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2回目のリープ
23.消えた鏑木2
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(おっかしーな。夜、スナックが開いている時間にもう一回来るか)
既読にならないメッセージに、追加でもう一度メッセージを送る。
もしかすると気がついていないだけかもしれないし、風邪ぶりかえして寝ている可能性もある。それなら起きたら返信してくるだろう。
だが夜のバイトが終わった後、開いたアプリのメッセージは、未読のまま残っていた。
(鏑木、まだ治ってないのか。大丈夫なのか? まあ、スナックのホステスさんに聞けばわかるだろ)
これまで鏑木へのメッセージで未読のままなんてことは、一度もなかった。
俺はなんとなく不安になって、手早くリュックを背負うと、夜の街を急いだ。
鏑木から聞く限り、スナックはこれまで一度も夜営業を休んだことなどない。しかも今日は土曜の夜だ。絶対にやっているはず。
……それなのに、スナックの営業中を示すドアの明かりは消えたままひっそりとしていて、何度ドアを叩いても、誰一人出てくることがなかった。
(は……? なんでだ? こんなときに限って休みって……)
翌日も、俺は昼のランチバイトの終わりと、夜のバイト終わりにスナックへ行ったが、なぜかこの日もスナックは営業しておらず、鏑木とも連絡が取れないままだった。
まだ時間はある。まだ大丈夫だ。明日になったら、きっと鏑木は学校に来る。俺はそう信じて、その日を終えた。
――だが、残り3日となった月曜、鏑木は学校に来なかった。
もう期限が迫っているにも関わらず、鏑木の居所は依然として掴めない状況に、俺は不安でいっぱいになっていた。
担任に確認するが、鏑木が休むことはよくあることで、しかも先週から体調を崩して休んでいることもあり、何も知らない先生は「お父さんからは、良くなるまで家で安静にしときますって先週連絡があったしな。体調がどうか、あとでお父さんに連絡しておくから」と楽観的だった。
この日俺は、学校が終わるとすぐに、スナックへ行った。
だが昨日と同じく、スナックのドアは固く閉ざされていた。スナックのドアの前には、新しいおしぼりのカゴが積まれているが、夜のバイトが終わった後もそれが回収された様子はなく、野ざらしとなっていた。
突然消えた鏑木。
俺の家に泊まりにくると言った、3月3日。鏑木が来ないのを確認すると、俺は学校を早退し、必死になって鏑木を探した。
桃の節句だかなんだか知らないが、桃の木らしきピンクの花の造花が至るところに飾り付けられた商店街を走り、路地を抜け、行きそうなところを全部まわった。
「ハルちゃんかい? ここ最近は見てないな」
バーのマスターや激安タナカマートの店員にも、鏑木を見なかったか聞いて回ったが、誰も知らなかった。
鏑木のスマホへ何度もメッセージを送ったが、既読にはならない。
電話は――呼び出し音が鳴り続けるだけで、繋がらなかった。
まさかと思い松永にも聞いてみたが、鏑木とは接触していないと言い、手がかりを全部失った。
街中を探して、情報を必死で集め、最近の出来事で頭に引っかかったことは、この間の救急車の音。あれは近くのビルで飛び降りがあり、若い男性が一人死んだのだという。
聞いた話では、かなり高いところから落ち、ブロックに打ち付けたせいで頭が派手に割れ、顔はめちゃくちゃになり、身元不明で新聞に載っていたということだった。
だがあれは、鏑木と連絡が取れなくなるより前の話だ。
鏑木はどこに行ったのか。
なぜスナックは急に閉店したのか?
親父さんはどこにいったんだ。
わからない。何もかもがわからない。
鏑木は今どうしているんだろうか。
今頃何かに苦しんで、一人で死のうとしているんじゃないだろうか。
俺は、なんでこんなにも呑気にしていたのか。
気が狂わんばかりの3月3日を終え、とうとうその日を迎えた――。
3月4日。
この日俺は、一睡もできないまま朝を迎えた。
何度も鏑木のスマホに連絡し、既読のつかぬメッセージを大量に残した。
学校に行く時間がきても支度をすることすら憂鬱で、いっそのこと休んでしまったらいいのではないのかと、そんな考えが頭をよぎったが、どうせループになるのは決まっている。
――いや、ただ行方不明なだけで、もしかすると今回は机の上には花が置かれていないかもしれない。だからきちんと学校へ行って、この目で確認すべきだ。
そんな僅かな希望も、まだ俺の胸にあった。
前日から何も喉を通らず、朝メシの代わりに水道の水を口をつけて飲む。3月の冷たい水が、寝不足の頭を少し覚醒させ、俺はなんとか支度を終えると、足取り重く学校へ向かった。
既読にならないメッセージに、追加でもう一度メッセージを送る。
もしかすると気がついていないだけかもしれないし、風邪ぶりかえして寝ている可能性もある。それなら起きたら返信してくるだろう。
だが夜のバイトが終わった後、開いたアプリのメッセージは、未読のまま残っていた。
(鏑木、まだ治ってないのか。大丈夫なのか? まあ、スナックのホステスさんに聞けばわかるだろ)
これまで鏑木へのメッセージで未読のままなんてことは、一度もなかった。
俺はなんとなく不安になって、手早くリュックを背負うと、夜の街を急いだ。
鏑木から聞く限り、スナックはこれまで一度も夜営業を休んだことなどない。しかも今日は土曜の夜だ。絶対にやっているはず。
……それなのに、スナックの営業中を示すドアの明かりは消えたままひっそりとしていて、何度ドアを叩いても、誰一人出てくることがなかった。
(は……? なんでだ? こんなときに限って休みって……)
翌日も、俺は昼のランチバイトの終わりと、夜のバイト終わりにスナックへ行ったが、なぜかこの日もスナックは営業しておらず、鏑木とも連絡が取れないままだった。
まだ時間はある。まだ大丈夫だ。明日になったら、きっと鏑木は学校に来る。俺はそう信じて、その日を終えた。
――だが、残り3日となった月曜、鏑木は学校に来なかった。
もう期限が迫っているにも関わらず、鏑木の居所は依然として掴めない状況に、俺は不安でいっぱいになっていた。
担任に確認するが、鏑木が休むことはよくあることで、しかも先週から体調を崩して休んでいることもあり、何も知らない先生は「お父さんからは、良くなるまで家で安静にしときますって先週連絡があったしな。体調がどうか、あとでお父さんに連絡しておくから」と楽観的だった。
この日俺は、学校が終わるとすぐに、スナックへ行った。
だが昨日と同じく、スナックのドアは固く閉ざされていた。スナックのドアの前には、新しいおしぼりのカゴが積まれているが、夜のバイトが終わった後もそれが回収された様子はなく、野ざらしとなっていた。
突然消えた鏑木。
俺の家に泊まりにくると言った、3月3日。鏑木が来ないのを確認すると、俺は学校を早退し、必死になって鏑木を探した。
桃の節句だかなんだか知らないが、桃の木らしきピンクの花の造花が至るところに飾り付けられた商店街を走り、路地を抜け、行きそうなところを全部まわった。
「ハルちゃんかい? ここ最近は見てないな」
バーのマスターや激安タナカマートの店員にも、鏑木を見なかったか聞いて回ったが、誰も知らなかった。
鏑木のスマホへ何度もメッセージを送ったが、既読にはならない。
電話は――呼び出し音が鳴り続けるだけで、繋がらなかった。
まさかと思い松永にも聞いてみたが、鏑木とは接触していないと言い、手がかりを全部失った。
街中を探して、情報を必死で集め、最近の出来事で頭に引っかかったことは、この間の救急車の音。あれは近くのビルで飛び降りがあり、若い男性が一人死んだのだという。
聞いた話では、かなり高いところから落ち、ブロックに打ち付けたせいで頭が派手に割れ、顔はめちゃくちゃになり、身元不明で新聞に載っていたということだった。
だがあれは、鏑木と連絡が取れなくなるより前の話だ。
鏑木はどこに行ったのか。
なぜスナックは急に閉店したのか?
親父さんはどこにいったんだ。
わからない。何もかもがわからない。
鏑木は今どうしているんだろうか。
今頃何かに苦しんで、一人で死のうとしているんじゃないだろうか。
俺は、なんでこんなにも呑気にしていたのか。
気が狂わんばかりの3月3日を終え、とうとうその日を迎えた――。
3月4日。
この日俺は、一睡もできないまま朝を迎えた。
何度も鏑木のスマホに連絡し、既読のつかぬメッセージを大量に残した。
学校に行く時間がきても支度をすることすら憂鬱で、いっそのこと休んでしまったらいいのではないのかと、そんな考えが頭をよぎったが、どうせループになるのは決まっている。
――いや、ただ行方不明なだけで、もしかすると今回は机の上には花が置かれていないかもしれない。だからきちんと学校へ行って、この目で確認すべきだ。
そんな僅かな希望も、まだ俺の胸にあった。
前日から何も喉を通らず、朝メシの代わりに水道の水を口をつけて飲む。3月の冷たい水が、寝不足の頭を少し覚醒させ、俺はなんとか支度を終えると、足取り重く学校へ向かった。
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