バッドエンド・タイムリープ!

Bee

文字の大きさ
上 下
16 / 69
2回目のリープ

16.絵画破壊事件2

しおりを挟む
「なあ、鏑木。何があったんだ」 
「……」 

 早足で廊下を歩く鏑木を追いかけるが、何を言っても鏑木は俺を無視して返事をしない。 
 ペタペタと平たい靴音を響かせ、夕日が差す廊下を無言で歩く鏑木。 
 さっきまでのブチギレ状態はおさまったようだが、不機嫌なことに変わりはなく、俺と話をしたくないないらしい。 
 だが走って逃げない様子を見ると、完全に嫌われたわけではないようだ。 

(……これ以上怒らせないようにしないとな……) 

 俺は鏑木を呼び止めることを諦め、黙って後ろをついて歩いた。このまま別れると、もう二度と口をきいてもらえなくなる気がした。だから鏑木の怒りが鎮まるまで、声をかけないことにした。
 お互い黙ったまま長い廊下を歩き、玄関から外に出ようかといったとき、外に出る手前で急に鏑木が振り返った。 

「……足」 
「……は?」 

 ブスくれた顔で、俺の足元を顎でしゃくった。 

「おめー絵の具踏んだろ」 
「はぁ? ……って、げっ」 

 廊下の床には、カラフルな色と泥汚れがミックスされた、汚い靴跡が点々と残されていた。
 おそらくさっき美術準備室で踏んだのだ。鏑木を追いかけようと慌てていたから、絵の具を避けて歩く頭がなかった。  

「あ~……まずったな」 

 シューズの裏は、踏んだ絵の具のせいで、スタンプのようにソールの柄がくっきりと浮かび上がっている。ソールと足跡を照合されたら、廊下を汚した犯人が俺だってすぐ分かるだろう。 

「掃除しないと怒られっかな」 
「別にいんじゃね? 松永が掃除すっだろ」 

 鏑木がそうヒヒッと意地悪そうに笑う。 

「いやー大変だろこれ掃除すんの」 
「いーんだよ。あいつのじごーじとく!」 

 やっと怒りがおさまったのか、そこにはいつもの鏑木がいた。 
 夕日が傾き、薄暗くなった階段で屈託なく笑う鏑木。 

「——なあ、鏑木。今日さ、うち来ねー?」 

 そんな言葉が思わず口をつく。 

「マジで。木嶋んち行っていいの?」 
「おーマジマジ。夕飯作ってやんよ」 
「マジかー。メシ何作ってくれんの?」 
「何がいい? 簡単なもんしかつくれねーけど」 
「簡単なものってなんだよ。おにぎりとか?」 
「おにぎりはあれで難しいんだよ。チャーハンとか、オムライスとか……?」 
「チャーハン作れんの!? スッゲーじゃん」 
「市販のチャーハンの素使うし、ちょっとベチャッてすっけどな」 
「ギョーザも食いたい」 
「焼くだけのでもいいか」 
「なんでもいい」 
「おし! ちょっと遠回りだけど激安タナカマート行ってウチに帰ろーぜ。……なんだったら泊まってくか」 
「おー泊まる泊まる!」 

 うちに泊まるかなんて冗談も、鏑木は素直に受け止め、嬉しげに俺の左肩にぶら下がるようにして肩を組んで歩き出す。 

「おい、ぶら下がんなって」 
「いーじゃん、おめーのほうが力持ちだし、背が高いんだからよー」 

 ヒャハハと笑いながらわざとぶら下がる鏑木に、さきほどまでの緊張感は感じられない。松永に対するあのブチギレはなんだったのか。 

(今日どうせ泊まるんだし、それとなく聞いてみっかな) 

 心の中で今頃教室を一人で掃除しているだろう松永にすまんと謝りつつ、俺は鏑木と冗談を言い合いながら汚れた靴のまま玄関の扉をくぐり、鏑木と裏門のほうに向かって歩いて行った。 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...