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「ん? 俺、誰かに似てました?」 


 まさか……、いや、そんなわけないか。 


「いや、ちょっと知人の若い頃に似ててね。つい」 

「へぇ。若いときの顔を覚えてるなんて。相当仲のいい方なんですね」 

「うん、まあ、そうだな。……仲が良かったんだ」 


 キャンキャンとロッシュが鳴きながら、自分のほうを見ろと言わんばかりに、二本足で立ち上がって俺の足にしがみつく。 


「ロッシュ、もしかしてもう疲れたのか?」 


 仕方ないなーといいながら抱き上げると、青年が「かわいいなー」と言いながら自身も立ち上がり、ロッシュの頭を撫でた。 


「ここにはよく来られるんですか?」 

「ああ。家が近くなんだ。ロッシュはこの河川敷がお気に入りで、散歩はここって決めてる」 

「じゃ、俺もまたここ来ますね。俺も最近、よくこの辺でトレーニングしてるんで」 

「トレーニング?」 

「俺、大学でトレイルランやってて。よくこの辺を走ってるんです」 

「トレイルラン?」 

「山道とかの不整地を走る競技です。この河川敷、端のほうは階段があったり坂があったり、でこぼこしてて不整地なみに荒れてるんで、よく来るんですよ」 

「へえ」 


 確かに言われてみれば、スポーツウェアを着ている。今はこんなおしゃれなランニングウェアがあるんだな。おじさん走るの興味ないから知らなかったよ。 

 それにしても山か……。本当に彼は黒木を彷彿とさせる。もしかして本当に黒木なんだろうか。 


(生まれ変わるなら、どんな人になるのかとか、目印とか聞いておけばよかった) 


でも黒木よ。生まれ変わったら恋愛の相手にって、お前。こんな若い子、俺の相手になるわけないだろう。 
どうせ恋愛には発展しない。散歩で会うだけの仲だ。 



 ――そう思っていたのは最初のときだけ。 

 不思議なことに、なぜか今彼は俺の家にいて、ロッシュの頭を撫でようとしては、キャンキャンと吠えられている。 


 彼が本当に黒木の生まれ変わりかどうかはわからない。 
 それこそ、神のみぞ知ることだ。 


「ユウジさん、俺コーヒー淹れますね」 

「ああ、ありがとう。じゃあ俺は、以ってきてくれたパウンドケーキでも切ろうか」 

「今日は、チョコチップとバナナのケーキですよ」 

「へぇ。今日のも美味そうだ」 


勝手知ったると言わんばかりに、彼は遠慮なくキッチンに立つと、慣れた手付きでコーヒーの準備を始めた。 

ちなみに、ケーキも彼の手作り。 

スポーツマンの彼がケーキを焼くなんてと最初は驚いたけど、お母さんがケーキ作りが得意で、よく一緒に作っていたそうだ。 

彼がコーヒーをセットしている間に、俺はその隣で、ナイフを取り出し、ケーキをカットする。 


「……ユウジさん。俺、ユウジさんと仲良くなれてスゲー嬉しいです」 

「え? なんて? あ、いてっ」 


耳元でそう囁かれ、動揺が手元を狂わせる。 


「大丈夫ですか!? 見せてください。あー……ちょっと切れてますね。俺、ユウジさんのこういうおっちょこちょいなとこととか、大人なのにスゲーかわいいなって」 

「……」 


――ああ神様。こいつは絶対に黒木ですよね!? 

上目遣いで、チュッと俺の指の血を舐め取る彼を見て、俺はゴクンと唾を飲み込んだ。 
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