バッドエンド・タイムリープ!

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3回目のリープ

41.迷い、そして見つからない打開策2

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「鏑木!!」 

 鏑木は仏頂面で、激安タナカマートの前で座り込んで待っていた。待つ間寒かったのか、着ていたジャンパーの裾に両膝を突っ込んで、だるまみたいになっている。 

「おせーし!」 
「ごめん、まさか待っててくれるなんて思ってなくて」 
「つか、休むなら言えよな! いつもは俺にどこにいんだってうるせーのにさ」 

 そう言いながら立ち上がり、だるまから人の形に戻った。 

「本当、ごめんて。ちょっと急用ができたんだ」 
「ふーん。昨日あんなことがあったから、俺と会いたくねーんだと思った」 
「いやいやいや、来るってわかってたら、バイト休むこと言ってたし!」 
「俺のこと、嫌になってねーの?」 
「なってないって」 
「そっか。ならいーや」 

 へへと鏑木が照れたように笑った。 
 やっぱかわいいなと、その笑顔を見て思う。反面、田崎のような奴らが、鏑木を弄んでいることを思うと虫唾が走る。 ……だが田崎の言ったように、俺がどうこうできる問題ではなく、かと言ってこのまま放置していて大丈夫とは思えない。 

 今回の一件は、一応収穫はあったが、また振り出しに戻った気分だ。 

「なー、飯食った?」 
「あー、さっき」 
「ちぇ、なんだよ。何食ったの」 
「肉。……あー嘘、牛丼的な」 
「うっそ、マジで! なんだよー俺寒い中一人でずっと外で待ってたのにー。俺もくいてーし」 

 危なかったー。肉食ったなんか言ったら、絶対怪しまれる。
 ぶつぶつ文句を言う鏑木の指先を触ると、かなり冷たくなっている。 

「な、俺んちくる? すげー冷えてるし、風呂、沸かしてやる。泊まってってもいいし。メシも作ってやる」 
「なんかごまかそうとしてねー?」 
「してねーって。冷えてるから、温まったほうがいいかなって思って。なに食いたい?」 
「ふーん。じゃ、チャーハン。肉入ったやつ! 餃子も。あとアイスも食いてー」 
「こんなに冷えてんのに?」 

冷たくなった手を握ると、手のひらがヒヤッとする。そしてその手を、鏑木も握り返してくる。 

「帰ったらエアコンで暖かくなんだろ」 
「そうだけどさ。じゃあタナカマートで、肉と餃子とアイスを買って帰るか」 
「やった! 木嶋の奢りなー」 
「今日だけだぞ」 

 鏑木は上機嫌で俺の腕をがっちり掴んで、激安タナカマートの入口に引っ張った。 

 こんなふうに、昨日の出来事などまるでなかったかのように振る舞っていた鏑木だったが、ウリのことについてやはり俺に知られると面倒だと思ったのか、この日以降鏑木は俺の前でスマホの通知を見なくなった。 
 おかげで鏑木がいつウリをやっているのか、まったく分からなくなってしまった。 

 焦るだけの日々が過ぎ、しかし何事もなくクリスマス、年末年始を迎え、そして2月が訪れた。  
 だんだんとあの日が近づいてくるというのに、結局田崎と会った以降、何の情報を得られていない。 

 しかしかといって、状況が悪化しているということでもない。 
 鏑木は相変わらずで、前の時間軸と同様に自殺するような様子は欠片もなく、本当にいつも通りの鏑木のままだ。 

「木嶋ってさ、めちゃ勉強できるよな」 
「あー期末、成績良かったからか?」 
「ヤマもばっちり当たってたし、俺まで成績良かったからなー。3月の学年末も木嶋がいれば安心だなー」 

 嬉しそうな鏑木に、俺は内心苦笑した。 
 4回目の期末ともなれば、さすがの俺もテストの内容を覚えていた。だからテストでいい点数をとれたのだが、3月の期末は一度も受けたことがない。もしその日が訪れても、鏑木の期待には応えられないだろうな。 

「テストが近くなったら、また俺んちで勉強すっか」 
「勉強すんの面倒くせーけど、留年したくねーしなー」 

 休みがちの鏑木は、今のところ進級ギリギリらしい。テストもちゃんと受けて及第点を取らないと正直進級は厳しいと、この前担任に言われたとボヤいていた。 

「一緒に3年生にならねーと、木嶋と卒業一緒にできねーもんな」 
「……そーだな。頑張ろうぜ」 
「だなー」 

 2人揃って3年生になる。 

 とても簡単なことなのに、俺にとっては学年末のテストでクラスのトップになるよりも難しい。 

(鏑木の死につながる原因を排除できないなら、死ねない状況を作るしかない) 

 今日が2月3日。母親からメールがあった2月25日は、まだ鏑木と連絡が取れていた。鏑木からの連絡が途絶えたのがその翌々日の2月27日。この日は土曜で、俺がバイトの合間をぬって鏑木に会いに行ったから、よく覚えてる。 

 鏑木が死ぬ一週間前まで、俺は結構余裕があった。 

 鏑木は風邪で学校を休んだけど、鏑木が死ぬはずの3月3日にはまだ日があったし、まだ何とかなるなんて、焦りつつも余裕ぶっこいていた。 

 それが覆されたのが、鏑木の死ぬ4日前である2月27日。 
 鏑木が死ぬだろうと思われる3月3日だけなんとかできればいいと思い込み、結果俺は鏑木を失くしてしまった。 

(鏑木がいなくなった日、あのスナックでは一体何があったんだ) 

 何か事件があって、鏑木はそれに巻き込まれたとしか思えない。 
 何とか2月27日までに、鏑木をあのスナックから一時的に避難させるしかない。 

 それしかない。 

 今度は鏑木が俺と連絡が取れなくなる一週間前に、何とか手を打とう。 
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