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2回目のリープ
20.恋バナ2
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「……俺さ、昔からそういうのが多くてさ。変質者に攫われそうになったり、男から告白されたり、よくあんのよ。ここって田舎だからそーいうのあんまないように見えるかもしんねーけど、あるんだよなー実際は意外と」
「……」
「ほら、俺んとこ親もあんな感じじゃん。家も転々としてて、だから友達もあんまいねーし、高校行ってもさ一人制服違うじゃん」
「……制服、勝手に好きなの着てんじゃないのか」
「ちげーよ。親父がさー制服買ってくんなくて、スナックの常連のおっさんが高校の頃着てたやつくれたんだよ。暴走族やってたんだって。今このへんもうそーいうのいないからさ。着るやついねーからハルちゃん着るかって」
そんな理由だったのか。
てっきりそういう昭和の不良に憧れてのパターンだとばかり思ってた。
だから着古された感じてダボダボだったのか。
「まあもともと学校に馴染む気なんかねーけどさ、それでも木嶋が友達になりてーって言ってくれて、ちょっと嬉しかった。最初は俺のこと付け回す変態かと思ってたんだけど、バーのマスターたちがいい子だったぞーって教えてくれたし、喧嘩弱えーのに強いフリして加勢してくれたし」
「鏑木……」
「松永のことで迷惑かけたのに、こうやって家誘ってくれたの、俺すげーうれしかった。今日めっちゃ楽しいし、ずっと友達でいてーなと思った。だから木嶋に言った」
なんかこんなん言っちゃってごめんなーと申し訳なさそうに笑うと、鏑木は黙ってしまった。
——正直なことを言えば、今の今まで俺は鏑木のことを、ループを終わらせるための鍵だとしか考えていなかった。
口では友達とか言っていたけど、なんというかこの意味のわからないゲームを攻略するための鍵。
でも思い返せば、仲良くなってからのこの一カ月、たった一カ月だけど俺にとっても楽しい日々だったんだ。
今日だってはしゃぐ鏑木とすげー笑ったのも事実だし、一緒に食べたメシもうまかった。……こんなふうに、バカみたいに笑っていつも一緒にいるような友達ができたのは、俺自身初めてな気がする。
(タイムループのことはさておいても、鏑木とは、友達として本気で向き合うべきなのかもしれない)
「——鏑木……。俺もお前と一緒にいて楽しかったし、その、別に嫌とかじゃない。ちょっと面食らっただけで……俺もずっと友達でいてくれたらすげー嬉しい」
俺ってほんとこういうの下手くそで、しどろもどろだし、うまく伝わってくれるか心配だった。
でも鏑木は俺の気持ちを察してくれて、毛布から顔を出し「俺も」って言って笑ってくれた。
「へへ、俺たちこれからも友達なー」
「そうだな」
「なーたまには俺、ここに来てもいいー?」
「ああ。そういやバーのマスターたちが、俺たち友達になれたらメシ奢ってくれるって言ってたぞ」
「マジかー! 今度いこーぜ! マスターのメシもうまいんだよなー」
「おっさんたちもジュースとか奢ってくれるって言ってたぞ」
「やりー! 今度一緒にいるとき、道で会ったら奢ってもらおーぜ」
鏑木がまたハイテンションになって、毛布の中で足をばたつかせた。
すっかり目が冴えた俺たちは、その後も話を続け、将来何になりたいとか、今度あそこ行こうとか、そんな話を夜遅くまで喋っていた。
——夜、鏑木が眠って静かになると、俺は一人鏑木の死のことについて考えた。
今の鏑木を見る限りでは死の予兆などまったく見受けられない。
将来のことにも希望を持ってて、自動車の整備工場だの、板金屋だのと、車関連の仕事に就くんだと張り切っていた。
(本当にこいつが死ぬんだろうか)
これまで〝鏑木〟という存在はあまり身近な存在ではなく、ここに来るまで二回鏑木の死を経験しているが、なんとなく他人事というか、実感のないものだった。
しかし今回は違う。
鏑木と親しくなった以上、もうこれまで感じていた死の意味が変わってくる。
俺のすぐ隣で、はしゃいで、眠りこけている人物が、本当に死ぬなんて想像できるか?
(マジで全然想像できねーな)
だがその日はやってくるのだ。確実に。
3月まで三カ月。
教室に花が飾られ、俺が過去に飛ばされるのが3月4日だから、鏑木が死ぬのはその前日だろう。
(とりあえず松永は要注意だな。あと何かあったとき、いつでも俺の家に来れるようにしておこう。逃げ場があるだけでも少しは違うはずだ)
無事にその日が過ぎるまで、鏑木から絶対に目を離さないようにしよう。
そして鏑木と一緒に3年に進級する。
俺はそう誓って、鏑木の口から漏れる寝息を隣で聞きながら、目を瞑った。
「……」
「ほら、俺んとこ親もあんな感じじゃん。家も転々としてて、だから友達もあんまいねーし、高校行ってもさ一人制服違うじゃん」
「……制服、勝手に好きなの着てんじゃないのか」
「ちげーよ。親父がさー制服買ってくんなくて、スナックの常連のおっさんが高校の頃着てたやつくれたんだよ。暴走族やってたんだって。今このへんもうそーいうのいないからさ。着るやついねーからハルちゃん着るかって」
そんな理由だったのか。
てっきりそういう昭和の不良に憧れてのパターンだとばかり思ってた。
だから着古された感じてダボダボだったのか。
「まあもともと学校に馴染む気なんかねーけどさ、それでも木嶋が友達になりてーって言ってくれて、ちょっと嬉しかった。最初は俺のこと付け回す変態かと思ってたんだけど、バーのマスターたちがいい子だったぞーって教えてくれたし、喧嘩弱えーのに強いフリして加勢してくれたし」
「鏑木……」
「松永のことで迷惑かけたのに、こうやって家誘ってくれたの、俺すげーうれしかった。今日めっちゃ楽しいし、ずっと友達でいてーなと思った。だから木嶋に言った」
なんかこんなん言っちゃってごめんなーと申し訳なさそうに笑うと、鏑木は黙ってしまった。
——正直なことを言えば、今の今まで俺は鏑木のことを、ループを終わらせるための鍵だとしか考えていなかった。
口では友達とか言っていたけど、なんというかこの意味のわからないゲームを攻略するための鍵。
でも思い返せば、仲良くなってからのこの一カ月、たった一カ月だけど俺にとっても楽しい日々だったんだ。
今日だってはしゃぐ鏑木とすげー笑ったのも事実だし、一緒に食べたメシもうまかった。……こんなふうに、バカみたいに笑っていつも一緒にいるような友達ができたのは、俺自身初めてな気がする。
(タイムループのことはさておいても、鏑木とは、友達として本気で向き合うべきなのかもしれない)
「——鏑木……。俺もお前と一緒にいて楽しかったし、その、別に嫌とかじゃない。ちょっと面食らっただけで……俺もずっと友達でいてくれたらすげー嬉しい」
俺ってほんとこういうの下手くそで、しどろもどろだし、うまく伝わってくれるか心配だった。
でも鏑木は俺の気持ちを察してくれて、毛布から顔を出し「俺も」って言って笑ってくれた。
「へへ、俺たちこれからも友達なー」
「そうだな」
「なーたまには俺、ここに来てもいいー?」
「ああ。そういやバーのマスターたちが、俺たち友達になれたらメシ奢ってくれるって言ってたぞ」
「マジかー! 今度いこーぜ! マスターのメシもうまいんだよなー」
「おっさんたちもジュースとか奢ってくれるって言ってたぞ」
「やりー! 今度一緒にいるとき、道で会ったら奢ってもらおーぜ」
鏑木がまたハイテンションになって、毛布の中で足をばたつかせた。
すっかり目が冴えた俺たちは、その後も話を続け、将来何になりたいとか、今度あそこ行こうとか、そんな話を夜遅くまで喋っていた。
——夜、鏑木が眠って静かになると、俺は一人鏑木の死のことについて考えた。
今の鏑木を見る限りでは死の予兆などまったく見受けられない。
将来のことにも希望を持ってて、自動車の整備工場だの、板金屋だのと、車関連の仕事に就くんだと張り切っていた。
(本当にこいつが死ぬんだろうか)
これまで〝鏑木〟という存在はあまり身近な存在ではなく、ここに来るまで二回鏑木の死を経験しているが、なんとなく他人事というか、実感のないものだった。
しかし今回は違う。
鏑木と親しくなった以上、もうこれまで感じていた死の意味が変わってくる。
俺のすぐ隣で、はしゃいで、眠りこけている人物が、本当に死ぬなんて想像できるか?
(マジで全然想像できねーな)
だがその日はやってくるのだ。確実に。
3月まで三カ月。
教室に花が飾られ、俺が過去に飛ばされるのが3月4日だから、鏑木が死ぬのはその前日だろう。
(とりあえず松永は要注意だな。あと何かあったとき、いつでも俺の家に来れるようにしておこう。逃げ場があるだけでも少しは違うはずだ)
無事にその日が過ぎるまで、鏑木から絶対に目を離さないようにしよう。
そして鏑木と一緒に3年に進級する。
俺はそう誓って、鏑木の口から漏れる寝息を隣で聞きながら、目を瞑った。
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