上 下
7 / 29

7

しおりを挟む
「いや、例えの話。生まれ変わった俺と恋愛できる?」 

「生まれ変わった黒木とか……」 


 どうだろうか。想像できない。 

 俺だって、別に黒木のことが嫌いってわけじゃない。生前好きだったって言ってもらえたことは嬉しいよ。ただ、無理やり俺をここに連れてきたり、レイプしようとしたり、無理やりなところが多すぎて、素直に受け入れることができないだけで。 


「そうだな。今日みたいに無理やりキスしたり、同意なくレイプしたりとかしなきゃな。現実で監禁とかシャレにならん」 

「本当!?」 

「ああ。だけど黒木が生まれ変わるなんて実感もないし、本当に受け入れることができるかどうかは……うぐっ」 


 そこまで言うと黒木がガバッと強くしがみついてきた。 
 なんだって死んでるくせに、こいつはこんなに力が強いんだ。ここは生前のイメージが強いんだろうな、きっと。 


「俺! ちょっと諦めてたけど、生まれ変われるように頑張る! いいよね!? 神様!」 


 嬉しそうな黒木の声に、黒く淀んでいた空気が、入れ替わるようにしてパッと明るく澄んだ。 
 空気中のホコリが光に当たってキラキラと光るように、何やら光るものが上から降ってくる。 

 何がなんだかよくわからないが、黒木がそわそわとしていて、俺もつられてそわそわしてきた。 

 でもちょっと待って。これってもしかして、天に召されるってやつ? 黒木、天に召されちゃうの? 


「最後にさ、ユウジにキスしたいんだけど……。ちょっとだけならユウジ怒らない?」 

「え? あ、うん……」 


 そう言い終わらないうちに、そっと唇が重なる。さっきのようながむしゃらなやつじゃない、本当に触れるだけのキス。 

 目を閉じて、唇の感触を感じて、離れたと思って目を開けると、黒木の姿はもうなかった。 


 そして空のどこからか、 

『もう、死のうなんか思うなよ!』 

 そんな声が聞こえたように思った。 


 シーンと静まり返った室内。黒木は無事、”あの世”に逝けたんだろうか。 
 しんみりとした空気の中、俺は重大なことに気がついた。 


(――それよりもちょっと待て。俺、ここに取り残されてどうすんの?) 


 ここは黒木が創った空間のはず。どこに出入り口があるのかも分からない。出入り口があるのかも定かではない。 

 どうやったら出られるんだよ!? 

 キョドりながらも出口を探そうと立ち上がった瞬間、急に場面が暗転して、体にものすごい衝撃が走った。 


「う……い、て……――――」 


 パーパーパーパーと外で鳴り響くクラクション。どこからかドンドンという音まで聞こえてくる。 
 さっきまでの無音の空間からうってかわり、いきなり喧しい場所に移った俺の頭はひどく混乱していた。 


「何だよ。これ……」 


 酷い体の痛みに呻き声を出しながら顔を上げてようやく、俺は車の運転席で、ハンドルの上にうつ伏せになっていたのだと分かった。 


「え……あ、れ? なんで? 黒木は……?」 


 ズキッと頭に痛みが走る。 


「いっー……。なにこれ……」 


 ひどい頭痛にめまいまでする。 


「俺、事故ったのか……?」 


 遠くからパトカーと救急車のサイレンの音がする。 

 誰かが通報してくれたんだろうか。なんとか首を動かして、窓のほうを見る。霞む目に、窓の向こうで佐藤が泣きながら窓を叩いているのが見えた。 


「あー……俺、生き返ったのかー……」 


 一気に体中の力が抜け、俺はそのまま気を失った。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

さがしもの

猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員 (山岡 央歌)✕(森 里葉) 〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です 読んでいなくても大丈夫です。 家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々…… そんな中で出会った彼…… 切なさを目指して書きたいです。 予定ではR18要素は少ないです。

ペットボトルはミルクティーで 〜呉服屋店長は新入社員に狙われてます!〜

織緒こん
BL
pixivより改題して転載しています。(旧題『干支ひとまわりでごめんなさい〜呉服屋店長ロックオン〜』) 新入社員 結城頼(23)×呉服屋店長 大島祥悟(35)  中堅呉服店の鼓乃屋に勤める大島祥悟(おおしましょうご)は、昇格したばかりの新米店長である。系列店でも業績のいい店舗に配属されて、コツコツと仕事をこなしながら、実家で父が営むカフェの手伝いをする日々。  配属先にはパワハラで他店から降格転勤してきた年上の部下、塩沢(55)と彼のイビリにもめげない新入社員の結城頼(ゆうきより)がいた。隙あらば一番の下っ端である結城に仕事を押し付け、年下店長を坊や扱いする塩沢の横暴に、大島は疲れ果て──

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。 それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。 王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。 いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?

悪逆第四皇子は僕のお兄ちゃんだぞっ! ~商人になりたいので悪逆皇子の兄と組むことにします~

野良猫のらん
BL
剣と魔法の世界で異端扱いされてきた科学者お兄ちゃん×この世界で唯一科学を理解できる異世界転生者弟! 皇子様からそこら辺の農夫までほとんど攻略可能のオープンワールドBLゲー『黄昏の刻を歩んで』に転生した僕。僕は何を隠そうそのゲームで行商人プレイを何より愛する行商依存症だった。第五皇子という身分にありながら行商人になることを目指す僕は誰からも煙たがられ疎まれている悪逆皇子に媚びを売ることにし――――悪逆マッドサイエンティスト皇子と行商依存症ショタの最強コンビが誕生することになった! ※第二部は5/1より更新開始です。

侯爵令息、はじめての婚約破棄

muku
BL
侯爵家三男のエヴァンは、家庭教師で魔術師のフィアリスと恋仲であった。 身分違いでありながらも両想いで楽しい日々を送っていた中、男爵令嬢ティリシアが、エヴァンと自分は婚約する予定だと言い始める。 ごたごたの末にティリシアは相思相愛のエヴァンとフィアリスを応援し始めるが、今度は尻込みしたフィアリスがエヴァンとティリシアが結婚するべきではと迷い始めてしまう。 両想い師弟の、両想いを確かめるための面倒くさい戦いが、ここに幕を開ける。 ※全年齢向け作品です。

処理中です...