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3回目のリープ
39.田崎の話2
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「だからさ、昨日あの子が君を見て動揺してたのがすごく新鮮でね。おやーっと思ってさ。こうやって君の話を聞いてやろうって気になったってワケ。で、君は結局のところ、本当は俺に何を聞きたいんだい? 俺の性癖なんか興味ないでしょ?」
「俺は――」
俺は鏑木を救いたい。でも田崎にどう言えばいいか。
「君たちは付き合ってるの?」
「え、あ、……その、いえ……」
「あれ、そうなんだ。ハルイチがあんな表情するから、てっきり付き合ってるんだと」
……実は俺の告白の後、鏑木からはなんのアクションもない。
友達以上ではある(と思ってる)けど、恋人ではない。付き合っているという実感は、今のところ全くない。
「でも君は、ハルイチのことが好きだよね? そしてウリをやめさせたい。だからこうして、わざわざこんな怪しいおじさんと高い飯を食べてる。そうでしょ?」
「……はい」
「でもまあ、よく未成年を買うおじさんにのこのこ付いてきたよね。君も俺に何かされるって思わなかった? もしかすると、こんな焼肉屋じゃなく、ホテルややばそうなビルの一室に連れ込まれる可能性だってあったよね。君が俺についていったと知ると、ハルイチが怒るんじゃないのかな」
「……鏑木を買うのやめてくれと言ったら、やめてくれますか」
田崎は椅子の背にふんぞり返るようにして凭れながら、おかしそうに声をあげて笑った。
「一つ言っておく。俺がもし彼を買うのをやめても、それは顧客を一人失うだけで、なんの解決にもならない」
「でも俺は、鏑木にウリをやめさせたいんです」
「彼が今、いくら稼いでいるか知ってる? あの金額を他でまかなえるようなバイトは、ウリよりもヤバい仕事しかない。逆に言えば、ウリで許してもらえてよかったよねってことだ。まあ、あの子の家の借金が総額いくらあるのか俺は知らないけど、これだけ強気な金額でもまだ返せないってことは、相当な額だろうね」
「返せないほどの金額……そんなに」
田崎は金額をボカして言わないが、鏑木を買うにはかなりな金を出す必要があるみたいだ。それでも払いきれない借金とは。
「まあ闇金みたいなところから借りたら、利息だけですごいことになるからね。ということは、あの子を斡旋してるところは、堅気じゃないってことは分かるよね。だから俺がどうこうできる問題でもなく、彼を助けたくてもどうしようもできない。彼を解放したいなら、まずはその借金をどうにかしなければいけない」
闇金って、ドラマで見たことがある。
十日に一割とか利息がすごすぎて、返済しても元本が減らないってやつだろ。
本当にそんなところから金を借りるようなヤツがいるのか。漫画の中の世界だとばかり思ってた。
「では、もし君が俺に金を借りて代わりに返済する、という方法をとったとしよう。俺もそれなりに金を持っているからね。出せないわけじゃない。じゃあ君はどうやって俺に金を返す? 君に金を貸して、俺はなんの得がある?」
得……。
得と言われても何もない。だけど――。
「……俺はあんたが未成年に淫行を働いていることを知ってる。それを警察に言わないでおくことができる」
「ははっなるほど。俺を脅すのか。脅して彼を買うことをやめさせて、さらに俺から金をむしり取ろうって算段ね。ははは! 面白いね、君。でも残念ながら、俺が彼を買っている証拠はどこにもない」
「……! でもホテルや街に防犯カメラが……」
ホテルだけじゃない。今は町中に防犯カメラがある。ホテルに入っていく二人の姿くらいは映っているはずだ。
「本当に君は若いねー。あのホテルは、暴力団の持ち物だよ。だからハルイチを指名するときは、いつもあそこを利用するよう指示される。それにあの辺一帯、ほとんどが暴力団関連の持ち物で、いろんなところに奴らは絡んでいて、証拠など出やしない。それにもし仮に俺が捕まったとしても、俺はハルイチと真剣な付き合いをしていると言い張ることもできる。あと本当の年齢を知らなかったとかね、そんな言い訳もできる」
「……そんな!」
「金もハルイチに直接支払っている訳じゃない。俺が直接出しているのはスナックの支払いだけで、それ以外は斡旋している業者にだ。そしてスナックで接客をするハルイチは、家業を手伝っているだけ。どこにも俺がハルイチを買っている証拠がない」
田崎はスナックでの飲み食いに金を払っているだけで、鏑木に直接金を渡していないから、売春の証拠が残らないということか。
ではその斡旋業者が摘発されしまえば……!
「ウリを斡旋している業者っていうのは……」
「それについて俺は言えない。というか、まあ、さっきも言ったように堅気ではない奴ら、すなわち暴力団が絡んでる。もし知ったとしても君がどうこうできる話じゃない。このことを警察に密告するとか、そんな物騒な考えは捨てろ。あとが怖い。それにハルイチまで巻き込む。君はハルイチが警察に連行される姿を見たいか?」
「……いえ」
「まあそうだろうな。他に方法があるとすれば、そうだな、君もそこで売る側で働いて、一緒に借金を返す。という手もある」
「売る? 俺が……?」
田崎はなんともいえない嫌な感じの笑いを浮かべた。
「俺は――」
俺は鏑木を救いたい。でも田崎にどう言えばいいか。
「君たちは付き合ってるの?」
「え、あ、……その、いえ……」
「あれ、そうなんだ。ハルイチがあんな表情するから、てっきり付き合ってるんだと」
……実は俺の告白の後、鏑木からはなんのアクションもない。
友達以上ではある(と思ってる)けど、恋人ではない。付き合っているという実感は、今のところ全くない。
「でも君は、ハルイチのことが好きだよね? そしてウリをやめさせたい。だからこうして、わざわざこんな怪しいおじさんと高い飯を食べてる。そうでしょ?」
「……はい」
「でもまあ、よく未成年を買うおじさんにのこのこ付いてきたよね。君も俺に何かされるって思わなかった? もしかすると、こんな焼肉屋じゃなく、ホテルややばそうなビルの一室に連れ込まれる可能性だってあったよね。君が俺についていったと知ると、ハルイチが怒るんじゃないのかな」
「……鏑木を買うのやめてくれと言ったら、やめてくれますか」
田崎は椅子の背にふんぞり返るようにして凭れながら、おかしそうに声をあげて笑った。
「一つ言っておく。俺がもし彼を買うのをやめても、それは顧客を一人失うだけで、なんの解決にもならない」
「でも俺は、鏑木にウリをやめさせたいんです」
「彼が今、いくら稼いでいるか知ってる? あの金額を他でまかなえるようなバイトは、ウリよりもヤバい仕事しかない。逆に言えば、ウリで許してもらえてよかったよねってことだ。まあ、あの子の家の借金が総額いくらあるのか俺は知らないけど、これだけ強気な金額でもまだ返せないってことは、相当な額だろうね」
「返せないほどの金額……そんなに」
田崎は金額をボカして言わないが、鏑木を買うにはかなりな金を出す必要があるみたいだ。それでも払いきれない借金とは。
「まあ闇金みたいなところから借りたら、利息だけですごいことになるからね。ということは、あの子を斡旋してるところは、堅気じゃないってことは分かるよね。だから俺がどうこうできる問題でもなく、彼を助けたくてもどうしようもできない。彼を解放したいなら、まずはその借金をどうにかしなければいけない」
闇金って、ドラマで見たことがある。
十日に一割とか利息がすごすぎて、返済しても元本が減らないってやつだろ。
本当にそんなところから金を借りるようなヤツがいるのか。漫画の中の世界だとばかり思ってた。
「では、もし君が俺に金を借りて代わりに返済する、という方法をとったとしよう。俺もそれなりに金を持っているからね。出せないわけじゃない。じゃあ君はどうやって俺に金を返す? 君に金を貸して、俺はなんの得がある?」
得……。
得と言われても何もない。だけど――。
「……俺はあんたが未成年に淫行を働いていることを知ってる。それを警察に言わないでおくことができる」
「ははっなるほど。俺を脅すのか。脅して彼を買うことをやめさせて、さらに俺から金をむしり取ろうって算段ね。ははは! 面白いね、君。でも残念ながら、俺が彼を買っている証拠はどこにもない」
「……! でもホテルや街に防犯カメラが……」
ホテルだけじゃない。今は町中に防犯カメラがある。ホテルに入っていく二人の姿くらいは映っているはずだ。
「本当に君は若いねー。あのホテルは、暴力団の持ち物だよ。だからハルイチを指名するときは、いつもあそこを利用するよう指示される。それにあの辺一帯、ほとんどが暴力団関連の持ち物で、いろんなところに奴らは絡んでいて、証拠など出やしない。それにもし仮に俺が捕まったとしても、俺はハルイチと真剣な付き合いをしていると言い張ることもできる。あと本当の年齢を知らなかったとかね、そんな言い訳もできる」
「……そんな!」
「金もハルイチに直接支払っている訳じゃない。俺が直接出しているのはスナックの支払いだけで、それ以外は斡旋している業者にだ。そしてスナックで接客をするハルイチは、家業を手伝っているだけ。どこにも俺がハルイチを買っている証拠がない」
田崎はスナックでの飲み食いに金を払っているだけで、鏑木に直接金を渡していないから、売春の証拠が残らないということか。
ではその斡旋業者が摘発されしまえば……!
「ウリを斡旋している業者っていうのは……」
「それについて俺は言えない。というか、まあ、さっきも言ったように堅気ではない奴ら、すなわち暴力団が絡んでる。もし知ったとしても君がどうこうできる話じゃない。このことを警察に密告するとか、そんな物騒な考えは捨てろ。あとが怖い。それにハルイチまで巻き込む。君はハルイチが警察に連行される姿を見たいか?」
「……いえ」
「まあそうだろうな。他に方法があるとすれば、そうだな、君もそこで売る側で働いて、一緒に借金を返す。という手もある」
「売る? 俺が……?」
田崎はなんともいえない嫌な感じの笑いを浮かべた。
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