上 下
16 / 29
前世の君と今の君

7

しおりを挟む
「――で、俺がその黒木って人の生まれ変わりってことですか?」 


 "俺の死んだ友人が俺を好きで、俺と結ばれるために生まれ変わったかもしれない"なんて話、よくよく考えれば、そんな馬鹿げた妄想話を本気で語る大人なんか、かなり痛いしキモい。 

 腹は立つけど、佐藤の反応が世間一般では正しいことのように思うし、ダイチだって佐藤みたいに引くかもしれない。 

 自意識過剰で妄想癖のあるキモいおっさん。そう思われるのも仕方がないし、そのせいでお別れとなったとしたら、諦めがつく。 

 そんな覚悟で打ち明けたんだけど、ダイチの反応は予想外なものだった。 


「君が黒木の生まれ変わりだという確信はない。でも、あの事故の日からすぐに生まれ変わったとして、年齢的にもあっているし、その……俺みたいなおっさんを、君みたいな若い人が好きになってしまった理由も、そう考えれば納得できる」 

「俺がユウジさんを好きになったのはその黒木って人の影響であって、俺自身がユウジさんを好きになったわけじゃない。そう考えているってことですか」 

「……ああ」 


 全ては黒木が仕組んだことであり、ダイチは前世の影響を受けているだけ。それさえなけれは、ダイチだって俺になんか興味を持たないはずで、もっと似合いの子をみつけて真っ当な恋愛の道を歩むだろう。 

 だけどダイチはいかにも解せないといった顔で、「それの何が問題なんですか」と言い放った。 


「……え?」 

「俺がその黒木さんだって確証はないですよね」 

「え、あ、まあ……そうだけど」 

「もし仮にそうだったとして、黒木さんのユウジさんを好きだって心が俺に受け継がれているなら、それこそ運命じゃないですか?」 

「え」 

「だってそうでしょう。魂に刻まれた愛なんて、そうそうないですよ」 


 ダイチは自分が言ったセリフに照れたのか、少しはにかんだ。 


「でも、それがなければ君は俺じゃなくて……」 

「他の人を好きになる?」 


 俺が頷くと、ダイチは首を振った。 


「そんな"かもしれない"こと、どうでもいいです。それなら、もしかするとユウジさんよりもっと年上の人を好きになったかもしれないし、誰かを好きになることなんかなかったかもしれない」 

「……」 

「ただひとつ言えるのは、俺に前世の記憶やら自覚なんかないってことです。だからユウジさんを好きな気持ちは、誰の影響でもない俺だけのものです」 

「ダイチ……」 


 もう俺は何も言い返せなかった。 
 ダイチのやつ、「運命だ」なんて切り返し、どこで覚えてくんだよ。 

 でも考えてみればそりゃそうか。 

 前世の影響って言っても、そんなの前世の夢を見るとか、急に自分が黒木だったことを思い出すとか、そういう転生ものの漫画にありがちなはっきりとした自覚でもない限り、当事者にだって分かるはすないよな。 

 俺はただ、自分の自信のなさを、無理やり黒木のことで納得させようとしてたのかもしれない。 

 そうか、俺。ダイチと付き合ってもいいんだな。なんだか憑き物が落ちた気分。 


「ダイチ、変なことを言ってごめん。俺、ダイチから告白されて、本当は舞い上がるほど嬉しかったんだ。でもダイチからの好意に応える自信がなくて……。いろいろ変な理屈つけて、自分の気持ちに蓋をしようとしていたのかもしれない」 

「ユウジさん……。じゃあ」 

「うん。ダイチ、ありがとう。俺もダイチのこと好きだ。だから、これからもよろしく」 

「ユウジさん!」 


 目をキラッキラに輝かせたダイチが、俺に抱きつこうとするのわかった。 
 俺もロッシュから手を離し、飛び込んでくるダイチを迎えようと手を広げた。 

 ところがその瞬間、それまで大人しく俺の膝に座っていたロッシュが、一瞬低い唸り声を上げ、勢いよくダイチの腕めがけて飛びついた。 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

聖女の兄で、すみません! その後の話

たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』の番外編になります。

生粋のオメガ嫌いがオメガになったので隠しながら詰んだ人生を歩んでいる

はかまる
BL
オメガ嫌いのアルファの両親に育てられたオメガの高校生、白雪。そんな白雪に執着する問題児で言動がチャラついている都筑にとある出来事をきっかけにオメガだとバレてしまう話。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

処理中です...