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3回目のリープ
30.鏑木の秘密1
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「か、鏑木!!」
ドアを開けると、やっぱりそこにいたのは鏑木だった。
鏑木は急にドアが開いたことに驚き、猫みたいに目を見開いたままその場に固まっていた。
「び、びっくりした……」
「ど、どうしたんだ」
「あ…………」
俺の顔を見て戸惑いつつ、一瞬何か言いかけた。
「…………やっぱいい」
「ちょ、ちょっと待てまて!」
何も言わずその場から去ろうとする鏑木を、俺は慌てて捕まえた。
「いいから、部屋上がれ」
こんなところで言い争いもしたくない。とにかく部屋へ入れと促すと、鏑木はひとまず大人しく部屋に入ってくれた。
「……よくうちが分かったな」
「……前、アパートの場所教えてくれてたから」
まだ連れてくるタイミングじゃなかったから、俺はこの時間軸では鏑木をアパートに連れてきてなかったのだ。場所を教えておいて、本当によかった。
(もしかして、仲直りに来てくれたのか?)
自ら来てくれたということは、少し期待してもいいんだろうか。
「……つか、さっきまで風呂、入ってた?」
鏑木が台所でそっぽを向いたまま立ち、気まずそうにそう言った。
「ん? あ、ああ。そこの窓に人影が見えて、鏑木っぽかったから、慌てて出た」
台所の窓を指差すと、鏑木は「ふーん」とそっけなく返事をした。
「よく風呂に入ってたってわかったな」
「お前、上半身裸だし、ここ風呂のにおいするし」
そう指摘され、慌てて着替え用に置いていたTシャツを手に取り、ついでに換気扇もつけた。
そういえばここは、廊下も脱衣所もないから、キッチンに風呂の匂いがだだ漏れなのだ。
「立って話すのもなんだから、隣の部屋入って、どこでもいいから座っててくれ」
着替えながら隣の部屋を指差すと、鏑木は確認するように俺の方をチラッと見てから、「ん」と隣の畳の部屋に入っていった。
(なにか出すもの……。お茶でいいか)
予備のコップを棚から出そうとしたら、手がちょっと震えた。 なんだかやけに緊張していて、一回はーっと深呼吸をする。
予備のコップとさっき使ったコップを一緒にざっと洗うと、冷蔵庫から麦茶を出して、適当に注いだ。それを持って畳の部屋に行くと、鏑木は居心地悪そうに、テーブルの前にちょこんと座っていた。
「麦茶しかなくて、すまん」
「ん」
麦茶をテーブルに置き、鏑木の正面に座ったが、鏑木は何も言わずずっと俯いているままだ。
どうしようか、俺のほうから謝るべきなのか。悩んでいると、ようやく鏑木がおずおずと口を開いた。
「――あのさ、木嶋。さっきは、俺、言いすぎたわ。……ごめん」
「え……、あ、いやー俺のほうこそ……怒らせるようなこと言っちまって……」
「…………」
また沈黙が訪れ、え、何、そこで会話終了なのか? と焦っていたら、下を向いたままだった鏑木が覚悟を決めたように顔を上げた。その表情はひどく真剣で、俺はドキッとした。
「俺、木嶋に言ってないことがある」
「……言ってないこと?」
「松永のこと」
松永とのことは、前回の時間軸で鏑木から聞いてはいた。だがその内容はキモいとかそういった類のことで、鏑木の本心や実際の松永との関係については詳しくは語られなかった。
そもそも前の時間軸では、松永の本性など知るよしもなく、そこまで追求しなかった。
「……今日さ、木嶋。松永から何聞いた?」
「え……」
あの絵と写真のことが頭をよぎった。だが、それを話していいものか迷った。
もしあのショッキングな絵や写真の存在を、鏑木自身把握していなかったら?
俺の口からうまく説明できるか分からない。下手なことを言うと、さらに鏑木を傷つけ、怒らせる事態になりかねない。
言葉を詰まらせる俺を見て、鏑木は小さく息を吐いた。
「俺の絵、見た?」
「……!」
知ってたのか。
「あいつ、勝手に描くとか言ってて……。やっぱ描いてたんだ。キモかったろ」
自虐気味に、鏑木がハハッと笑う。
前の時間軸で、鏑木が何度も何度も、松永のことをキモいキモいと苦虫を噛み潰したように言っていたことを思い出す。
あの時も知ってたんだな。俺、気づかなくてごめん、鏑木。 めちゃくちゃ情けねぇよ。
「どこまで松永に聞いてんのかしんねーけど、俺さ、木嶋にはちゃんと言っとかねーとなって、そう思ってさ」
今度は俺が俯く番だった。
ドアを開けると、やっぱりそこにいたのは鏑木だった。
鏑木は急にドアが開いたことに驚き、猫みたいに目を見開いたままその場に固まっていた。
「び、びっくりした……」
「ど、どうしたんだ」
「あ…………」
俺の顔を見て戸惑いつつ、一瞬何か言いかけた。
「…………やっぱいい」
「ちょ、ちょっと待てまて!」
何も言わずその場から去ろうとする鏑木を、俺は慌てて捕まえた。
「いいから、部屋上がれ」
こんなところで言い争いもしたくない。とにかく部屋へ入れと促すと、鏑木はひとまず大人しく部屋に入ってくれた。
「……よくうちが分かったな」
「……前、アパートの場所教えてくれてたから」
まだ連れてくるタイミングじゃなかったから、俺はこの時間軸では鏑木をアパートに連れてきてなかったのだ。場所を教えておいて、本当によかった。
(もしかして、仲直りに来てくれたのか?)
自ら来てくれたということは、少し期待してもいいんだろうか。
「……つか、さっきまで風呂、入ってた?」
鏑木が台所でそっぽを向いたまま立ち、気まずそうにそう言った。
「ん? あ、ああ。そこの窓に人影が見えて、鏑木っぽかったから、慌てて出た」
台所の窓を指差すと、鏑木は「ふーん」とそっけなく返事をした。
「よく風呂に入ってたってわかったな」
「お前、上半身裸だし、ここ風呂のにおいするし」
そう指摘され、慌てて着替え用に置いていたTシャツを手に取り、ついでに換気扇もつけた。
そういえばここは、廊下も脱衣所もないから、キッチンに風呂の匂いがだだ漏れなのだ。
「立って話すのもなんだから、隣の部屋入って、どこでもいいから座っててくれ」
着替えながら隣の部屋を指差すと、鏑木は確認するように俺の方をチラッと見てから、「ん」と隣の畳の部屋に入っていった。
(なにか出すもの……。お茶でいいか)
予備のコップを棚から出そうとしたら、手がちょっと震えた。 なんだかやけに緊張していて、一回はーっと深呼吸をする。
予備のコップとさっき使ったコップを一緒にざっと洗うと、冷蔵庫から麦茶を出して、適当に注いだ。それを持って畳の部屋に行くと、鏑木は居心地悪そうに、テーブルの前にちょこんと座っていた。
「麦茶しかなくて、すまん」
「ん」
麦茶をテーブルに置き、鏑木の正面に座ったが、鏑木は何も言わずずっと俯いているままだ。
どうしようか、俺のほうから謝るべきなのか。悩んでいると、ようやく鏑木がおずおずと口を開いた。
「――あのさ、木嶋。さっきは、俺、言いすぎたわ。……ごめん」
「え……、あ、いやー俺のほうこそ……怒らせるようなこと言っちまって……」
「…………」
また沈黙が訪れ、え、何、そこで会話終了なのか? と焦っていたら、下を向いたままだった鏑木が覚悟を決めたように顔を上げた。その表情はひどく真剣で、俺はドキッとした。
「俺、木嶋に言ってないことがある」
「……言ってないこと?」
「松永のこと」
松永とのことは、前回の時間軸で鏑木から聞いてはいた。だがその内容はキモいとかそういった類のことで、鏑木の本心や実際の松永との関係については詳しくは語られなかった。
そもそも前の時間軸では、松永の本性など知るよしもなく、そこまで追求しなかった。
「……今日さ、木嶋。松永から何聞いた?」
「え……」
あの絵と写真のことが頭をよぎった。だが、それを話していいものか迷った。
もしあのショッキングな絵や写真の存在を、鏑木自身把握していなかったら?
俺の口からうまく説明できるか分からない。下手なことを言うと、さらに鏑木を傷つけ、怒らせる事態になりかねない。
言葉を詰まらせる俺を見て、鏑木は小さく息を吐いた。
「俺の絵、見た?」
「……!」
知ってたのか。
「あいつ、勝手に描くとか言ってて……。やっぱ描いてたんだ。キモかったろ」
自虐気味に、鏑木がハハッと笑う。
前の時間軸で、鏑木が何度も何度も、松永のことをキモいキモいと苦虫を噛み潰したように言っていたことを思い出す。
あの時も知ってたんだな。俺、気づかなくてごめん、鏑木。 めちゃくちゃ情けねぇよ。
「どこまで松永に聞いてんのかしんねーけど、俺さ、木嶋にはちゃんと言っとかねーとなって、そう思ってさ」
今度は俺が俯く番だった。
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