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4回目のリープ
44.鏑木との再会
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「――はい、では今日の授業はここまで」
担任の授業終了を告げる声で、俺はハッと目を開けた。
天井隅のスピーカーから、授業時間終了を知らせるチャイムが鳴り響き、担任が「遅くまで残ってないで、さっさと帰れよー」と言いながら、教室のドアを抜けていく。
(……まさか、俺は戻ってきたのか?)
俺が鏑木の死体を見て、親父さんを殴り殺したのは、ついさっきのことのはずだった。
血の一滴もついていない白くきれいな制服。そしてガヤガヤと騒がしく、やや蒸し暑い教室。この何度も体験した、もはや見慣れたと言っても過言でないこの光景に、戻ったことを確信する。
心臓はまだバクバクと激しく脈打ち、手がまだわずかに震えている。親父さんを殴り続けた手が、まだ麻痺しているかのようだ。
俺は痛覚を確かめるように、手のひらに爪を立てるようにして手を握り込んだ。
(なぜだ? なぜ今回は3月4日を待たずにタイムリープしたんだ)
早すぎる鏑木の死。
やはり俺自身が鏑木の死を認識することが、タイムリープの鍵なのか。それならば、なぜあのタイミングだったのだろうか。
(鏑木の死体を見た瞬間、もしくは親父さんを殴り殺すところで、もう次のリープになってもおかしくないのに)
誰かの死が引き金であれば、そのどちらかでよかったはず。
(――もしかして、俺、あの時死んだのか?)
本来の基準点である3月4日に到達できず俺が死んでしまったから、だからあの時リープが発動したのだとしたら。
その可能性は大いに考えられる。
あの時、多分背後から殴られて気を失い、そのまま失血死か、意識が戻ることなく殺されたか。
彼らはいかにもな感じで場慣れしているように感じた。
鏑木の親父さんに、呼ばれて来たように見えた。債権者なのかヤクザなのかは知らないが、あの現場にいた俺は、よほど厄介者だったに違いない。
そしてまさか、バーのマスターまで。
まさかマスターまで、あっち側の人間だったとは。
この世界に頼れる大人など、いなかったことを俺は知った。
(つか、なんであの日なんだよ。あんなに早く死んじゃったのは、やっぱり俺のせいなのかよ?)
俺がウリのことを知ってしまったから。俺が鏑木のことを好きだと言ってしまったから。だから鏑木の死を早めたのか。
「どうしたんだよ木嶋ー。体調悪いのか? 顔色悪いぞ」
「あ、いや、大丈夫……」
近くでワイワイ話していたクラスメイトたちが、話しかけてくる。
さっきまでの死と暴力という異様な世界から、急に和やかな世界に投げ込まれた俺は、まだこの雰囲気に馴染めておらず、いきなり声をかけられてドギマギした。
「今日、俺らこれからお好み焼き食いに行くんだけどさー。木嶋も来ねー?」
「悪い。俺、ちょっと今日は都合悪いから」
「んーそっか、残念! また今度行こうぜ」
彼らにまたなと手を振ると、俺はおもむろにリュックを持って立ち上がり、そしていつものように、あの旧校舎の方へ向かう。
急がなくてもいい。
あそこに行けば鏑木がいる。
またいつものように、俺のことを知らない鏑木が。
遠くから鏑木の怒声らしき声が聞こえる。
脳裏に、スナックの二階で見た光景が蘇る。
素っ裸でぐちゃぐちゃの布団に転がされていた鏑木。
薄目を開けて、口から泡を吹き、金髪を布団に散らばせたまま動かない鏑木。
嫌な汗が流れ、背筋が冷たくなる。
俺との合宿を楽しみにしていた鏑木。
初日の晩メシは絶対チャーハンなって、嬉しそうにしていた。
鏑木のことを思い出せば出すほど、ゆっくりだった俺の足が早くなる。
鏑木の怒声と、謝る松永の声。
「鏑木!!」
松永を殴ろうと振りかざした手を掴まれ、ギョッとして振り返った鏑木を、俺は力一杯抱きしめた。
(鏑木! 俺、帰って来たぞ!)
腕の中で暴れる鏑木のことを、自分の心が落ち着きを取り戻すまで、抱きしめ続けた。
「な、話があるんだ、鏑木! 待ってくれって」
「…………」
さんざん抱きしめた後、俺の腕から逃れた鏑木は、俺の顎を一発殴ると、走って俺から逃げ出した。
前回までなら、ここからいつものパターンで、追いかけっこをしてバーのマスターやおっさん連中と知り合い、しばらく後に鏑木と仲良くなるという流れになるのだが、マスターが奴らの仲間と知った以上、そのルートは辿りたくなかった。
正直、今の俺は素直に彼らと話ができる状態ではない。情報を得るためマスターと話をするにしても、少し時間を置き、冷静なときにするべきだ。
だから今回俺は、真っ向勝負で鏑木と話をすることにした。
もう最初から話をする。全部話す。最初は、信じてもらえなくてもいい。友達になれなくてもいい。鏑木が生きてくれるなら、俺はそれでいい。
そういうわけで、俺は今、走って街中を逃げる鏑木を追いかけながら、必死で声をかけ続けている。
鏑木は鏑木で、かなり頑張って俺から逃げ回っているが、それももうそろそろ限界に近いはず。
こう言っちゃなんだが、なんせ俺のほうが持久力もあるし、足も長い。
追い詰めるようにして鏑木が最後に逃げ込んだのは、駅前の裏路地にある小さな公園で、俺は滑り台に疲れ果てて倒れ込んだ鏑木の腕を、逃すまいとしっかりと掴んだ。
担任の授業終了を告げる声で、俺はハッと目を開けた。
天井隅のスピーカーから、授業時間終了を知らせるチャイムが鳴り響き、担任が「遅くまで残ってないで、さっさと帰れよー」と言いながら、教室のドアを抜けていく。
(……まさか、俺は戻ってきたのか?)
俺が鏑木の死体を見て、親父さんを殴り殺したのは、ついさっきのことのはずだった。
血の一滴もついていない白くきれいな制服。そしてガヤガヤと騒がしく、やや蒸し暑い教室。この何度も体験した、もはや見慣れたと言っても過言でないこの光景に、戻ったことを確信する。
心臓はまだバクバクと激しく脈打ち、手がまだわずかに震えている。親父さんを殴り続けた手が、まだ麻痺しているかのようだ。
俺は痛覚を確かめるように、手のひらに爪を立てるようにして手を握り込んだ。
(なぜだ? なぜ今回は3月4日を待たずにタイムリープしたんだ)
早すぎる鏑木の死。
やはり俺自身が鏑木の死を認識することが、タイムリープの鍵なのか。それならば、なぜあのタイミングだったのだろうか。
(鏑木の死体を見た瞬間、もしくは親父さんを殴り殺すところで、もう次のリープになってもおかしくないのに)
誰かの死が引き金であれば、そのどちらかでよかったはず。
(――もしかして、俺、あの時死んだのか?)
本来の基準点である3月4日に到達できず俺が死んでしまったから、だからあの時リープが発動したのだとしたら。
その可能性は大いに考えられる。
あの時、多分背後から殴られて気を失い、そのまま失血死か、意識が戻ることなく殺されたか。
彼らはいかにもな感じで場慣れしているように感じた。
鏑木の親父さんに、呼ばれて来たように見えた。債権者なのかヤクザなのかは知らないが、あの現場にいた俺は、よほど厄介者だったに違いない。
そしてまさか、バーのマスターまで。
まさかマスターまで、あっち側の人間だったとは。
この世界に頼れる大人など、いなかったことを俺は知った。
(つか、なんであの日なんだよ。あんなに早く死んじゃったのは、やっぱり俺のせいなのかよ?)
俺がウリのことを知ってしまったから。俺が鏑木のことを好きだと言ってしまったから。だから鏑木の死を早めたのか。
「どうしたんだよ木嶋ー。体調悪いのか? 顔色悪いぞ」
「あ、いや、大丈夫……」
近くでワイワイ話していたクラスメイトたちが、話しかけてくる。
さっきまでの死と暴力という異様な世界から、急に和やかな世界に投げ込まれた俺は、まだこの雰囲気に馴染めておらず、いきなり声をかけられてドギマギした。
「今日、俺らこれからお好み焼き食いに行くんだけどさー。木嶋も来ねー?」
「悪い。俺、ちょっと今日は都合悪いから」
「んーそっか、残念! また今度行こうぜ」
彼らにまたなと手を振ると、俺はおもむろにリュックを持って立ち上がり、そしていつものように、あの旧校舎の方へ向かう。
急がなくてもいい。
あそこに行けば鏑木がいる。
またいつものように、俺のことを知らない鏑木が。
遠くから鏑木の怒声らしき声が聞こえる。
脳裏に、スナックの二階で見た光景が蘇る。
素っ裸でぐちゃぐちゃの布団に転がされていた鏑木。
薄目を開けて、口から泡を吹き、金髪を布団に散らばせたまま動かない鏑木。
嫌な汗が流れ、背筋が冷たくなる。
俺との合宿を楽しみにしていた鏑木。
初日の晩メシは絶対チャーハンなって、嬉しそうにしていた。
鏑木のことを思い出せば出すほど、ゆっくりだった俺の足が早くなる。
鏑木の怒声と、謝る松永の声。
「鏑木!!」
松永を殴ろうと振りかざした手を掴まれ、ギョッとして振り返った鏑木を、俺は力一杯抱きしめた。
(鏑木! 俺、帰って来たぞ!)
腕の中で暴れる鏑木のことを、自分の心が落ち着きを取り戻すまで、抱きしめ続けた。
「な、話があるんだ、鏑木! 待ってくれって」
「…………」
さんざん抱きしめた後、俺の腕から逃れた鏑木は、俺の顎を一発殴ると、走って俺から逃げ出した。
前回までなら、ここからいつものパターンで、追いかけっこをしてバーのマスターやおっさん連中と知り合い、しばらく後に鏑木と仲良くなるという流れになるのだが、マスターが奴らの仲間と知った以上、そのルートは辿りたくなかった。
正直、今の俺は素直に彼らと話ができる状態ではない。情報を得るためマスターと話をするにしても、少し時間を置き、冷静なときにするべきだ。
だから今回俺は、真っ向勝負で鏑木と話をすることにした。
もう最初から話をする。全部話す。最初は、信じてもらえなくてもいい。友達になれなくてもいい。鏑木が生きてくれるなら、俺はそれでいい。
そういうわけで、俺は今、走って街中を逃げる鏑木を追いかけながら、必死で声をかけ続けている。
鏑木は鏑木で、かなり頑張って俺から逃げ回っているが、それももうそろそろ限界に近いはず。
こう言っちゃなんだが、なんせ俺のほうが持久力もあるし、足も長い。
追い詰めるようにして鏑木が最後に逃げ込んだのは、駅前の裏路地にある小さな公園で、俺は滑り台に疲れ果てて倒れ込んだ鏑木の腕を、逃すまいとしっかりと掴んだ。
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