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3回目のリープ
33.告白2
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「ご近所さんから、木嶋くんとこがうるさいって苦情がきてるよ。本当に大丈夫?」
どうやらさっき言い争いをして、鏑木を壁に押し付けたときの音が思いのほか大きかったみたいで、アパート中に音が響き渡っていたらしい。大家さんは、俺の後ろで爆笑している鏑木を見るとホッとしたような顔になり、『お友達と遊ぶのもいいけど、静かにね。ここ響くから』と、それだけ優しく言って帰っていった。
「むちゃくちゃ面白かったし、今の~~! 『はひっ』だってよはひ!」
「うっせーなー、仕方ねーだろ! また騒いでると大家さん来ちまうぞ」
「つーかさ、お前、俺に壁ドンって……ぷぷっ」
「はぁ!? 壁ドン!? ……あ」
言われて初めて気がついた。さっきのあれがいわゆる壁ドンというポーズだということに。
「あんなのマジでやる奴いるんだって、俺びっくりしたわ~~~!」
後ろで鏑木が文字通りゲラゲラと腹を抱えて笑っている。
説得して告白して、言われるがまま下手くそなキスまでやって、俺としては大真面目だったのに、こう大笑いされるとさらに恥ずかしくなる。
「うっせーよ! もういいだろ!」
「ひひっ、だってさ~~」
くくくと笑い転げながら、鏑木は壁に背をつけてズルズルと台所の床に座り込んだ。
「俺さ~、初めて人から好きだって言われちゃったしさー」
「――へ」
「俺、人から告白されたの初めて」
「そ、そうなのか」
……ああいう仕事してるからってわけじゃないけど、言われ慣れていると勝手に思ってた。
「ん。つーかさー、俺、母親は小さい頃に勝手にどっかいっちゃっていないし、親父はあんな感じだし、体目当ての変なやつらしか周りにいなかったし。やっとできた友達が木嶋だったんだよなー」
そしてその友達から告白されてしまったと。
考えてみれば、俺は前の時間軸で鏑木と過ごした時間もある。あれがあったからこそ、鏑木への恋心が生まれたわけで。
今の鏑木からしてみれば、急に友達になったやつに執着された挙句、好きだと告白されたってことなんだよな。
「……なんか、すまん。鏑木」
「いやー、今日でサヨナラのつもりだったのに、どうしよーって感じになったわ」
ヒャハハと鏑木は冗談めかして笑うと、小さくため息をし、そのまま口をつぐんだ。
さっきまで賑やかだった室内が、急に静かになる。
俺は鏑木のそばにしゃがみ、顔を覗き込んだ。
鏑木はぼんやりと視線を床に向けたまま、俺のほうを見ない。
たぶん困ってんだろうと思う。
でも告白した俺のことをキモいとか思ってるなら、鏑木のことだ、はっきりと『キモい』と言い放って、さっさとここから出ていってるだろう。
こうして悩むってことは、気持ちが揺れてる証拠だ。……と、俺は信じたい。
「――なあ、今日さ、うち泊まってくか」
「え」
やっと俺の顔を見た。
「もう遅いしさ、鏑木の親父さんが許してくれるなら、今日泊まっていけよ。俺がメシ作ってやっから」
「いや、でも俺――」
サヨナラを言いに来たのにと、鏑木の瞳が揺れている。
「もうさ、いいじゃん。お前がウリやってること知ったからって、俺は何も変わんねーよ」
「キスしたじゃん。それでも変わんねーの?」
「…………」
「俺、まだウリ続けるぜ? お前俺のことが好きなんだろ? 俺がお前以外の男と寝てんのに、それでも一緒にいれるのか?」
「それは――」
今はまだあの写真と絵を見たくらいで、正直鏑木が男と寝ているなんて実感がない。
きっとこれから現実を目の前に突きつけられるたびに、俺と鏑木の仲はこじれていくのかもしれない。
それでも俺は、鏑木と一緒にいたい。そして鏑木が死ぬあの日を回避して、共に未来を歩みたい。
「……正直にいえば、鏑木がウリをするのは嫌だ。お前が他の男といるところを見てしまったら、正気でいる自信はない。でも、それでも俺は鏑木と離れたくない」
「……木嶋――」
「ん?」
「お前……よくそういうセリフ平気で言えるな」
「お、おま……っ」
俺が怒ってみせると鏑木はプッと吹き出した。
そしてひとしきり笑った後の鏑木は、やけにスッキリとしてみえた。
「んじゃ、今日は泊まろっかなー。つか木嶋、今日はエッチなしだからな。期待してんじゃねーぞ」
「な……! 俺だって、期待してねーよ! つか、今日まだ晩メシ食べてねーだろ。俺も食ってねーから、なにか作ってやるよ」
「マジ!? やり~~~!」
「焼きそばでいいか?」
「焼きそば作れんの? すげーな」
「まあな」
ふふんと威張ってみせたが、つか、焼きそばなんかフライパンで麺とソースを炒めるだけだけどな。
「手作りのメシすげー嬉しい! 木嶋の焼きそば、めっちゃ楽しみ~!」
子供のようにはしゃぐ鏑木の様子を見て、俺ははやや浮かれ気分で、冷蔵庫から焼きそばの麺を取り出した。
どうやらさっき言い争いをして、鏑木を壁に押し付けたときの音が思いのほか大きかったみたいで、アパート中に音が響き渡っていたらしい。大家さんは、俺の後ろで爆笑している鏑木を見るとホッとしたような顔になり、『お友達と遊ぶのもいいけど、静かにね。ここ響くから』と、それだけ優しく言って帰っていった。
「むちゃくちゃ面白かったし、今の~~! 『はひっ』だってよはひ!」
「うっせーなー、仕方ねーだろ! また騒いでると大家さん来ちまうぞ」
「つーかさ、お前、俺に壁ドンって……ぷぷっ」
「はぁ!? 壁ドン!? ……あ」
言われて初めて気がついた。さっきのあれがいわゆる壁ドンというポーズだということに。
「あんなのマジでやる奴いるんだって、俺びっくりしたわ~~~!」
後ろで鏑木が文字通りゲラゲラと腹を抱えて笑っている。
説得して告白して、言われるがまま下手くそなキスまでやって、俺としては大真面目だったのに、こう大笑いされるとさらに恥ずかしくなる。
「うっせーよ! もういいだろ!」
「ひひっ、だってさ~~」
くくくと笑い転げながら、鏑木は壁に背をつけてズルズルと台所の床に座り込んだ。
「俺さ~、初めて人から好きだって言われちゃったしさー」
「――へ」
「俺、人から告白されたの初めて」
「そ、そうなのか」
……ああいう仕事してるからってわけじゃないけど、言われ慣れていると勝手に思ってた。
「ん。つーかさー、俺、母親は小さい頃に勝手にどっかいっちゃっていないし、親父はあんな感じだし、体目当ての変なやつらしか周りにいなかったし。やっとできた友達が木嶋だったんだよなー」
そしてその友達から告白されてしまったと。
考えてみれば、俺は前の時間軸で鏑木と過ごした時間もある。あれがあったからこそ、鏑木への恋心が生まれたわけで。
今の鏑木からしてみれば、急に友達になったやつに執着された挙句、好きだと告白されたってことなんだよな。
「……なんか、すまん。鏑木」
「いやー、今日でサヨナラのつもりだったのに、どうしよーって感じになったわ」
ヒャハハと鏑木は冗談めかして笑うと、小さくため息をし、そのまま口をつぐんだ。
さっきまで賑やかだった室内が、急に静かになる。
俺は鏑木のそばにしゃがみ、顔を覗き込んだ。
鏑木はぼんやりと視線を床に向けたまま、俺のほうを見ない。
たぶん困ってんだろうと思う。
でも告白した俺のことをキモいとか思ってるなら、鏑木のことだ、はっきりと『キモい』と言い放って、さっさとここから出ていってるだろう。
こうして悩むってことは、気持ちが揺れてる証拠だ。……と、俺は信じたい。
「――なあ、今日さ、うち泊まってくか」
「え」
やっと俺の顔を見た。
「もう遅いしさ、鏑木の親父さんが許してくれるなら、今日泊まっていけよ。俺がメシ作ってやっから」
「いや、でも俺――」
サヨナラを言いに来たのにと、鏑木の瞳が揺れている。
「もうさ、いいじゃん。お前がウリやってること知ったからって、俺は何も変わんねーよ」
「キスしたじゃん。それでも変わんねーの?」
「…………」
「俺、まだウリ続けるぜ? お前俺のことが好きなんだろ? 俺がお前以外の男と寝てんのに、それでも一緒にいれるのか?」
「それは――」
今はまだあの写真と絵を見たくらいで、正直鏑木が男と寝ているなんて実感がない。
きっとこれから現実を目の前に突きつけられるたびに、俺と鏑木の仲はこじれていくのかもしれない。
それでも俺は、鏑木と一緒にいたい。そして鏑木が死ぬあの日を回避して、共に未来を歩みたい。
「……正直にいえば、鏑木がウリをするのは嫌だ。お前が他の男といるところを見てしまったら、正気でいる自信はない。でも、それでも俺は鏑木と離れたくない」
「……木嶋――」
「ん?」
「お前……よくそういうセリフ平気で言えるな」
「お、おま……っ」
俺が怒ってみせると鏑木はプッと吹き出した。
そしてひとしきり笑った後の鏑木は、やけにスッキリとしてみえた。
「んじゃ、今日は泊まろっかなー。つか木嶋、今日はエッチなしだからな。期待してんじゃねーぞ」
「な……! 俺だって、期待してねーよ! つか、今日まだ晩メシ食べてねーだろ。俺も食ってねーから、なにか作ってやるよ」
「マジ!? やり~~~!」
「焼きそばでいいか?」
「焼きそば作れんの? すげーな」
「まあな」
ふふんと威張ってみせたが、つか、焼きそばなんかフライパンで麺とソースを炒めるだけだけどな。
「手作りのメシすげー嬉しい! 木嶋の焼きそば、めっちゃ楽しみ~!」
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