49 / 69
4回目のリープ
49.知ってること知らなかったこと1
しおりを挟む
「すげーな木嶋! めっちゃ普通にチャーハンじゃん! うめー」
今回の鏑木も、作りたてのチャーハンを大喜びで食べていた。火加減もうまくいき、メシが前に居酒屋の厨房スタッフに教えてもらった通りのパラパラ具合で、俺も満足の出来になった。
「まあな。何度もループしたし。そりゃチャーハンの腕前も上がるわってな」
「前の俺も食ったのか?」
「食った食った! 本人に言うのもなんだけど鏑木はチャーハンが好きでさ、特に前回はよく作らされた」
「……ふーん」
「餃子も好きだろ? チャーハンと餃子がセットのことが多かったな」
「あー……それ、あれかも。昔さ、親父がラーメン屋連れてってくれたときがあってさー。そこで食べたチャーハンと餃子のセットを食ったんだけど、それがめっちゃうまくて。いまだに、なんかチャーハンといったら餃子みたいなイメージ。うち金ねーから、それ俺ん中で贅沢セットみたいになってる」
もぐもぐと咀嚼しながら、鏑木が何気なくそんな話をした。
初めて聞いた話だ。ただ単にチャーハンと餃子が好きなだけだと思ってた。あんなに親しくしてたのに、まだ知らないことがあるんだな。
「――じゃあ次は餃子も用意しとくな。激安タナカマートの安いチルドのやつだけど」
「おー、やったー。つか木嶋もタナカマート派なんだ。あの店、安いけど小さい店だし、あんま知られてねーんだよなー。それにここなら近くにでけースーパーあるじゃん。そっちじゃねーんだ」
そう、元々は俺もそっちに行ってた。近いし、大きなチェーン店で品揃えも豊富だ。でも鏑木にあの店を教えてもらってからは、いつもそこを利用していた。鏑木の家からも近くて、都合もよかったし。俺にとっては思い出深い店になってる。
「最初のリープで鏑木に教えてもらったんだ。めちゃ安い店があるって。品揃えはイマイチだけど、マジで安くてびっくりした。店名が激安っていうだけあるな」
「そこも俺なんだ」
「そうだな。俺はあっちのほう行くことがなかったし。繁華街にも滅多に行くことなんかないからな。鏑木に会うまでは、繁華街の奥にあんな飲み屋街があるなんてことすら知らなかった。そもそもスナックって言葉は知ってたけど、何かもよくわかってなかったし、二階に人が住めるってことも知らなかった」
「まあ、店の造りによって違うと思うけどなー。あそこは古い建物で、昔はオーナーが住んでたらしいけど、店もオーナーも変わって空き部屋になってたところを、借金で住むとこなくなった親父に条件付きで貸してくれてる」
「条件?」
「そ。スナックの店長として店の管理をすることと、俺にあそこでウリをさせることが条件」
「……そんな条件……!」
これまでの鏑木や田崎さんから聞いた話を総合すると、そういうことなのだろうかとは思っていたが……。
鏑木は、家のことやウリについての話は、俺から遠ざけようとしていたから、こんなにあっさり本人の口から聞けるとは。
「なんだよ。この辺の話、前の俺から聞いてないのか」
「鏑木は、俺には家の事情だとか、ウリだとか、そういうことを話すのを嫌がっていたから……」
鏑木は俺の驚く様子を見ると眉をひそめ、食べかけのままスプーンを皿の上に置いた。
「……なー、本当に俺とお前、親友だったのかよ。やっぱ俺のこと、変な妄想話でからかってるとかじゃねーだろーな」
「なんでだよ」
「だってよー、変なことは知ってても、肝心なことは何も知らねーじゃん。なんで親友なのに、俺はお前にそういうこと言わなかったんだよ」
「俺が知るわけないだろ。俺だって聞きたかったけどさ、聞くと怒るんだよ、お前が! 前のときもさ、ウリやってるって話聞き出そうとしただけで、絶交するとかそう言う話にこじれちゃって、大変だったんだよ」
「絶交? なんでだ? お前、俺に失礼な言い方でもしたのかよ」
確かに聞き方は悪かったかもしれない。でもあの時ははっきり聞いたとしても、鏑木を怒らせていたのは確かなんだよな。
「松永の写真と絵を見た日、ウリやってんのかってはっきり聞きづらくて、鏑木に〝何か松永に弱みでも握られてんのか〟とか〝脅されていないか〟とは聞いた。そしたら、もうお前とは話したくねーって言われて、絶交宣告された」
「は? そんだけで?」
「でも結局その日の夜にウチに訪ねてきて、鏑木からウリやってるって打ち明けて貰って、仲直りできたけどな」
「え? え? 何それ。俺、夜にお前んち訪ねていったの? 絶交したのに? 俺、一度無理ってなったら、何があってももう絶対無理なタイプなのに。なんで会いにいってんだよ」
「いや、ちょっと、俺だって分かんねーよ。つか、そいうとこ聞くんじゃねーよ。本人にこういう話する俺の身にもなれよ」
「なんだよそれー。全然わかんねー」
ヒャッヒャと笑いながら、鏑木は止まっていた手を動かし、チャーハンを口に入れた。
今回の鏑木も、作りたてのチャーハンを大喜びで食べていた。火加減もうまくいき、メシが前に居酒屋の厨房スタッフに教えてもらった通りのパラパラ具合で、俺も満足の出来になった。
「まあな。何度もループしたし。そりゃチャーハンの腕前も上がるわってな」
「前の俺も食ったのか?」
「食った食った! 本人に言うのもなんだけど鏑木はチャーハンが好きでさ、特に前回はよく作らされた」
「……ふーん」
「餃子も好きだろ? チャーハンと餃子がセットのことが多かったな」
「あー……それ、あれかも。昔さ、親父がラーメン屋連れてってくれたときがあってさー。そこで食べたチャーハンと餃子のセットを食ったんだけど、それがめっちゃうまくて。いまだに、なんかチャーハンといったら餃子みたいなイメージ。うち金ねーから、それ俺ん中で贅沢セットみたいになってる」
もぐもぐと咀嚼しながら、鏑木が何気なくそんな話をした。
初めて聞いた話だ。ただ単にチャーハンと餃子が好きなだけだと思ってた。あんなに親しくしてたのに、まだ知らないことがあるんだな。
「――じゃあ次は餃子も用意しとくな。激安タナカマートの安いチルドのやつだけど」
「おー、やったー。つか木嶋もタナカマート派なんだ。あの店、安いけど小さい店だし、あんま知られてねーんだよなー。それにここなら近くにでけースーパーあるじゃん。そっちじゃねーんだ」
そう、元々は俺もそっちに行ってた。近いし、大きなチェーン店で品揃えも豊富だ。でも鏑木にあの店を教えてもらってからは、いつもそこを利用していた。鏑木の家からも近くて、都合もよかったし。俺にとっては思い出深い店になってる。
「最初のリープで鏑木に教えてもらったんだ。めちゃ安い店があるって。品揃えはイマイチだけど、マジで安くてびっくりした。店名が激安っていうだけあるな」
「そこも俺なんだ」
「そうだな。俺はあっちのほう行くことがなかったし。繁華街にも滅多に行くことなんかないからな。鏑木に会うまでは、繁華街の奥にあんな飲み屋街があるなんてことすら知らなかった。そもそもスナックって言葉は知ってたけど、何かもよくわかってなかったし、二階に人が住めるってことも知らなかった」
「まあ、店の造りによって違うと思うけどなー。あそこは古い建物で、昔はオーナーが住んでたらしいけど、店もオーナーも変わって空き部屋になってたところを、借金で住むとこなくなった親父に条件付きで貸してくれてる」
「条件?」
「そ。スナックの店長として店の管理をすることと、俺にあそこでウリをさせることが条件」
「……そんな条件……!」
これまでの鏑木や田崎さんから聞いた話を総合すると、そういうことなのだろうかとは思っていたが……。
鏑木は、家のことやウリについての話は、俺から遠ざけようとしていたから、こんなにあっさり本人の口から聞けるとは。
「なんだよ。この辺の話、前の俺から聞いてないのか」
「鏑木は、俺には家の事情だとか、ウリだとか、そういうことを話すのを嫌がっていたから……」
鏑木は俺の驚く様子を見ると眉をひそめ、食べかけのままスプーンを皿の上に置いた。
「……なー、本当に俺とお前、親友だったのかよ。やっぱ俺のこと、変な妄想話でからかってるとかじゃねーだろーな」
「なんでだよ」
「だってよー、変なことは知ってても、肝心なことは何も知らねーじゃん。なんで親友なのに、俺はお前にそういうこと言わなかったんだよ」
「俺が知るわけないだろ。俺だって聞きたかったけどさ、聞くと怒るんだよ、お前が! 前のときもさ、ウリやってるって話聞き出そうとしただけで、絶交するとかそう言う話にこじれちゃって、大変だったんだよ」
「絶交? なんでだ? お前、俺に失礼な言い方でもしたのかよ」
確かに聞き方は悪かったかもしれない。でもあの時ははっきり聞いたとしても、鏑木を怒らせていたのは確かなんだよな。
「松永の写真と絵を見た日、ウリやってんのかってはっきり聞きづらくて、鏑木に〝何か松永に弱みでも握られてんのか〟とか〝脅されていないか〟とは聞いた。そしたら、もうお前とは話したくねーって言われて、絶交宣告された」
「は? そんだけで?」
「でも結局その日の夜にウチに訪ねてきて、鏑木からウリやってるって打ち明けて貰って、仲直りできたけどな」
「え? え? 何それ。俺、夜にお前んち訪ねていったの? 絶交したのに? 俺、一度無理ってなったら、何があってももう絶対無理なタイプなのに。なんで会いにいってんだよ」
「いや、ちょっと、俺だって分かんねーよ。つか、そいうとこ聞くんじゃねーよ。本人にこういう話する俺の身にもなれよ」
「なんだよそれー。全然わかんねー」
ヒャッヒャと笑いながら、鏑木は止まっていた手を動かし、チャーハンを口に入れた。
30
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる