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2回目のリープ
17.お泊り1
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「あ~メシうまかったー」
チャーハンと餃子を食べ終わった鏑木が、バタンと畳の上に寝転がった。
「木嶋のチャーハン、すげーうまかった」
1DKの狭い台所にある備え付けのガスコンロは、一口しない火力の弱いやつで、俺が作った卵とハムの入ったチャーハンは、やっぱりベチャついて塊になってしまった。それでも鏑木は、大喜びで全部平らげてくれた。
餃子は激安タナカマートにあった何の肉が入っているのか分からない安いチルドのやつ。それはそれで美味しかったし、俺もかなり満足した。
「つーか、木嶋んちって、マジでなんにもねーなぁ」
寝転んだまま狭い部屋を見回して、鏑木がしみじみそんなことを言う。
この部屋に最初に入ったときも、開口一番「なんもねー」だったし、次が「テレビもねーじゃん!」だった。
俺んちには、炊飯器に電子レンジ、小さな冷蔵庫と洗濯機くらいしか家電はないし、ゲーム機もなけりゃネットも繋がってない。 ニュースはスマホで見れるし、視聴料までとられるくらいなら、高いテレビを買う必要もなかった。
台所の隣にある六畳の畳の部屋には、布団とちゃぶ台みたいな机があるくらいで、あとは教科書をしまう棚がある程度。押入れも使ってない毛布や服がちょっと入っている程度だから、いつでも引っ越し可能なくらいスッカスカだ。
「漫画とかねーの?」
「ない。俺あんま興味ないし。推理小説なら何冊かあるけど……」
「俺、小説読めねーからいーわ」
ヒャヒャッと鏑木は笑うと、そのままばたーと手足を投げ出し、そのまま目を瞑った。
「……俺、久々に静かな家来たわー。つかダチんちっての初めて。あとこんななんにもねーとこも初めて」
古いアパートだから壁が薄く、隣の部屋からテレビの音が漏れて聞こえるが、鏑木の家周辺に比べると確かに静かだ。
幹線道路から少し離れているから、車の音も気にならないし、酔っ払いが騒ぐこともない。そして窓の外から差し込む派手なネオンの色もここにはない。
「すっげー居心地いいなー、木嶋んち……」
「おい、寝るなよ。眠たいなら風呂入れ。今、湯をためてやるから」
満腹で今にも寝てしまいそうな声に、俺は慌てて風呂の用意をした。
そういえば、俺んちは脱衣所がない。だから風呂に入るときは、一旦台所で服を脱いでから風呂に入る。そして台所には扉もないから、当然人前で素っ裸になる必要がある。
まあ男同士だしな。問題はない、はず。
「脱衣所ないのかよー。木嶋、見んなよ、エッチー」
脱衣所ないから台所で服を脱げと言ったらこれだ。
「見ねーよ! 早くいけ。お前が出たら、俺も風呂に入るんだからよ」
「じゃあ一緒に入ればいーじゃん」
「お前な。ここの風呂狭いんだよ。俺一人入ったらいっぱいなんだからさ」
「俺が風呂につかってるとき、木嶋が体を洗えばいーじゃんか」
「はぁ? お前、俺の体の大きさ知らねーのかよ。洗い場に入るともういっぱいいっぱいなんだよ」
「だから同時に洗い場に立たなきゃいーじゃん。交代で入るんだから大丈夫っしょ」
鏑木は小学生のお泊まり会のテンションで、風呂に一緒に入ろうとしつこく迫り、俺は根負けして結局一緒に入ることになった。
何が悲しくて狭い台所で、男二人肩を並べて風呂に入らないといけないんだと、ぶつぶつ文句を言いながら服を脱ぐ俺の横で、鏑木はふんふんと鼻歌まじりで服を脱いでいく。
「おい、制服シワになるからこっちよこせ」
「そんなの気にしたことないから、適当でいいって」
「ちゃんとかけるところあるから」
俺は鏑木が狭い台所の床に脱ぎ散らかした、ちょっとヤニ臭いヨレヨレの短ランボンタンを拾い、ハンガーにかけて鴨居に吊るした。
「へーこれ裏地紫色なんだな。つかヤニくせー。鏑木、服脱いだら先に風呂に入っていいぞ」
「そっかー? 風呂先に入っていーの?」
「おう。あ、そうだ鏑木。湯に浸かる前……」
洗い場でかけ湯してから湯船に浸れと言おうと振り向いた瞬間、鏑木の体が目に入り言葉に詰まった。
棒のように痩せた手足。筋肉のかけらもない想像以上にガリガリの体。そして体のあちこちにある小さな打ち身や傷跡が、その細い体と相まってやけに痛々しく見えた。
「おま、その体……どうかしたのか」
「はぁ? ……あーケガ? そんな目立つ? 俺よく喧嘩すっからなー。今日も暴れたしー」
ヒャヒャッと無邪気に鏑木は笑った。
だが、ここ最近鏑木からは大きな喧嘩をしたという話は聞いていない。
ケガの跡も、古いものもたくさんあるのかもしれないが、打ち身は最近できたもののように見えた。
「だけど——」
「それよりさ、やっぱ木嶋、体すげーな! ムッキムキじゃん!」
「……俺の体の話はいーんだよ」
その体じゃ風呂せめーのは当たり前じゃんとか言いながら、鏑木は風呂場に入っていった。
なんだか誤魔化されてしまったような気分だが、確かに今日は結構暴れていたし、今日ついたものだとも考えられる。
(酷いケガではないことは確かだし、しばらく様子をみるか)
「おい、浴槽に入る前に、ちゃんとかけ湯したか?」
「したした! はやく入ってこいよー」
ドアの外から声をかけると、ザバーという水が流れる音と楽しそうな鏑木の声がした。
じゃあ入るかとドアを開けるなりお湯をぶっかけられ、台所が水浸しになり、キレる俺の声がアパート中に響いたことは言うまでもない。
チャーハンと餃子を食べ終わった鏑木が、バタンと畳の上に寝転がった。
「木嶋のチャーハン、すげーうまかった」
1DKの狭い台所にある備え付けのガスコンロは、一口しない火力の弱いやつで、俺が作った卵とハムの入ったチャーハンは、やっぱりベチャついて塊になってしまった。それでも鏑木は、大喜びで全部平らげてくれた。
餃子は激安タナカマートにあった何の肉が入っているのか分からない安いチルドのやつ。それはそれで美味しかったし、俺もかなり満足した。
「つーか、木嶋んちって、マジでなんにもねーなぁ」
寝転んだまま狭い部屋を見回して、鏑木がしみじみそんなことを言う。
この部屋に最初に入ったときも、開口一番「なんもねー」だったし、次が「テレビもねーじゃん!」だった。
俺んちには、炊飯器に電子レンジ、小さな冷蔵庫と洗濯機くらいしか家電はないし、ゲーム機もなけりゃネットも繋がってない。 ニュースはスマホで見れるし、視聴料までとられるくらいなら、高いテレビを買う必要もなかった。
台所の隣にある六畳の畳の部屋には、布団とちゃぶ台みたいな机があるくらいで、あとは教科書をしまう棚がある程度。押入れも使ってない毛布や服がちょっと入っている程度だから、いつでも引っ越し可能なくらいスッカスカだ。
「漫画とかねーの?」
「ない。俺あんま興味ないし。推理小説なら何冊かあるけど……」
「俺、小説読めねーからいーわ」
ヒャヒャッと鏑木は笑うと、そのままばたーと手足を投げ出し、そのまま目を瞑った。
「……俺、久々に静かな家来たわー。つかダチんちっての初めて。あとこんななんにもねーとこも初めて」
古いアパートだから壁が薄く、隣の部屋からテレビの音が漏れて聞こえるが、鏑木の家周辺に比べると確かに静かだ。
幹線道路から少し離れているから、車の音も気にならないし、酔っ払いが騒ぐこともない。そして窓の外から差し込む派手なネオンの色もここにはない。
「すっげー居心地いいなー、木嶋んち……」
「おい、寝るなよ。眠たいなら風呂入れ。今、湯をためてやるから」
満腹で今にも寝てしまいそうな声に、俺は慌てて風呂の用意をした。
そういえば、俺んちは脱衣所がない。だから風呂に入るときは、一旦台所で服を脱いでから風呂に入る。そして台所には扉もないから、当然人前で素っ裸になる必要がある。
まあ男同士だしな。問題はない、はず。
「脱衣所ないのかよー。木嶋、見んなよ、エッチー」
脱衣所ないから台所で服を脱げと言ったらこれだ。
「見ねーよ! 早くいけ。お前が出たら、俺も風呂に入るんだからよ」
「じゃあ一緒に入ればいーじゃん」
「お前な。ここの風呂狭いんだよ。俺一人入ったらいっぱいなんだからさ」
「俺が風呂につかってるとき、木嶋が体を洗えばいーじゃんか」
「はぁ? お前、俺の体の大きさ知らねーのかよ。洗い場に入るともういっぱいいっぱいなんだよ」
「だから同時に洗い場に立たなきゃいーじゃん。交代で入るんだから大丈夫っしょ」
鏑木は小学生のお泊まり会のテンションで、風呂に一緒に入ろうとしつこく迫り、俺は根負けして結局一緒に入ることになった。
何が悲しくて狭い台所で、男二人肩を並べて風呂に入らないといけないんだと、ぶつぶつ文句を言いながら服を脱ぐ俺の横で、鏑木はふんふんと鼻歌まじりで服を脱いでいく。
「おい、制服シワになるからこっちよこせ」
「そんなの気にしたことないから、適当でいいって」
「ちゃんとかけるところあるから」
俺は鏑木が狭い台所の床に脱ぎ散らかした、ちょっとヤニ臭いヨレヨレの短ランボンタンを拾い、ハンガーにかけて鴨居に吊るした。
「へーこれ裏地紫色なんだな。つかヤニくせー。鏑木、服脱いだら先に風呂に入っていいぞ」
「そっかー? 風呂先に入っていーの?」
「おう。あ、そうだ鏑木。湯に浸かる前……」
洗い場でかけ湯してから湯船に浸れと言おうと振り向いた瞬間、鏑木の体が目に入り言葉に詰まった。
棒のように痩せた手足。筋肉のかけらもない想像以上にガリガリの体。そして体のあちこちにある小さな打ち身や傷跡が、その細い体と相まってやけに痛々しく見えた。
「おま、その体……どうかしたのか」
「はぁ? ……あーケガ? そんな目立つ? 俺よく喧嘩すっからなー。今日も暴れたしー」
ヒャヒャッと無邪気に鏑木は笑った。
だが、ここ最近鏑木からは大きな喧嘩をしたという話は聞いていない。
ケガの跡も、古いものもたくさんあるのかもしれないが、打ち身は最近できたもののように見えた。
「だけど——」
「それよりさ、やっぱ木嶋、体すげーな! ムッキムキじゃん!」
「……俺の体の話はいーんだよ」
その体じゃ風呂せめーのは当たり前じゃんとか言いながら、鏑木は風呂場に入っていった。
なんだか誤魔化されてしまったような気分だが、確かに今日は結構暴れていたし、今日ついたものだとも考えられる。
(酷いケガではないことは確かだし、しばらく様子をみるか)
「おい、浴槽に入る前に、ちゃんとかけ湯したか?」
「したした! はやく入ってこいよー」
ドアの外から声をかけると、ザバーという水が流れる音と楽しそうな鏑木の声がした。
じゃあ入るかとドアを開けるなりお湯をぶっかけられ、台所が水浸しになり、キレる俺の声がアパート中に響いたことは言うまでもない。
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