ユウジさん、俺……ユウジさんがそんなふうに思ってるなんか知らなくて。俺もちゃんと話す。だから帰れとか、言わないで」
……やっとダイチが口を開いてくれた。
俺はホッと胸をなでおろした。
これで話が進む。
本当にこれで終わりかと思ったよ。
この様子だと別れ話ではなさそうだなと思いながら、ダイチの隣にもう一度座り直した。
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