バッドエンド・タイムリープ!

Bee

文字の大きさ
上 下
33 / 69
3回目のリープ

33.告白2

しおりを挟む
「ご近所さんから、木嶋くんとこがうるさいって苦情がきてるよ。本当に大丈夫?」 

 どうやらさっき言い争いをして、鏑木を壁に押し付けたときの音が思いのほか大きかったみたいで、アパート中に音が響き渡っていたらしい。大家さんは、俺の後ろで爆笑している鏑木を見るとホッとしたような顔になり、『お友達と遊ぶのもいいけど、静かにね。ここ響くから』と、それだけ優しく言って帰っていった。 

「むちゃくちゃ面白かったし、今の~~! 『はひっ』だってよはひ!」 
「うっせーなー、仕方ねーだろ! また騒いでると大家さん来ちまうぞ」 
「つーかさ、お前、俺に壁ドンって……ぷぷっ」 
「はぁ!? 壁ドン!? ……あ」 

 言われて初めて気がついた。さっきのあれがいわゆる壁ドンというポーズだということに。 

「あんなのマジでやる奴いるんだって、俺びっくりしたわ~~~!」 

 後ろで鏑木が文字通りゲラゲラと腹を抱えて笑っている。 
 説得して告白して、言われるがまま下手くそなキスまでやって、俺としては大真面目だったのに、こう大笑いされるとさらに恥ずかしくなる。 

「うっせーよ! もういいだろ!」 
「ひひっ、だってさ~~」 

 くくくと笑い転げながら、鏑木は壁に背をつけてズルズルと台所の床に座り込んだ。 

「俺さ~、初めて人から好きだって言われちゃったしさー」 
「――へ」 
「俺、人から告白されたの初めて」 
「そ、そうなのか」 

 ……ああいう仕事してるからってわけじゃないけど、言われ慣れていると勝手に思ってた。 

「ん。つーかさー、俺、母親は小さい頃に勝手にどっかいっちゃっていないし、親父はあんな感じだし、体目当ての変なやつらしか周りにいなかったし。やっとできた友達が木嶋だったんだよなー」 

 そしてその友達から告白されてしまったと。 
 考えてみれば、俺は前の時間軸で鏑木と過ごした時間もある。あれがあったからこそ、鏑木への恋心が生まれたわけで。 
 今の鏑木からしてみれば、急に友達になったやつに執着された挙句、好きだと告白されたってことなんだよな。 

「……なんか、すまん。鏑木」 
「いやー、今日でサヨナラのつもりだったのに、どうしよーって感じになったわ」 

 ヒャハハと鏑木は冗談めかして笑うと、小さくため息をし、そのまま口をつぐんだ。 
 さっきまで賑やかだった室内が、急に静かになる。 

 俺は鏑木のそばにしゃがみ、顔を覗き込んだ。 
 鏑木はぼんやりと視線を床に向けたまま、俺のほうを見ない。 

 たぶん困ってんだろうと思う。 

 でも告白した俺のことをキモいとか思ってるなら、鏑木のことだ、はっきりと『キモい』と言い放って、さっさとここから出ていってるだろう。 
 こうして悩むってことは、気持ちが揺れてる証拠だ。……と、俺は信じたい。 

「――なあ、今日さ、うち泊まってくか」 
「え」 

 やっと俺の顔を見た。 

「もう遅いしさ、鏑木の親父さんが許してくれるなら、今日泊まっていけよ。俺がメシ作ってやっから」 
「いや、でも俺――」 

 サヨナラを言いに来たのにと、鏑木の瞳が揺れている。 

「もうさ、いいじゃん。お前がウリやってること知ったからって、俺は何も変わんねーよ」 
「キスしたじゃん。それでも変わんねーの?」 
「…………」 
「俺、まだウリ続けるぜ? お前俺のことが好きなんだろ? 俺がお前以外の男と寝てんのに、それでも一緒にいれるのか?」 
「それは――」 

 今はまだあの写真と絵を見たくらいで、正直鏑木が男と寝ているなんて実感がない。 
 きっとこれから現実を目の前に突きつけられるたびに、俺と鏑木の仲はこじれていくのかもしれない。 
 それでも俺は、鏑木と一緒にいたい。そして鏑木が死ぬあの日を回避して、共に未来を歩みたい。 

「……正直にいえば、鏑木がウリをするのは嫌だ。お前が他の男といるところを見てしまったら、正気でいる自信はない。でも、それでも俺は鏑木と離れたくない」 
「……木嶋――」 
「ん?」 
「お前……よくそういうセリフ平気で言えるな」 
「お、おま……っ」 

 俺が怒ってみせると鏑木はプッと吹き出した。 
 そしてひとしきり笑った後の鏑木は、やけにスッキリとしてみえた。 

「んじゃ、今日は泊まろっかなー。つか木嶋、今日はエッチなしだからな。期待してんじゃねーぞ」 
「な……! 俺だって、期待してねーよ! つか、今日まだ晩メシ食べてねーだろ。俺も食ってねーから、なにか作ってやるよ」 
「マジ!? やり~~~!」 
「焼きそばでいいか?」 
「焼きそば作れんの? すげーな」 
「まあな」 

 ふふんと威張ってみせたが、つか、焼きそばなんかフライパンで麺とソースを炒めるだけだけどな。 

「手作りのメシすげー嬉しい! 木嶋の焼きそば、めっちゃ楽しみ~!」 

 子供のようにはしゃぐ鏑木の様子を見て、俺ははやや浮かれ気分で、冷蔵庫から焼きそばの麺を取り出した。 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...