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前世の君と今の君
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「もう外は暗いね、ロッシュ」
マンションの階段を降りて、ロビーから外へ出る。そしていつもの河川敷のほうへ足を向けたとき、懐に抱いたロッシュが、いきなりキャンキャンと吠え始めた。
「ん~どうした?」
外では滅多に吠えないロッシュが吠えるなんて。しつこく吠えるロッシュをなだめながら、何にむかって吠えているのかキョロキョロと周囲を見回し、最後に後ろを振り返った。
「ダイチ?」
「――ユウジさん」
気まずそうに両手をポケットに突っ込んだまま、立ち尽くすダイチがいた。
彼の姿を認めた瞬間、胸がドキリと音を立てる。
「……今日、散歩遅かったんですね」
「あ、ああ。今日はちょっと仕事が立て込んでて……」
いい大人がやる気なかっただなんて言いづらくて、俺は仕事だとごまかした。
「……俺、今日河川敷で待ってて……」
「なんだ、じゃあ連絡くれれば良かったのに」
「……すみません」
連絡しづらかったんだって顔に書いてある。
「俺、この前、ちょっと感じ悪くて……。本当にすみませんでした」
勢いよく頭を下げたダイチに、俺は焦った。
てっきり嫌われたもんだとばかり思ってたし、まさかダイチのほうが謝ってくるとは。
「あ、いや、ダイチ、こっちこそ変なとこ見せちゃって、嫌われたかなって……はは」
「俺、何があってもユウジさんのこと嫌いになんかなりませんから!」
顔を上げたダイチの顔は真剣そのもので、まっすぐなその視線に、俺はまたドギマギしてしまう。
嫌われていなかったという安堵と、どうしようという焦り。その両方が頭を駆け巡る。結局振り出しに戻ってしまったということだ。
佐藤とのことは、ただ醜態を晒してしまっただけに終わってしまった。
「……散歩、俺も同行していいですか」
断ったら泣いてしまうんじゃないかってくらい、ダイチの顔は張りつめていて。そんな顔見たら、とてもじゃないが断ることなんかできない。
だからつい、「いいよ」と言ってしまった。
承諾の言葉を聞いた瞬間、ダイチの顔から緊張が解け、いつもの人懐こい笑顔に変わった。
「良かった……! 俺、ユウジさんは許してくれないんじゃないかと思った。ロッシュ久しぶり」
嬉しそうに駆け寄ると、俺の懐にいるロッシュの頭を撫でようとして、またロッシュにキャンと吠えられ苦笑いした。
ロッシュはなぜかダイチによく吠える。もともと男性が嫌いではあったけど、ダイチは体が大きいから怖いのだろうか。
「いつもの河川敷ですか」
「うん。でもちょっともう遅いから、少し散歩したら帰るよ」
「分かりました」
いつもの散歩コース。俺が歩く横を、ダイチが歩を揃える。
「その、この前は同じ学部のやつらに誘われて。女の子とかいたけど、コンパとかじゃないです。俺、飲み会いつも断ってるし……。でも一度くらいはって言われて断れなくて……」
「うんうん。大学生は飲み会よくやるよね。俺もそうだったし」
「あの日も二次会行かずに帰ったんです。ユウジさんのことが気になって……。追いかけようかって思ったんですけど、でもあのご友人の方がいるしって」
あ~ご友人の佐藤。あいつが妙な絡み方するからね。そりゃ声かけにくいよね。
「佐藤が変な絡み方してごめんね。あいつ、いい年して悪ふざけするとこあって、変なとこ見せちゃったよな」
ロッシュを撫でながら、ふと横にいるダイチに目をやると、すごく真剣な表情の彼と目があった。
「……俺、あれから悩んでて。あの、佐藤って人とすげー仲良さそうで、俺なんだかそのとき、無性にイラついちゃって。ユウジさんに冷たい態度取っちゃうし、あの佐藤って人がいるから俺なんか相手にされないのかなって思ったら、ユウジさんに会いに行く勇気が出なくて」
「は?」
なんつった?
俺に佐藤がいるから?
え?
「俺のこと受け入れてくれないのって、やっぱりあの佐藤って人がいるからですか。やっぱ俺みたいなガキじゃ、ユウジさんとはお付き合いできないですか」
「え? いや、そういうことじゃ……」
どうしよう。どこから訂正すべきか。つか、訂正したほうがいい? それともこのまま誤解させておくべきか?
「俺、本気なんです。ユウジさんのこと、本気で好きなんです。この一週間悩んで、やっぱり俺はユウジさんがいいって、そう思ったんです」
……これはダイチの本気の告白だ。
きっぱりとここで振るべきだろうか。
心の中で、ダイチを引き止めたいと思う気持ちと、これで厄介事から抜け出せるぞという気持ちとがせめぎ合う。ダイチのことは嫌いじゃない。嫌いじゃないんだ。でも――。
「……すみません、こんな道端で。俺も告白するなら、ちゃんとしたとこでって思ってたんですけど、つい勢いで言ってしまって。――俺、今日はこれで帰ります。ユウジさんを困らせてしまって、すみません」
「あ、ダイチ! 待てって」
走り去ろうとするダイチを思わず引き止めてしまったのは、今にもダイチが泣きそうな顔だったから。
断るなら引き止めるめきじゃなかったと後悔しつつも、これ以上引き伸ばすのも良くないと、俺は覚悟を決めた。
マンションの階段を降りて、ロビーから外へ出る。そしていつもの河川敷のほうへ足を向けたとき、懐に抱いたロッシュが、いきなりキャンキャンと吠え始めた。
「ん~どうした?」
外では滅多に吠えないロッシュが吠えるなんて。しつこく吠えるロッシュをなだめながら、何にむかって吠えているのかキョロキョロと周囲を見回し、最後に後ろを振り返った。
「ダイチ?」
「――ユウジさん」
気まずそうに両手をポケットに突っ込んだまま、立ち尽くすダイチがいた。
彼の姿を認めた瞬間、胸がドキリと音を立てる。
「……今日、散歩遅かったんですね」
「あ、ああ。今日はちょっと仕事が立て込んでて……」
いい大人がやる気なかっただなんて言いづらくて、俺は仕事だとごまかした。
「……俺、今日河川敷で待ってて……」
「なんだ、じゃあ連絡くれれば良かったのに」
「……すみません」
連絡しづらかったんだって顔に書いてある。
「俺、この前、ちょっと感じ悪くて……。本当にすみませんでした」
勢いよく頭を下げたダイチに、俺は焦った。
てっきり嫌われたもんだとばかり思ってたし、まさかダイチのほうが謝ってくるとは。
「あ、いや、ダイチ、こっちこそ変なとこ見せちゃって、嫌われたかなって……はは」
「俺、何があってもユウジさんのこと嫌いになんかなりませんから!」
顔を上げたダイチの顔は真剣そのもので、まっすぐなその視線に、俺はまたドギマギしてしまう。
嫌われていなかったという安堵と、どうしようという焦り。その両方が頭を駆け巡る。結局振り出しに戻ってしまったということだ。
佐藤とのことは、ただ醜態を晒してしまっただけに終わってしまった。
「……散歩、俺も同行していいですか」
断ったら泣いてしまうんじゃないかってくらい、ダイチの顔は張りつめていて。そんな顔見たら、とてもじゃないが断ることなんかできない。
だからつい、「いいよ」と言ってしまった。
承諾の言葉を聞いた瞬間、ダイチの顔から緊張が解け、いつもの人懐こい笑顔に変わった。
「良かった……! 俺、ユウジさんは許してくれないんじゃないかと思った。ロッシュ久しぶり」
嬉しそうに駆け寄ると、俺の懐にいるロッシュの頭を撫でようとして、またロッシュにキャンと吠えられ苦笑いした。
ロッシュはなぜかダイチによく吠える。もともと男性が嫌いではあったけど、ダイチは体が大きいから怖いのだろうか。
「いつもの河川敷ですか」
「うん。でもちょっともう遅いから、少し散歩したら帰るよ」
「分かりました」
いつもの散歩コース。俺が歩く横を、ダイチが歩を揃える。
「その、この前は同じ学部のやつらに誘われて。女の子とかいたけど、コンパとかじゃないです。俺、飲み会いつも断ってるし……。でも一度くらいはって言われて断れなくて……」
「うんうん。大学生は飲み会よくやるよね。俺もそうだったし」
「あの日も二次会行かずに帰ったんです。ユウジさんのことが気になって……。追いかけようかって思ったんですけど、でもあのご友人の方がいるしって」
あ~ご友人の佐藤。あいつが妙な絡み方するからね。そりゃ声かけにくいよね。
「佐藤が変な絡み方してごめんね。あいつ、いい年して悪ふざけするとこあって、変なとこ見せちゃったよな」
ロッシュを撫でながら、ふと横にいるダイチに目をやると、すごく真剣な表情の彼と目があった。
「……俺、あれから悩んでて。あの、佐藤って人とすげー仲良さそうで、俺なんだかそのとき、無性にイラついちゃって。ユウジさんに冷たい態度取っちゃうし、あの佐藤って人がいるから俺なんか相手にされないのかなって思ったら、ユウジさんに会いに行く勇気が出なくて」
「は?」
なんつった?
俺に佐藤がいるから?
え?
「俺のこと受け入れてくれないのって、やっぱりあの佐藤って人がいるからですか。やっぱ俺みたいなガキじゃ、ユウジさんとはお付き合いできないですか」
「え? いや、そういうことじゃ……」
どうしよう。どこから訂正すべきか。つか、訂正したほうがいい? それともこのまま誤解させておくべきか?
「俺、本気なんです。ユウジさんのこと、本気で好きなんです。この一週間悩んで、やっぱり俺はユウジさんがいいって、そう思ったんです」
……これはダイチの本気の告白だ。
きっぱりとここで振るべきだろうか。
心の中で、ダイチを引き止めたいと思う気持ちと、これで厄介事から抜け出せるぞという気持ちとがせめぎ合う。ダイチのことは嫌いじゃない。嫌いじゃないんだ。でも――。
「……すみません、こんな道端で。俺も告白するなら、ちゃんとしたとこでって思ってたんですけど、つい勢いで言ってしまって。――俺、今日はこれで帰ります。ユウジさんを困らせてしまって、すみません」
「あ、ダイチ! 待てって」
走り去ろうとするダイチを思わず引き止めてしまったのは、今にもダイチが泣きそうな顔だったから。
断るなら引き止めるめきじゃなかったと後悔しつつも、これ以上引き伸ばすのも良くないと、俺は覚悟を決めた。
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