クズ男はもう御免

Bee

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番外編

番外編 あやしい薬の作り方5(完)

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 レイズンはハクラシスに薬を渡してから四日目の朝、カーテンの隙間から差し込む朝日を顔に受けながら、ひどく後悔していた。
 
 横を見ると、先ほど落ちるように眠ってしまったハクラシスの顔がある。
 その顔がなんとなくやつれている気がするが、それは勘違いなどではないだろう。
 きっと今鏡を見れば、レイズンも同じような顔になっているはずだ。
 
 それもそのはず、レイズンはハクラシスによってこの三日間、まったくといっていいほど寝かせて貰えなかったのだ。
 いや、一応ハクラシスよりは睡眠時間はとれた。しかしそれはイキすぎて失神した時の話。
 食事ですら用意する時間がもったいないからと、携帯食で済ませていたという有様だ。
 
 レイズンは正直、ハクラシスの体力を舐めていた。
 まさか媚薬でぶっ飛んだハクラシスの精力が、こんなにも無尽蔵だったなんて。
 
 さすが長年第一線で活躍していた騎士だけあって、体力も化け物並みだ。
 技も力も敵わないレイズンは逃げることもできず、されるがまま、これまでハクラシスが溜め込んできたものを腹の中に目一杯注ぎ込まれた。
 
 
 そして今、初日にあの薬をハクラシスに全部渡さず、隠しておけばよかったと、猛烈に後悔しているところだ。
 
(まさか、俺の見てないところで薬を飲んでたなんて)
 
 どうやらハクラシスは薬の効果が切れかかると、レイズンに気づかれぬよう次の薬を服用していたようなのだ。
 
 それは先ほど起きた時に、サイドテーブルに置いていたはずの残りの薬が空になっているのを見て、それでようやく気付いたのだ。
 
(なんで全部渡しちゃったんだろ。一包だけで様子を見ればよかった! 俺のばか!!)
 
 ハクラシスはレイズンがイキ狂うほど、じっくり激しく愛してくれた。それはありがたいのだが、そうじゃない。
 
(せめてトイレの時くらい、ひとりでゆっくりさせて欲しかった)
 
 トイレだけではない。
 レイズンが行くところ全てにおいてハクラシスがついてきて、気がついたら前も後ろも弄られ、気がついたら尻に硬く長いペニスが押し込まれていた。
 
 失神するように眠り、目が覚めると尻に挿入ったままだった時もあった。そして口づけされ、また次が始まるのだ。
 
 薬が切れたらこの暴走も鎮まるだろうと思っていたが甘かった。
 残りの二回分とも、きちんと服用していたなんて。
 
(えー……これって、そんな中毒性ある薬だって薬師のオッサン言ってたっけ?)
 
 いつものハクラシスならそんな強烈な薬、怪しんですぐに服用をやめただろうに。だがそうできなかったのは、この薬の強い依存性にあのハクラシスも勝てなかったのだろうと、レイズンは考えた。
 
 そしてこれ以外にもちょっと腑に落ちない点もある。
 
(ちょっと待て。これ、俺にも媚薬効いてないか)
 
 よく考えると度々失神していたとはいえ、ハクラシスとの激しいセックスにレイズンもついていけていた。
 
 これまでだったらせいぜい二回できればいい方で、ラックとの時などは一回イケたらそれで満足して終わっていた。
 
 それにアーヴァルとだってそうだ。アーヴァルともせいぜい二回くらい。
 
 正直アーヴァルとは恋人でもなんでもなかったので数に入れるのもおかしい話だが、鬼のような体力で比較できるとしたらアーヴァルくらいだ。
 
 アーヴァルは無理矢理にでもイカそうとするので、イキたくなくともイッてしまう。しかもこっそり媚薬入りの酒を飲まされていたわけだし。
 だがそれでもアーヴァルとレイズンができる回数は2回程度で、一晩みっちりやるということはしなかった。
 
 だがそんなアーヴァルでも、たった一度だけそうじゃなかった時があった。
 
 ——それはレイズンがブーフに媚薬を盛られた時だ。
 
(あの時のこと、俺はほとんど覚えてなかったけど、アーヴァル様が長時間に渡って、何度も俺を抱いてくれていたって聞いた。ハクラシスはあの時三人ともおかしくなっていたんだと言ってたけど、それってもしかして俺の体液から媚薬成分が移った、てことないか?)
 
 アーヴァルの媚薬入りの酒は風味程度の弱いものだったのだろうけど、それでも嫌がるレイズンが二回はイケるくらいの代物だ。
 
 あの日ブーフに飲まされた媚薬がこれと成分が同じかどうかはわからないが、レイズンの唾液や粘液を介して二人に作用にしていたとするなら、あの日ハクラシスが一緒だったとはいえ、好きでもなんでもないレイズンをアーヴァルが長時間慰めることができたことの説明がつく。
 
 飲んだ人の体液を介して、相手に作用するということが事実であれば、この三日間レイズンがハクラシスの執拗なセックスについていけていた理由も十分納得できる。
 
(ちょっと薬屋に行って聞いてみよう。そしてもう飲ませないほうがいいか、相談しなきゃ)
 
 レイズンは怠い体を起こしつつ体を捻ると、腰がガクンと落ちかけた。
 
「あっ! ……いつつ……」
 
 うまく体を起こせず、腰を庇うようにしてレイズンは何とか体を起こした。
 
 (こりゃちょっと本気でやり過ぎだぞ。腰が立たない。馬に乗れるかなあ)
 
 腰をさすりながら布団から出ると、服を着ようと自分の体を見たところで、そのあまりの酷さに「うっ」と息を呑んだ。
 
 なんと身体中痣だらけなのだ。
 茶色くなっているものもあれば、紫になっているところも。よく見ると歯型まで付いている。
 
「ひぇ」
 
 特に胸と内太腿あたりがひどい。おそらく見えてない首や背中もすごいのではないだろうか。いつのまにこんなに付けたのか。
 
 これまでこんなに痕を付けられたことなどなかったレイズンは驚き、思わず横で熟睡するハクラシスを見た。
 
 (こ、これが媚薬のなせる技かあ……すげーな媚薬……)
 
 あんなに汗を垂らしながら、必死の形相でレイズンを突き上げ、体中を弄り愛撫し、射精してもまだ足りないと何時間もレイズンを求め愛してくれた。
 
 思い出すとまた腹の奥がジンとする。やっと萎えたペニスがまた勃ち上がりそうになり、レイズンは慌てて頭の中から卑猥な記憶を追い出した。
 
 シャワーはさっきハクラシスに抱き抱えられて浴びたからもういいだろう。レイズンはよろよろと下着を履き、服を纏って、それからキッチンでちょっと水を飲んで息をついた。 
 
 そして熟睡しているハクラシスに声をかけようかと躊躇った後、メモ書きだけを残してレイズンは馬に乗った。
 
「いててて……。こりゃ帰ってきたら寝込むかも」
 
 レイズンはなるべく腰に負担がかからないよう気をつけながら、馬で街へ向かった。
 
 
 
 
 ◇
 
 
 
 
「うーん、この薬、かなり抑えたのでそこまで媚薬の作用が強いはずないんですけどね」
 
 ヨロヨロの状態で店に現れたレイズンに最初こそ驚いた薬師だったが、レイズンの説明に「ははーん」と何か察すると、腰に効く薬湯を煎じて飲ませてくれた。
 
「でも、俺も、その……俺の恋人も、なんだか凄い興奮しちゃって歯止めが効かなくなって……」
 
 どう説明したらいいものか、レイズンはモゴモゴと言い淀んだ。
 
 だが、それを聞いた薬師はブッと吹き出した。
 
「いや、レイズンくん、それは薬の効果とかではない気がしますがね……。まあそれはおいといて、あなたが服用した薬の成分が体液を介して相手にばく露するというのは、あながち間違いではないでしょう。とくにこういった媚薬系はありえますね。それでどうしますか。薬の効果自体は飲まなくなればなくなります。しかし、不能を治すには、もうしばらく服用したほうが効果を得られると思いますが」
 
「でも、その……あんなに作用が出るなら、ちょっと生活に支障が出てしまうし……。でも不能が治るなら続けたい」
 
「うーん、そうですねえ。私もこれを扱うのが初めてで、経験がないですからね。とりあえず媚薬の作用をギリギリまで抑える形で処方してみましょうか。今度は1週間分です。これ以上は媚薬効果を抑えることはできませんので、もしこれでもダメであればこの薬はもう使用しないほうがいいでしょうね。これ以上量を減らすなら、この薬草を使う意味がなくなりますし」
 
 レイズンは考えた。
 これをハクラシスに渡すべきかどうかを。
 
 昨日までのハクラシスはいろいろな意味でヤバかった。あれがこの先も続くと思うと、生活に支障が出るどころか、体を壊す。確実に。
 でも——
 
「ではその調合で一週間分だけください。これでもしダメならもう諦めます」
 
 そう決意すると薬師はすぐに一週間分の薬を用意してくれた。そしてついでに腰用の貼り薬をお願いすると、これはサービスですよと、一緒に小さな木製の薬器もくれた。
 開けると柔らかな軟膏が入っていて、意味が分からず薬師を見ると、薬師は自身の首元をトントンと指で叩いて示し「うっ血や切り傷に効きますよ」と笑った。
 
 レイズンは、しまった口づけの跡が見えていたかと恥ずかしくなったが、隠すのも今更かと、ありがたく頂戴した。
 そして薬湯で幾分かマシになった体で馬に乗ると、途中で肉屋に寄り肉と惣菜を買い足してから小屋に戻った。
 
 
 
 
「——もうハクラシスは起きたかな」
 
 腰が痛くて馬を速く走らせられず、結構時間がかかってしまった。
 しかも昼飯用のおかずを買おうと肉屋に寄ったら、ブーフは配達でいなかったもののおかみさんにやつれた姿を心配され、余計に遅くなってしまったのだ。
 
「ただいま——」
 
 腰をさすりつつソロッとドアを開けると、なんと目の前に半裸のハクラシスが立っていた。
 
「ひ! わ、び、ビックリした……」
 
「戻ってきたのか——!」
 
 書き置きをしたとは言え、勝手に出て行って怒られるかと思ったレイズンは目をギュッと閉じた。
 だが予想外にもハクラシスは怒鳴ることはせず、逆にレイズンを抱きしめた。
 
「これからお前を探しに行こうとしていたところだった。さっき起きて、ベッドにもどこにもお前がいないのを知って、肝が冷えた。この三日間やり過ぎたと反省した。すまなかった」
 
「え? え? 俺、部屋に書き置き残していたんですけど……」
 
「なに?」
 
「見てないんですか。ちょっといいですか。——ほらこれ」
 
 レイズンはハクラシスの腕から抜け出ると、部屋に置いていたメモを持ってきて見せた。それを読んだハクラシスは、力が抜けたように近くにあった木の椅子に座り込んだ。
 
「……気が動転して、俺としたことがこれに気が付けなかった……」
 
「すみません、熟睡していたからつい……。へへ、俺が出て行くわけないじゃないですか! ほら、これ、肉屋にも行ったんでお昼これを食べましょう。この三日間ほとんど何も食べてないですからね」
 
 レイズンが笑って手に持った袋の中身を見せると、ハクラシスは安堵したように目を細め、それからレイズンに普通のキスをした。もうあの狂ったようなむしゃぶりつくようなものではなく、いつもの軽く音を立てて啄むような優しいキスだ。
 
「そうだな。腹が減った。俺はパンを切るから、レイズンはテーブルの用意をしてくれ」
 
「はい!」
 
 ハクラシスが気を取り直して立ち上がると、レイズンもヨタヨタではあったが元気にテーブルに向かった。
 


 
 ◇
 
 
 
 
「——それでですね、どうも薬が効き過ぎてるなって俺思って、また薬師に調合し直して貰ったんです」
 
 レイズンは肉屋で貰ったハムの切れ端を頬張りながら、ハクラシスに薬師との話を説明した。
 
 やはり食事を摂らなかったのはよくなかった。肉を食べるとやはり元気が出る。街へ行って良かったと満足しながらハクラシスに薬を見せた。
 
「やっぱり、あの薬草は作用がキツイですね。でもあの薬草じゃないと不能が治らないかもしれないし、これも最低限の量だそうで、これでもダメだったらこの薬は使えないって薬師が」
 
 もぐもぐと頬張りながらレイズンが説明するのを、ハクラシスは頭を抱えて聞いていた。
 
 (やっぱりハクラシスもショックを受けるよなあ。せっかく不能が治るかもしれないっていうのに。これ以上媚薬作用が抑えられないなら、この薬使えないもんな)
 
「だからとりあえず今度は一週間分だけ貰ってきました。また今回みたいなことになれば、俺すぐ取り上げるんで……」
 
 そこまで言ったところで、ハクラシスが「レイズン」と言葉遮った。
 
「すまない、違うんだレイズン」
 
「え? 何がですか?」
 
 レイズンは肉をフォークに刺したまま、ポカンとしてハクラシスを見た。
 
 ハクラシスはレイズンから視線を外したまま、何だか言いにくそうにしている。
 
「いや、その……薬の効果のことなんだが、実をいえば媚薬の効果はそれほどでもなくてだな……」
 
「へ」
 
「いや、効いていたのは効いていた。だが理性が吹っ飛ぶとか、そこまでではなくて、その……勝手に薬を服用したのも、中毒症状が辛くて薬を服用したのではなくてだな……」
 
 片手を口に置き、珍しくハクラシスが言い淀む。
 
「まあ……、そのなんだ、萎えてお前を抱けなくなるのが嫌で、自分から服用したんだ」
 
「——は」
 
「お前とはじめてできたことが嬉しくて——その、お前の中が良すぎて体に溺れてしまったというかだな……まあ、タガが外れた、と言うべきか、外したというべきか」
 
 レイズンは絶句した。
 ハクラシスはこの三日間、薬のせいで理性がとんでしまったのだと思っていたが、本人は違うというのだ。
 
 (え、じゃあ、ただ単にハクラシスは俺の体に夢中になってただけってこと?? 三日間も!?)
 
 ハクラシスは面目なさそうに、いまだポカンとしているレイズンに、その場で頭を下げた。 
 
「お前の体を労ってやらなければいけなかったのに、快楽に飲まれ、己の性欲を優先してしまった。すまなかったレイズン」
 
「え!? いや、俺は大丈夫です! ただちょっと生活に支障がでるといけないかなって、そう思って薬師に相談にいっただけで!」
 
 レイズンは慌てて立ち上がると、ハクラシスに頭を上げてくれとお願いした。
 
「レイズン、本当にすまなかった。お前に呆れられても仕方がない。俺はあれも人一倍長く、しかも体力も並外れている。お前に負担をかけることは分かっていたのに、自分からタガを外してしまった。お前が俺のもので感じる様が、愛おしくかわいくてつい……」
 
 (はわ~~~~!)
 
 いつもの威厳たっぷりのハクラシスが、しおしおにしおれたようになっている。
 レイズンの胸がキューーーンと鳴った。
 
「あ、あの! ハクラシス! 俺、嬉しいです! いつも俺ばかりイカせて貰ってて、だからいつかちゃんと満足させてあげたいって、そう思ってたんです。ただちょっと激しすぎて心配になっただけで!」 
 
 転がるように近づきハクラシスの手を取って、頭を傾げて顔を覗き込むと、照れくさそうに笑う顔がある。
 
「次からはちゃんと理性を保ち、無茶をしないように律することを誓う。だからレイズン、これからも一緒に不能を治す手伝いをしてくれるか」
 
「もちろんですよ! へへ」
 
 レイズンは満面の笑みでハクラシスに口づけた。
 
 
 
 その日からハクラシスは、新しく調合し直した薬を服用し始めた。
 やはりあの草の量が少なすぎるのか前の薬よりも勃ちが悪い気がしたが、それでも勃つことには間違いなく、ハクラシスは満足そうだった。
 
 ただやはり服用中は少しの刺激でも反応するようになり、ハクラシスがあそこを硬く盛り上げさせているのを見ると、レイズンはムラムラッとしてついつい袖を引き、作業中でも行為になだれ込むことが増えた。
 
 ハクラシスも己を律すると決めたにもかかわらず、最初こそだめだと突っぱねるものの、すぐにほだされて気がついたらレイズンにのしかかっている有様で、いまだ性欲をコントロールできずにいた。
 
 だがそれも体が慣れればすぐに気にならなくなるだろうと薬師の言葉だ。
 
 そんなふうな生活が続き、気がつくと小屋の周りでは雪がチラつきはじめた。
 
 もうじきに雪の季節が訪れる。今年はどうやら昨年よりもかなり濃厚な冬ごもりになりそうだなと、レイズンは思い口元をニヤニヤさせた。
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