19 / 69
2回目のリープ
19.恋バナ1
しおりを挟む
「——おい。もう寝たのかよ」
「——ってぇ! ……なんだよ。寝てねーよ」
俺の足の脛に、急に鏑木の踵が落ちてきた。俺が黙り込んだことに腹が立ったらしい。
「寝ちまったのかと思った」
「ったく、寝てると思ったら起こすなよ」
「だってよー、こういう時は恋バナとかすんじゃん。なのに木嶋寝ようとすんだもん」
「恋バナなんかしねーよ」
「学校とかに好きなやついねーの?」
「はぁ? いねーよそんなん」
恋バナしないって言ってるのに、鏑木は話をぐいぐい進めてくる。
「いねーの?」
「ああ」
「ずっと?」
「ずっとじゃねーけど、今はいねー」
「えー、じゃあおめー童貞かよ」
「はぁ? 童貞じゃねーよ」
「え、童貞じゃねーの!?」
鏑木がガバッと毛布を被ったまま、俺のほうに起き上がった。
いやいや飛躍しすぎだろ。なんで今好きなやついなかったら童貞なんだよ。
「マジ!? 木嶋、童貞じゃねーのかよ!?」
「うるさい」
「なんで? 風俗?」
「違う。しつこい」
「いつだよ。最近?」
「今年の春くらいだよ。うっせーな、もう寝るぞ」
「うっそ、マジで!? 相手は!? 同クラのやつ?」
あんまりにもしつこいから、ついうっかり言ってしまって後悔。おかげで鏑木がハイテンションで、毛布ごと俺の上に乗っかってくる。
「なー! 木嶋ぁー」
「うっせーな。相手はバイト先の客だよ! 付き合ってすぐ別れたし、思い出したくねーんだよ」
そう、実は二年になってからすぐ、バイト先だった居酒屋の常連さんと付き合い始めた。相手は女子大生で、向こうから告白されて付き合い始めたのはいいが、ヤッてすぐに別れたのだ。付き合った期間は二カ月くらい。実はその女は童貞喰いで有名だったらしく、別れたあとになって他の常連さんから聞かされた。
別れは一方的で、最初は俺が初めてで下手すぎて嫌われたのかと落ち込んだが、別れの理由が〝童貞じゃなくなったから〟というのは、さすがに滑稽すぎて笑いが出る。
完全なトラウマで、まだ傷は癒えていない。だから今のバイト先でも、極力女子とは話をしないようにしている。
「で? そういうお前は童貞じゃないんだろーな」
恋バナしないって言ったのにしつこく追求され、ちょっと腹が立った俺は、意地悪くそう言い返してやった。
「あー……俺、女とはヤッたことない」
「なんだよ、お前こそ童貞なんじゃん」
人のこと童貞童貞ってしつこく聞いといて、お前が童貞なんじゃねーかよと、鼻で笑おうとしたが、鏑木の意外な一言で言葉が詰まった。
「女はねーけど、男とならある」
「……は?」
「俺、童貞だけど男となら経験あんだよね」
ゴロンと俺の胸に頭を乗せて、鏑木が仰向けに寝転んだ。
「……お前、ゲイなのか?」
「うーん。わかんね。……ほら俺さー、顔が女みてーじゃん。だからさ松永みてーなのが寄ってくんだよなー」
「……」
ゲイではないが、男とヤッたことあるって言われて、どう反応すりゃいいんだ。
(さっきも一緒に風呂に入ったわけだし、だからといって変な雰囲気にはならなかった。いやいやそういうのって、自意識過剰だろって、ゲイだからって、そういう目でみるのはダメだって……え、ちょっと、待て。松永はそういう意味で声かけたのか? おいおいおい、余計だめだろう松永)
俺が悶々としていると、鏑木の頭が俺の胸の上で動いた。
「なー木嶋、俺のこと嫌いになった?」
「——え? いや……」
少し言い淀んだ俺に、鏑木は俺の胸の上から頭をどかし、体を布団の端にゴロリと移動させた。
「——ってぇ! ……なんだよ。寝てねーよ」
俺の足の脛に、急に鏑木の踵が落ちてきた。俺が黙り込んだことに腹が立ったらしい。
「寝ちまったのかと思った」
「ったく、寝てると思ったら起こすなよ」
「だってよー、こういう時は恋バナとかすんじゃん。なのに木嶋寝ようとすんだもん」
「恋バナなんかしねーよ」
「学校とかに好きなやついねーの?」
「はぁ? いねーよそんなん」
恋バナしないって言ってるのに、鏑木は話をぐいぐい進めてくる。
「いねーの?」
「ああ」
「ずっと?」
「ずっとじゃねーけど、今はいねー」
「えー、じゃあおめー童貞かよ」
「はぁ? 童貞じゃねーよ」
「え、童貞じゃねーの!?」
鏑木がガバッと毛布を被ったまま、俺のほうに起き上がった。
いやいや飛躍しすぎだろ。なんで今好きなやついなかったら童貞なんだよ。
「マジ!? 木嶋、童貞じゃねーのかよ!?」
「うるさい」
「なんで? 風俗?」
「違う。しつこい」
「いつだよ。最近?」
「今年の春くらいだよ。うっせーな、もう寝るぞ」
「うっそ、マジで!? 相手は!? 同クラのやつ?」
あんまりにもしつこいから、ついうっかり言ってしまって後悔。おかげで鏑木がハイテンションで、毛布ごと俺の上に乗っかってくる。
「なー! 木嶋ぁー」
「うっせーな。相手はバイト先の客だよ! 付き合ってすぐ別れたし、思い出したくねーんだよ」
そう、実は二年になってからすぐ、バイト先だった居酒屋の常連さんと付き合い始めた。相手は女子大生で、向こうから告白されて付き合い始めたのはいいが、ヤッてすぐに別れたのだ。付き合った期間は二カ月くらい。実はその女は童貞喰いで有名だったらしく、別れたあとになって他の常連さんから聞かされた。
別れは一方的で、最初は俺が初めてで下手すぎて嫌われたのかと落ち込んだが、別れの理由が〝童貞じゃなくなったから〟というのは、さすがに滑稽すぎて笑いが出る。
完全なトラウマで、まだ傷は癒えていない。だから今のバイト先でも、極力女子とは話をしないようにしている。
「で? そういうお前は童貞じゃないんだろーな」
恋バナしないって言ったのにしつこく追求され、ちょっと腹が立った俺は、意地悪くそう言い返してやった。
「あー……俺、女とはヤッたことない」
「なんだよ、お前こそ童貞なんじゃん」
人のこと童貞童貞ってしつこく聞いといて、お前が童貞なんじゃねーかよと、鼻で笑おうとしたが、鏑木の意外な一言で言葉が詰まった。
「女はねーけど、男とならある」
「……は?」
「俺、童貞だけど男となら経験あんだよね」
ゴロンと俺の胸に頭を乗せて、鏑木が仰向けに寝転んだ。
「……お前、ゲイなのか?」
「うーん。わかんね。……ほら俺さー、顔が女みてーじゃん。だからさ松永みてーなのが寄ってくんだよなー」
「……」
ゲイではないが、男とヤッたことあるって言われて、どう反応すりゃいいんだ。
(さっきも一緒に風呂に入ったわけだし、だからといって変な雰囲気にはならなかった。いやいやそういうのって、自意識過剰だろって、ゲイだからって、そういう目でみるのはダメだって……え、ちょっと、待て。松永はそういう意味で声かけたのか? おいおいおい、余計だめだろう松永)
俺が悶々としていると、鏑木の頭が俺の胸の上で動いた。
「なー木嶋、俺のこと嫌いになった?」
「——え? いや……」
少し言い淀んだ俺に、鏑木は俺の胸の上から頭をどかし、体を布団の端にゴロリと移動させた。
30
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!
小池 月
BL
男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。
それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。
ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。
ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。
★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★
性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪
11月27日完結しました✨✨
ありがとうございました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる