バッドエンド・タイムリープ!

Bee

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番外編

ウリやってた元ヤンキーは奥手彼氏に抱かれたい3※

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「——さて、じゃあ話そうぜ。木嶋。そこ座れ」

 寝る前、布団を敷き終えたあと、春壱と木嶋は互いの布団の上で、膝を突き合わせて座った。
 春壱は胡座で、木嶋はなぜか正座。いつもより高い位置にある木嶋の顔を、春壱は見上げるようにして見つめた。

 きっと春壱に詰められると思っているのだろう。緊張した表情をしている。いつもはキリリと上がった眉毛が、今はすっかり下がってしまっている。
 まああながち間違いじゃない。春壱は、これから木嶋の本心を暴き出す予定なのだから。

「俺は、本当に今ウリはやってねー。昼間はちゃんと学校に行ってるし、木嶋が遅い日も外出せずに家にいる。なんなら俺のスマホの履歴を見てもいい。お前やじーちゃん、学校の友達としか会話してねーから」

 ポンとスマホを投げると、木嶋は首を振って、中身を確認せず春壱にスマホをさし戻すと、いきなり土下座をした。

 思いもがけない急な土下座に、春壱の喉から「うお」と声が出た。

「本当にごめん。疑ってない。だからスマホを見る必要はない。傷つけてすまなかった」

 まさか土下座までするとは思っていなかった。春壱は慌てて「そこまでしなくていーから」と、顔を上げさせた。

「お前急に土下座すんなよ。武士かよ。びっくりすんだろ」
「……すまん」
「んで、木嶋はさ。ほんとのところ、俺のことどー思ってる? 俺といるの面倒とかさ思ったりしてんの? 恋人とかじゃなく友達って感じのほうが、もしかしてしっくりきてたりすんの?」
「え?」
「お前さ、俺とそーいう関係になるの拒否ってるじゃん。田崎さんとの関係を疑うのによ。お前は手ぇだそうとしねーじゃん。だからさ、なんかもう好きの意味が、方向が、俺と違うんじゃねーのかなって」
「え? あ、は……?」

 木嶋が、鳩が豆鉄砲くらったような顔で、春壱を見た。

「俺さ、木嶋が俺のこと恋人としてもう見れねーならさ、一旦リセットする意味でさ、ここ出ていこーかなって」

 これはハッタリだ。……いや、もしそうならそれで友達としてルームシェアでもいいのかなーとは思う。でも一方通行の想いをかかえて一緒に住むのはかなりキツイ。
 
 とはいえ春壱には、木嶋は絶対に恋愛対象として自分のことが好きなのだという、絶対の確信があった。

「……は? い、いや、いやいやいや、ちょっと待て。なんで、そうなるんだよ」
「だからさー、キス以上のことしねーじゃん。キスも軽いチューだけだし。俺が誘ってもかわすしさー」
「いや、だから、その……嫌とか、そういうわけじゃ…………」
「じゃあ、なんなんだよ」

 そう訊くと、木嶋は困ったように黙って俯いた。

「ずーっとヤッてねーと、溜まったりしねーの? いっつもどーしてんの」

 黙り込む木嶋の膝を、春壱は片方の足で容赦なくガンガンと蹴る。
 するとようやく木嶋が小さい声で「……風呂で抜いてる」と呟いた。

「オカズは俺?」

 ちょっと面白半分に訊いてみると、木嶋は観念したように頷いた。

「ぶはっ! ちょ、お前、すぐそばに本人がいんのに、なんでひとりでオナッてんだよ!」

 思わず吹き出してしまった。
 ツッコミをいれながら、笑いがこみ上げ、つい笑ってしまう。

「う、うっせーな! 笑うなって! だってさ……」
「だって?」
「……」
「ほら、言っちまえよ。ほらほら」

 さらに膝をガンガン蹴ると、いい加減にしろとばかりに木嶋が春壱の足首を掴んで止める。そしてさらに観念したように、口を開いた。

「……真面目な話。お前と会った頃、お前の置かれていた状況について、理解していたようで実はまったく理解できていなかったことに、最近になって気がついた。あの頃は、本当に無我夢中で、なんとかタイムリープを終わらせようと必死だったし。俺はまだ青臭いガキだったし、ウリがどんなものか、現実として見えていなかったように思う」
「…………そんで?」
「社会人になって、いろいろ経験して視野が広くなってきて、いろんなものが見えるようになって。それでようやく、お前のやってたことがどんなことか、はじめて理解できたというか……」
「んで夜のおしょーばいのこととか知って、俺のこと、汚いって? そう思った?」

 ちょっと意地悪く訊いてみた。
 テレビもSNSも興味のない木嶋はそういうことに疎く、ホテルの中でどんなことが行われていたかなど、分からなかったのも頷ける。大人になって、はじめて春壱のやっていたことのヤバさに気づいたのだろう。

 春壱は、木嶋に言えないようなプレイをたくさんしてきた。それも長年、言われるがままお金のために。気持ち悪いって思われても仕方がなかった。それで、春壱の体に触ることに抵抗があると言われれば、もうどうしようもない。

「俺とは生理的に無理って感じになっちゃった?」

 自虐的にそう笑ってみせると、木嶋が「違う」とでかい声で、慌てたように春壱の肩を両手で掴んできて、思わず「うぉ」と声が出る。
 
「違う! 汚いとか、そういうんじゃない。うまく言えるか分かんねーけど、怖かったんだ。お前を無理やりヤッてたウリの客と、同じになっちまうんじゃないかって。あいつらと俺と何が違うんだって。お前にそういう気持ちを向けるのが、怖かった」

 木嶋が嫌悪していたのは、春壱に対してではなく、客と自分にだった。

 たぶん、ずっと悩んでいたんだろう。好きだからこそ、相手を傷つけたくない。木嶋のそんな純粋な気持ちが、逆に2人の間に見えない溝を作ってしまったのだ。

「……は、はは、なんだ、そんなことかよ! バカだなぁ! 木嶋は」

 春壱はそんな木嶋の気持ちが嬉しかった。

 これまで誰も、春壱の心の中のことを心配してくれたことなどなかった。
 もちろん、自分も気にしないようにしていたし、仕方のないものだと開き直っているところもある。あんな生活に慣れすぎて、嫌だとか怖いとかそういう気持ちさえ忘れていた。自分ですらこうなのに。
 
 木嶋だけだ。こうやって春壱のことを考えてくれるのは。

 なんだか嬉しすぎて、笑いながらすこしだけ涙が出た。

「……バカッていうな。俺は本当に真面目に……」
「わーってるって。ほんと、マジでありがとな。木嶋。俺大丈夫だからよー。俺がヤりてーつってんだから、大丈夫なんだって」

 そう言って、春壱は木嶋の首に腕を回し、頬にキスをして抱きしめた。

「木嶋は童貞だからなー。純粋すぎんだよ。……それとも、俺の知らねーうちに風俗行って、真実を知っちゃった系?」

 体を少し離してニヤッと笑うと、木嶋が露骨に嫌な顔をした。

「……俺、童貞じゃねぇし。お前の知らないところで風俗にも行ってねー」
「マジで!? 童貞じゃねーの?」
「高校2年のとき、女子大生に食われて捨てられた」
「ぶはっ! マジかよ~!」

 春壱が腹を抱えて笑いだし、木嶋はますます苦虫を噛み潰したような顔になる。

「笑うなって。ただでさえトラウマみたいなもんなんだからさ。俺下手すぎて捨てられたんじゃねーかって、すげー悩んだんだぞ」
「もしかして、俺のほうが経験豊富だから、それも手ぇ出せねー原因になってたりする?」

 ひーひー笑いながらそう訊くと、木嶋はムスッとした顔のまま視線をそらした。

「マジかよぉ~。なんだよ~大丈夫だって。経験豊富な俺が、しっかりリードしてやるし。つーか、お前男同士でヤるのやり方知ってんの?」
「……一応、ネットで調べた」
「お、ちゃんと調べたのか。偉い偉い」

 春壱は冗談めかして、木嶋の頭を撫でた。その短い黒髪は、硬そうにみえて案外柔らかい。春壱の好きな犬の毛のようだ。

「木嶋、今日、これからヤろうぜ」
「え? ……ええ!」
「なー。いいじゃん。もうわだかまりもねーしよ。今日が初夜だよ、初夜。なー、お前のちんぽでこれまでのこと忘れさせてくれよー」

 冗談かのように言いながらも逃さないように、春壱は木嶋の首にもう一度腕を巻きつける。

「だ、だめだ!」
「なんで!」
「ここ、壁薄いの知ってるだろ!? 絶対無理。あと卑猥なこと言うな」

 ここは確かに壁が薄い。大音量とはいえお隣からテレビの音が漏れるくらいだ。その上この木造アパートが古すぎて、男二人が取っ組み合いばりのセックスなどすれば、声どころかギシギシミシミシと派手に揺れそうだ。腰の振りで、アパート全体が揺れるとか、シャレにならない。

「……まあ、俺も準備がいるから今日は諦めるけど。それなら抜きっこしようーぜ」
「いや、だから声とか……」
「声出さなきゃいーじゃん。な」

 木嶋の首を引き寄せるようにしてキスをする。木嶋から、戸惑いが伝わってくる。
 春壱は構わずに唇を押し付け、少しカサついた木嶋の唇に吸い付いた。いつもならここで終わるところを、春壱は何度も吸い付いては離れを繰り返し、口を開けろとせがむように舌先で唇を割り、歯をなぞった。

 春壱の名前を呼ぼうとしたのだろう。少しだけ口が開いた隙をつき、春壱は舌を木嶋の口の中に滑り込ませた。木嶋の腕が春壱の背中を掻き抱き、その勢いで布団の上に倒れ込むと、熱い吐息とともに、2人の舌がもつれるようにして絡み合った。

「……ん、……あ……」

 木嶋の大きな手が、春壱の体を服の上から弄り這う。
 腰を密着させると、木嶋の股間がしっかりと硬くなっているのが分かった。

「き、木嶋……も、硬いじゃん……」
「……やべー、すげー……興奮する」
「ふ、あ……」

 木嶋が、春壱の薄い尻を掴み、互いの股間を密着させグリッと擦り当てる。春壱の声が出そうになると、木嶋の唇がそれを塞ぐ。
 木嶋らしいがむしゃらで不慣れな感じがまた、春壱の興奮を誘った。

 互いのズボンの中に手を入れ、キスをしたまま扱きあう。木嶋のペニスは大きく、春壱の細く人よりやや小さい手には余る。そして逆に木嶋の手は大きくて力強く、あっという間に春壱のペニスを包みこんでしまう。
 
 木嶋からの激しい快感に気を取られないよう、春壱は必死で手を動かすが、快楽に頭を支配される頃にはその手は離れ、木嶋の大きな手の中で互いのモノが重なり押しつぶされるように擦れ合った。

 春壱が、口の中で喘ぐように「イク」と小さく声を漏らすと、申し合わせたように2人同時にその手の中で果てた。
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