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3回目のリープ
28.絶交1
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鏑木にこれから教室に戻ると連絡し、鏑木がいるはずの教室棟へ向かうと、教室棟の玄関のところで俺のリュックを片方の肩にかけた鏑木が、ポケットに両手を突っ込んで立っていた。
「おっせーよ。どこ行ってたんだよー。教室で待ってたら見回りのセンセーにさ、さっさと帰れって追い出しやがってさー」
口を尖らせ、ブスくれたように文句を垂れながら、俺に持っていたリュックを差し出す。
だが俺から漂うピリついた空気に気がつくと、やや戸惑ったような表情を見せた。
「……どした? 木嶋。なんかあったのか」
「いや――」
言葉を濁しつつ、持ってきてもらって悪ぃなと、鏑木からリュックを受け取る。
いつもと変わらない鏑木。
こいつがウリをしているだなんて、俺には信じられない。
あの写真だって本物かどうか――。
(くそっ、松永があんなやつだとは思わなかった)
『やっと出来上がったから、明日、鏑木に見せようと思ってね』
鏑木が松永の絵を破壊した日、松永が絵のことを鏑木に話し、あの写真の存在をほのめかしていたなら?
鏑木が怒って当然で、さらに鏑木が松永の絵を壊したことの辻褄があう――。
「……木嶋? マジでどーした? 顔がめっちゃこえー……」
「鏑木、お前さ」
「なに?」
「その……松永と…………いや、なんでもない」
言いかけて言葉が詰まる。
「はァ? なんだよ。はっきり言えよ。……松永になんか言われたのか」
松永と聞いて、鏑木が露骨に顔をしかめた。
――はっきりと聞けばいい。お前、ウリやってんのかって。しかも男相手にって変な噂が流れてるぞって。
松永の言っていることが本当かどうか、ここで確認しておかないといけないわけだし、この話が鏑木の死の真相に近づく第一歩になる可能性だってある。
……分かっているのに、俺はどうしても聞けなかった。
「いや……その、……松永に変なこと言われたりとか、……しつこくつきまとわれていないか?」
「…………」
「何度か松永とトラブってるだろ? 何かあったのかなって……」
「…………」
鏑木は何も言わず、俺から目をそらし、どこか睨みつけるような目つきで、虚空を見つめている。さっきまで俺にまとわりついていたピリついた空気が、今度は鏑木から漂っていた。
――なんで何も返事をしてくれないんだよ、鏑木。
何もないならいつもみたいに『あるわけねーだろ』って、笑ってくれ。
なぁ、鏑木。俺たち親友だろ? ……もし、もし本当に何かあるなら、俺にぶつかってでも打ち明けてほしいんだよ。
「……鏑木……?」
俺が名前を何度も呼び、それでも無言が続いた。
『ごめん、何でもない』って言えるような空気でもなく、沈黙が俺の心に重くのしかかる。
もう松永のことは今でなくていい。この沈黙をどうにかしたかった。
俺の頭の中は、どうやってこの場を取り繕うかということでいっぱいになっていた。
「……木嶋はさ」
反射的に鏑木を見る。
だが鏑木はそっぽを向いたままで、俺と目を合わせることなく言葉を続けた。
「……木嶋はさ、なんで俺にそうやって執着してんだよ。松永に何言われたのか知んねーけど、どーでもいいじゃんか、俺のことなんてさー。最近知り合ったばっかなのに、俺のことなんでも知りたがって、ガチのストーカーじゃね?」
いつもの冗談めかしたようなものではなく、抑揚なく淡々としていて皮肉げで。まるで俺に幻滅したような、そんな言い方だった。
「……もう話すことねーし。俺、帰るわ」
「鏑木……!」
「これでサヨナラな。仲良しごっこももう終わり。お前しつけーし、もう話しかけてくんなよな」
俺の脇をすり抜けて、校門へ向かおうとする鏑木の腕を、俺は咄嗟に掴もうとした。だが鏑木はただ無言で俺の手を払い除け、そのまま何かを言うことなく、行ってしまった。
「おっせーよ。どこ行ってたんだよー。教室で待ってたら見回りのセンセーにさ、さっさと帰れって追い出しやがってさー」
口を尖らせ、ブスくれたように文句を垂れながら、俺に持っていたリュックを差し出す。
だが俺から漂うピリついた空気に気がつくと、やや戸惑ったような表情を見せた。
「……どした? 木嶋。なんかあったのか」
「いや――」
言葉を濁しつつ、持ってきてもらって悪ぃなと、鏑木からリュックを受け取る。
いつもと変わらない鏑木。
こいつがウリをしているだなんて、俺には信じられない。
あの写真だって本物かどうか――。
(くそっ、松永があんなやつだとは思わなかった)
『やっと出来上がったから、明日、鏑木に見せようと思ってね』
鏑木が松永の絵を破壊した日、松永が絵のことを鏑木に話し、あの写真の存在をほのめかしていたなら?
鏑木が怒って当然で、さらに鏑木が松永の絵を壊したことの辻褄があう――。
「……木嶋? マジでどーした? 顔がめっちゃこえー……」
「鏑木、お前さ」
「なに?」
「その……松永と…………いや、なんでもない」
言いかけて言葉が詰まる。
「はァ? なんだよ。はっきり言えよ。……松永になんか言われたのか」
松永と聞いて、鏑木が露骨に顔をしかめた。
――はっきりと聞けばいい。お前、ウリやってんのかって。しかも男相手にって変な噂が流れてるぞって。
松永の言っていることが本当かどうか、ここで確認しておかないといけないわけだし、この話が鏑木の死の真相に近づく第一歩になる可能性だってある。
……分かっているのに、俺はどうしても聞けなかった。
「いや……その、……松永に変なこと言われたりとか、……しつこくつきまとわれていないか?」
「…………」
「何度か松永とトラブってるだろ? 何かあったのかなって……」
「…………」
鏑木は何も言わず、俺から目をそらし、どこか睨みつけるような目つきで、虚空を見つめている。さっきまで俺にまとわりついていたピリついた空気が、今度は鏑木から漂っていた。
――なんで何も返事をしてくれないんだよ、鏑木。
何もないならいつもみたいに『あるわけねーだろ』って、笑ってくれ。
なぁ、鏑木。俺たち親友だろ? ……もし、もし本当に何かあるなら、俺にぶつかってでも打ち明けてほしいんだよ。
「……鏑木……?」
俺が名前を何度も呼び、それでも無言が続いた。
『ごめん、何でもない』って言えるような空気でもなく、沈黙が俺の心に重くのしかかる。
もう松永のことは今でなくていい。この沈黙をどうにかしたかった。
俺の頭の中は、どうやってこの場を取り繕うかということでいっぱいになっていた。
「……木嶋はさ」
反射的に鏑木を見る。
だが鏑木はそっぽを向いたままで、俺と目を合わせることなく言葉を続けた。
「……木嶋はさ、なんで俺にそうやって執着してんだよ。松永に何言われたのか知んねーけど、どーでもいいじゃんか、俺のことなんてさー。最近知り合ったばっかなのに、俺のことなんでも知りたがって、ガチのストーカーじゃね?」
いつもの冗談めかしたようなものではなく、抑揚なく淡々としていて皮肉げで。まるで俺に幻滅したような、そんな言い方だった。
「……もう話すことねーし。俺、帰るわ」
「鏑木……!」
「これでサヨナラな。仲良しごっこももう終わり。お前しつけーし、もう話しかけてくんなよな」
俺の脇をすり抜けて、校門へ向かおうとする鏑木の腕を、俺は咄嗟に掴もうとした。だが鏑木はただ無言で俺の手を払い除け、そのまま何かを言うことなく、行ってしまった。
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