上 下
19 / 29
ダイチの本心

2

しおりを挟む
「まあたまにはお前からデートにでも誘ってみりゃいいじゃん。映画でもなんでもさ。あいつ20歳過ぎてんだし、酒飲みに行ってもいいんじゃねーのか」 

「酒かー」 


 ダイチから酒の話が出たことがない。彼は飲み会もほとんど断っているみたいだし、飲めるのか疑問だ。 


「酒に酔ったら、お前に手を出してくるかもしれねーぞ」 


 ニヤニヤしながら、グラスに残った酒を佐藤が一気に呷り、すいませーんと店員を呼び、つまみと酒を追加した。 
 
 確かにセックスとまではいかないかもしれないけど、キスくらいはゆっくりできるかもしれないな。 


「ほら、これ。俺の行きつけのラブホ。ここラブホっぽくなくていいぞ。設備もきれいだし、同性同士でも入れる」 


 佐藤が財布からカードを取り出して俺に見せた。一見ビジネスホテル風のデザインだけど、ここもラブホなんだな。 


「ここなら駅のすぐ裏あたりだから、歩いてでもいける。この辺で飲んで、ちょっと酔っちゃった~休んでいこ♡とかできるぞ」 

「ぶっ! バカかお前は。俺がそんなこと言うわけねーだろ」 

「ヒヒ匕、まあ相手は童貞くんなんだろ? お前がリードしてやんないとな!」 

「お、お前、本当にバカだな」 

「まあうまくいくことを祈ってるぜ。……おっと、つまみがきた来た! イカの燻製焼きお前も食べろよ」 

「お、うまそうだなー」 




 そんなふうに佐藤に後押し(?)され、俺は勇気を振り絞り、ダイチをデートに誘うことにした。 

 自分からデートに誘うのも久々で、どうにかそれとない自然な感じを装いつつお誘いをしてみたら、意外にもダイチはあっさりOKをくれて、ついこの間とうとう初デート! ではあったんだけど…… 




「はぁ? んで、結局映画観て終わっただけ?」 

「……うん」 

「ぶっ、マジか」 

「もう~! 笑い事じゃないんだよ」 


 駅で待ち合わせして、駅前の映画館でダイチの観たいと言っていた最近話題のSF映画を観たところまでは良かった。 

 その後カフェでお茶をして映画の感想を言い合って、さあ晩飯でも一緒にってところで、ダイチが『ロッシュが待ってるでしょうから』ってあっさりと帰ってしまったのだ。 

 ホテルに誘うどころか、一緒に酒を飲むことすらできなかったというわけだ。 


「いやー、そのダイチくんって子は、まじめくんだな~」 


 この前とは違う居酒屋で、ビールを飲みながらニヤニヤ笑う佐藤を横目で見ながら、俺はヤケクソ気味に次々と枝豆を口に放り込んだ。 


「外を歩いているときに手をつなぎたいとか、そういうのは別にいいんだよ。でも映画中もさ、こう、ちょっと手が触れるとかそういうのもないんだよ。なんだかさー、デートなのこれ? みたいなさ。ただおっさんと大学生が、一緒に映画観ただけじゃんって」 


 ……初めて2人きりのデートだーなんて浮かれてたの俺だけだったのかなって、なんだかむなしかったんだよな。 


「映画代はユウジの奢りか?」 

「まあね。俺がネットで席取ったし。でも映画館でのコーラとカフェのコーヒーは、ダイチが奢ってくれたよ。俺はいいって言ったんだけどね」 

「へー。そういうとこはちゃんとしてんな。で、まじめくんは、真面目にお話して帰っちゃったのね」 

「……あーダイチと俺、本当は付き合ってないのかなー。告白されたと思ったのは、俺の思い違いなわけ?」 

「でも好きだって言われたんだろ?」 

「うん。だからこれからよろしくって返事をしたわけだし」 


 佐藤は「うーん」と何かを考えるような素振りで、グラスに残ったビールに口を付けた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ポメラニアンになった僕は初めて愛を知る【完結】

君影 ルナ
BL
動物大好き包容力カンスト攻め × 愛を知らない薄幸系ポメ受け が、お互いに癒され幸せになっていくほのぼのストーリー ──────── ※物語の構成上、受けの過去が苦しいものになっております。 ※この話をざっくり言うなら、攻めによる受けよしよし話。 ※攻めは親バカ炸裂するレベルで動物(後の受け)好き。 ※受けは「癒しとは何だ?」と首を傾げるレベルで愛や幸せに疎い。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

ペットボトルはミルクティーで 〜呉服屋店長は新入社員に狙われてます!〜

織緒こん
BL
pixivより改題して転載しています。(旧題『干支ひとまわりでごめんなさい〜呉服屋店長ロックオン〜』) 新入社員 結城頼(23)×呉服屋店長 大島祥悟(35)  中堅呉服店の鼓乃屋に勤める大島祥悟(おおしましょうご)は、昇格したばかりの新米店長である。系列店でも業績のいい店舗に配属されて、コツコツと仕事をこなしながら、実家で父が営むカフェの手伝いをする日々。  配属先にはパワハラで他店から降格転勤してきた年上の部下、塩沢(55)と彼のイビリにもめげない新入社員の結城頼(ゆうきより)がいた。隙あらば一番の下っ端である結城に仕事を押し付け、年下店長を坊や扱いする塩沢の横暴に、大島は疲れ果て──

さがしもの

猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員 (山岡 央歌)✕(森 里葉) 〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です 読んでいなくても大丈夫です。 家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々…… そんな中で出会った彼…… 切なさを目指して書きたいです。 予定ではR18要素は少ないです。

【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。 それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。 王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。 いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?

悪逆第四皇子は僕のお兄ちゃんだぞっ! ~商人になりたいので悪逆皇子の兄と組むことにします~

野良猫のらん
BL
剣と魔法の世界で異端扱いされてきた科学者お兄ちゃん×この世界で唯一科学を理解できる異世界転生者弟! 皇子様からそこら辺の農夫までほとんど攻略可能のオープンワールドBLゲー『黄昏の刻を歩んで』に転生した僕。僕は何を隠そうそのゲームで行商人プレイを何より愛する行商依存症だった。第五皇子という身分にありながら行商人になることを目指す僕は誰からも煙たがられ疎まれている悪逆皇子に媚びを売ることにし――――悪逆マッドサイエンティスト皇子と行商依存症ショタの最強コンビが誕生することになった! ※第二部は5/1より更新開始です。

処理中です...