バッドエンド・タイムリープ!

Bee

文字の大きさ
上 下
25 / 69
3回目のリープ

25.俺ってストーカー?

しおりを挟む
「あー、そーだ明日俺、がっこ行かねーから」 

 鏑木が急にそんなことを言ったのは、学校が終わったあと俺はバイトに行くため、鏑木と一緒に街へと続く道を歩いていたときだった。 

「そー……なのか? なんでだ」 

 俺がそう言うと、鏑木が呆れたような目つきでチロッと俺のほうを見た。 

「なんでって……別にいーだろ。木嶋のそういうとこ、なんかストーカーっぽいよな」 
「そういうとこってなんだよ」 

 仲良くなれるまで、俺がしつこく追い回していたときのことを言っているんだろうが……、ストーカーはないだろ。ちょっと尋ねただけなのに、俺に失礼すぎやしねーか。

 俺がムッとした声を出すと、鏑木が呆れたような目で俺を見る。 

「『どこ行くんだ』『いつ帰ってくるんだ』『誰と行くんだ』って、いっつも聞くじゃん。なんつーかさ、束縛がひどい。彼女とかじゃねーんだからさー」 

 確かに前のときよりも俺は、鏑木の行動についてひどく干渉するようになっていた。 
 前はそこまでマメに連絡を取り合うようなことはしていなかった。だけど前回の終わりが終わりだったからか、不安でこうやって逐一なんでも聞く癖がついてしまったのだ。 

 しかし聞くだけで、束縛というほど行動を制限したことはない。だからストーカーでも束縛でもない。……と思う。 

「それで、明日どこ行くんだよ」 
「……どこも行かねーよ。ダルイから休むだけ」 
「なんでまだ明日でもねーのに、休む気でいるんだよ」 
「いーだろ。最近ちゃんと授業出てんだからさー」 
「じゃあ明日は家にいるんだな」 
「朝はずっと寝てる。午後は暇になったら外出るかもしんねーけどなー」 

(もしかして今日の夜、鏑木はスナックの手伝いをするんじゃないのか?) 

 さっきちらっとスマホを見ていたから、親父さんから連絡があったに違いない。いや絶対そうに違いない。 
 仲良くなって日が浅いからか、まだ鏑木は俺にスナックを手伝っていることを言わない。だから俺も聞き          たいのを我慢して、知らないふりをしている。 
 この知ってるのに知らないふりというのは、結構大変だ。 

「ふーん。分かった。じゃあ明日、学校終わったら連絡すっから」 
「明日もバイトじゃねーのかよ」 
「バイト行く前に連絡する。バイト終わっても連絡する」 
「何それ。恋人かっつーの」 

 鏑木がおかしそうにヒヒッと笑った。 

 
 翌日の夜、バイトを終えた俺は、鏑木に連絡しようと、スマホをいじりながら外に出た。 
 昼に連絡したら、今日の夜は暇になったから、ちょっと外で遊んでくるって言っていた。一体どこにいるんだか。 

 リュックを片肩にかけて「お疲れ様でーす」と声をかけて裏の扉から出ると、大通りのほうに足を向けた。夜遊びと言えばマスターのところだろう。俺はそう思って、メッセージを送信した。だがその後すぐ、近くで聞き慣れた軽快な通知音がした。 

「え、……鏑木?」 

 音がしたほうへ振り向くと、そこにはやっぱり鏑木がいた。 
 その派手な金髪にネオンを映し、ジャージのファスナーを顎まであげ、ダルそうに歩道の車止めポールに浅く腰掛けスマホをいじる鏑木。 

 俺の声に、顔を照らすスマホから視線を上げ、なぜかブスッとした顔で俺を見た。 

「おせー」 

 なんだよ、夜に外出するって、俺んとこかよ。口がニヤける。ごまかそうと下を向いた。 

 ……ああ、前もこういうことあったよな。なんかすげーデジャヴ。 

「いつからいたんだよ。待ってるなら連絡くれって。寒いだろ。風邪ひくし」 
「バイト8時までだったろ。終わったら、いつか出てくんだろーと思って」 

 ピョンとポールから飛ぶようにして降りると、俺に寄りかかるようにして肩に腕を回してくる。 

「今日はさー、バーのマスターのとこいってなんか食わしてもらおうぜー」 
「俺、さっきまかない食ったし」 
「えーずっりーなー。何食ったの」 
「今日はからあげ」 
「えーいーなー」 
「店の料理食うのも仕事うちだって。今度持ち帰りしてやっからさ。で、今日マスターのとこ店開いてんの?」 
「さっき道でおっさんたちに会って、これからマスターんとこ行くって言ってたし」 
「じゃあ行くか」 
「お前、まだ食えんの? 俺アイス食いてー。今日マスター、アイスもくれっかなー」 
「残ってんならくれんじゃね? 俺はコーラ」 
「行ってねだろうぜ~」 

 イエーイと鏑木が上機嫌で片手を上げる。 

「で、鏑木は今日何やってたんだ」 
「でたー木嶋のストーカー」 
「うっせ」 
「今日はさっきまで寝てたって」 
「寝すぎだろ」 
「まだ寝たりねーし」 

 鏑木がわざとらしくあくびをして見せた。 

「寝すぎだっての」 

 二人してどーでもいいことを言いながらバーに行くと、マスターに「高校生がこんな時間に来んな」と文句を言われたが、「これ食って早く帰れ」とオムライスが二人分出てきた。さらにデザートをねだった鏑木には、アイスじゃなくプリンだったが、それを嬉しそうに食べていた。 



 飯を食ってしばらく街をうろついた後、まだ遊びてーと駄々をこねる鏑木をスナックまで送ると、2階に電気がつくのを見届けてから俺は一人アパートに帰った。
 畳の上にゴロリと寝転ぶと、ふーっと大きく息を吐く。 まかない食ったのにオムライスまで食べたから、久々に腹がいっぱいだ。 

 目を瞑ると、静かな部屋に、お隣さんから壁越しに漏れる騒がしいテレビの音が聞こえる。 

(今日、鏑木よく食べてたな) 

 朝から本当にずっと寝ていて何も食べてなかったのか、鏑木はマスターのオムライスをがっつくように食べていた。そしてさらにプリンまで。 

(鏑木、今日はアイスがないって聞いてブスくれてたのに、プリンが出たときすげーはしゃいでて笑ったな) 

 前回の時間軸同様、いや、今回は前回よりさらに積極的に動いたおかげか、前のときよりも鏑木との親密度は高くなっている気がする。 

(バイトの後、俺のほうから鏑木の家に行くつもりだったけど、鏑木のほうから会いにきてくれたし。一緒にマスターのところに行く回数も増えたしな) 

 こうやって鏑木が気を許してくれていることが嬉しいし、今回こそという希望にもつながる。 

(今のところ順調だな。……そういえば、そろそろ鏑木が松永の絵をぶっ壊す頃か) 

 鏑木が怒りにまかせて破壊した松永の絵。 
 もうリープ3回目の世界というのに、まだ一度も松永の絵を見ていない。 

(松永の絵、1回くらいは見ときたいよな。……言ったら見せてくれんのかな) 

 最初のリープで親しくなってしまったからか、なんとなく松永のことはいまだに親しみを感じているというか、好印象のままというか。 
 だが今回も副担任・美術教師としての松永としか接していないし、急に馴れ馴れしく話しかけるのはどうかと悩むところだ。しかも絵の存在を、俺は知らないはずなわけだし。 

(松永には申し訳ないけど、鏑木が絵を壊すイベントは、止めるべきじゃないよな) 

 止めようと思ったら止められる。 
 だがあのイベントは、鏑木と〝親友〟になるために必要なイベントだ。 

(すでに親友っぽいから、なくても問題ないイベントな気もするけど、でもな――) 

 大きなイベントを改変した後、未来が変わってしまうことが怖い。 

(できれば前回と同じように進めて、行方不明になる前に鏑木を救出したい。予測不可能な出来事が増えたら対処できず、また同じことの繰り返しだ) 

 大きな改変にならないよう、なるべく前回の流れを辿るほうが無難であることは確かだ。 

(無理そうなら松永の絵を見るのは諦めるか) 

 今は鏑木を助けることだけを考えよう。 
 そう納得し、俺は「よし」と声を出し、起き上がった。 

「そろそろ風呂に入るか」 

 日付が変わる前に風呂に入らねば。 

 眠くて怠い体を持ち上げ、俺は風呂掃除をするためタオルを持って風呂場に向かった。 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...